第百二十四睡 リイダアアァァァァァァァァァァァ!!!
「ふっ……次は私のボールですね。あなた方のエースを倒した私の実力なら……三人のうちの誰かをアウトにできる可能性は、ズバリ六割二分!」
ボールは秀才メガネのクトール。さっき見事な作戦でルシュアさんを沈めたトリッキーな厄介者。自信ありげなセリフの割りに確率低くね?
「では……次はそちらの黒髪のお嬢さんにしましょうか」
くそっ……ついにザミアが狙われたか。
ゴバーネイダーで身体能力は高いとはいえ、コイツはこういうのには慣れてないだろうし、かといってツタなんか出したら今度こそ反則だ。能力が使えないとしたらピンチ………。
ん、能力?
「ザミア……おいザミア」
俺は緊張に顔を強張らせているザミアの肩をポンポンと叩く。
「な、何ですの?今わたくしは狙われていて話す暇は……」
「分かってる。そんなお前にいい作戦を持ってきた。いいか、アウトになりたくなければ……能力を使え」
「え……しかしツタはさすがにシンパンさんが見過ごすわけが……」
「ちげぇよ。まだあるだろ、立派な能力が。あのな………」
俺は中腰になってザミアに耳打ちをする。作戦が思い浮かんだことに気付いたポラポラは、その間に俺たちの前に立ちふさがりしっかり守ってくれている。
「ええっ!?い、嫌ですわそんなの!恥ずかしい!!」
「俺を素っ裸であんだけ恥ずかしいこと言いながら殺しといて何を今さら赤面することがあるか。やれザミア、ここで追い抜かれるのはキツい」
「………わ、分かりましたわ」
しぶしぶ了承してくれたザミア。
「よし、いいぞポラポラ」
「ん?あ、あぁ、分かった……」
俺が作戦会議終了のアイコンタクトをとると、ポラポラが不審そうに俺を見ながら端の方に避けた。何だ、どうしたんだポラポラ?
それに代わって見えたのは自信満々にメガネを光らせるクトール。
「くくっ、相談は終わりましたか?では覚悟してくだ……なっ!?」
よし、予想通り効いてる効いてる。
ザミアの魅了魔法が。
クトールは恋に落ちてしまったかのように、妖しい淫気を放つザミアに見とれている。いや、落ちてしまったと言ってもいい。
「クトールさん……そのボール、わたくしに下さいませんか?もし言うことを聞いてくだされば……わたくしが貴方に、夢のような快楽を味わわせて差し上げますわ……」
「ゆ、夢のような……快楽……?」
ゴクリと生唾を飲み込み、クトールが好奇心と下心をむき出しにした卑しい顔で聞き返す。
「ふふ、そうですわ。心配いりません。わたくしが優しく、甘く、クトールさんを包み込んであげます。それからはクトールさんのお好きなように、あんなことやこんなことを……ね?」
トドメとばかりに、ザミアが少し服をはだけさせ、クトールを見据えた。
「ぐぷぁっ!!」
クトールは鼻血を噴水のように噴き出し、倒れそうになる。眼鏡がパリンと割れた。そのままフラフラとザミアに引き寄せられるように足を進め、微笑を浮かべるザミアに静かにボールを手渡した。
「ありがとうございます、クトールさん……では。とりゃああああああ!!」
「へ?ぐぎゃあああああ!!」
失敗は許されないと感じたのだろう。ザミアは魅了魔法を解除し、その瞬間に渾身の力を込めてクトールの腹部にボールをぶち込んだ。すげぇ、ドッジボールで螺○丸みたいな当て方すんの初めて見た。
ゼロ距離からの攻撃に反応することもかなわず、魅了魔法が解けて目が点になったクトールは、一発目でアウトになった脳筋のシュウとは逆方向に、しかし全く同じ体勢で飛ばされていった。
やっぱりか。そうだと思ったんだよな。
ああいうクトールみたいなキャラは……百パーセント、ムッツリスケベだって。
そこに魅了攻撃を得意とするザミアだ。相性バツグンなのは分かりきってる。
しかしあの決め方はカッコよかった。ゴバーネイダー、おそるべし。
「よくやったザミア。さすが俺をも負かしたチャームの使い手。でも客観的に見るとすげぇ恥ずかしいな」
「あっ……貴方がやれと言ったのではないですか!!わたくしだってあのようなこと……あっ、クトールさん、生きてらっしゃるでしょうか!?恥ずかしさも相まって、つい本気で……」
「大丈夫だ。ムッツリスケベは長生きするから。さて、おかげで俄然こっちが有利になった。あとはあの一人だけタッチが違うデカブツ野郎とリーダーのケンだけ……およ?」
俺とザミアが話し込んでいると、誰かが覚束ない足取りでこちらへ歩いてきた。
ゼクス=フェヒター(笑)のリーダー、ケンだった。この野郎、また物言いを……。あれ、なんか様子がおかしい?
まさか。
「あはあんっ、ザミアさま、愛しのザミアさまぁぁ……ボ、ボクにも!ボクにも今の激しいボール当ててくださいぃぃ……靴ナメでもなんでもしますからぁ……でへへへへへへ……!」
リ………リイダアアァァァァァァァァァァァ!!!




