第十一睡 ギャップ萌えこそ至高の萌えだよねっ
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。
俺はタラ子の両親である、国王と女王の待つという部屋へ向かう。
今さらながら、本当にどこを見ても素晴らしい城だ。思えば外観から他の建物とは比べ物にならないほど豪華だった。真っ白にも関わらず汚れ一つない堂々とした立派な姿は、俺の学校を引き合いに出しても何倍になるか分からないほどに大きかった。外のレッドカーペットは中まで続いており、廊下に僅かな隙間もなく敷き詰められている。よかった……俺、さっきのチモドキソウとやらの汚れがまだ落ちていないんだけど、上手くカモフラージュできてるっぽい。
照明は全てシャンデリアで、部屋数もとんでもない。窓の外を見れば、青空の下で美しく咲き誇る、見たこともない色とりどりの花たちが、城を取り囲むように庭一面から俺を見上げている。一体いくらかかったのか……計算するのもバカらしいくらいだ。きっと俺にとっちゃ天文学的な数字になるんだろうな。
タラ子は普段、ここで暮らしているんだよな? だとすれば相当育ちもいいはず……。何で布団を投げ出してヨダレを垂らして寝たり、胡座をかいておにぎりを食べたりしてるんだ?ところどころ口も悪いし。
「足が疲れてきましたか? あの奥に見える大きな扉がお父さんとお母さんの部屋です。あたしもこの城の中ではいい子ちゃんしっかり者キャラでいなければならないので、あなたも品行方正でいてくださいね」
「わーってるよ。国王を前に品行をねじ曲げられるほど力強くないし」
さっきからやけに実年齢よりぐんと低い扱いをされている気がする。何だろう、王さまを前に居眠りでもこくと思われてるのかな?冗談キツイっての。
俺は気を引き締めて大あくびをした。
王室の扉の前には、入口で見たよりも頑丈で屈強な鎧を着た男が二人立っていた。俺の姿を確認するなり、二人でその槍を交差させ、全力で俺を睨んでくる。見たところ双子だろう。顔がそっくりの強面ちゃんだし、身長だって二メートルは軽く越えてそうなラインでほぼ一緒だ。いや、デカく見えるのは二人とも、プロレスラーのようなとんでもない体格をしているからだろうか?ヤバい二人ともめっちゃ見てくる。なんだ、やるってのか? 俺の百烈命乞いが火を吹くぞ?
赤と金の扉は、俺が本当にここに入るべき人間であるかを品定めしているようにも見えた。幅だって俺の何個分か分からない。シンプルに怖い。初めてだ、扉に土下座しそうになったの。
「開けてください、お父さんとお母さんにこの方を紹介します。この方は、勇者さんですから」
(嘘)を入れるのを忘れるな。俺は勇者になる気なんてこれっぽっちもない。
門番は顔を見合わせると、タラ子に深々と頭を下げ、槍を扉からどかした。タラ子の権力えげつないな。
こうして俺は扉の前に立った。すると、中から何やら騒ぎ声みたいなのが聞こえる。俺は扉に耳をくっつけて会話の内容を確認する。
「……すわ……て……!」
「き……い………!」
扉はやっぱり分厚かった。こんなに耳を澄ませても全く内容が分からない。ただ、荒々しい女性の声が聞こえるため、とてつもなく怒っていることはなんとなく分かった。
「喧嘩してんのか、あんたの両親?」
「ああ、いつものことですよ。喧嘩と言えるかは分かりませんがね」
タラ子が右手をバッと上げると、門番が両側から扉をこじ開けるように引っ張った。見かけと分厚さに反してそんなに重くはないらしい。つかカッコいいな、その指示の仕方。俺もやってみたい。いつかやろ。
「へくちっ」
門番クシャミかわいっ。




