第百二十二睡 食材目的
「これで4対4か……」
脳筋のシュウ、黴菌の醜がアウトになり、それぞれ一人ずつチームメイトが減ったことで、再び勝負は振り出しへ。
ボールは……確かクトールって言ったな。ペンより重い物持ったことなさそうなガリ勉君だ。
迎え撃つのはルシュアさん。クトールを冷たい目で見据えている。さっきの投球を見るからに、俺たちのエースと言ってもいいな。
さあさあ、見せてくれよお坊ちゃん。ルシュアさんをどう攻略する?その旺盛なドタマ使って考えろ。
すると、クトールが青空を目掛けて指差した。メガネがキランと光る。
「あ……ウサギが空を飛んでいます」
唖然とした。俺の今の顔、IQ測定したら20くらいだよ多分。
まあ、IQで言えばクトールも似たようなもんだけどな。とんだ見かけ倒しだ。所詮はガキだな。
空飛ぶウサギ? はっ、ちゃんちゃらおかしいね。そんなのでルシュアさんが反応するわけが……
「どっ………どこだどこだ!? どこにウサギがいるってんだ!?」
みゅーん。
クトールが指差した大空を、血眼になって見上げるルシュアさん。そして、存在もしないウサギさんを無様に探し続ける。
そこに投げ込まれたクトールのヒョロヒョロ球が、ルシュアさんの背中にポコリと当たってポトンと落ちた。
気付いた時にはもう遅し。ルシュアさんは地を転がるボールを見て、絶望したようにその場に座り込んだ。
そこに降り注ぐ甲高いホイッスル。
「なっ……なっ……何をしてんのよ、このバカルシュアアアアア!!!」
不甲斐ない最期を遂げた従者にカンカンのブス姫。
「ルシュアさん……」
「済まねえ、勇者さん、みんな。オレな……ガキん頃、ウサギを一匹飼ってたんだ。でも、世話すんの面倒になって放っておいて、ついに死なせちまった。ずっとそれが心残りだった。すったらもんだから“空飛ぶウサギ”と聞いて、ついアイツが……“ジビエ”が会いに来てくれたんだと思って、それで……」
感動的っぽい話だけど名前に愛無さすぎだろ。
「まあ、何がどうあれアウトはアウト。後はおめえさんたち三人に任せることにすっか。こんなこと言えた義理じゃねぇのはわかってんだが……勝ってくれ」
こうしてエースは早々に退場していった。背中から漂う悲壮感。
さて、一気に戦局が傾いたわけだが。
勝てんのかなこれ。




