第百十三睡 結局マイナスよりゼロ
「ちょ……ちょ……ちょおおおっと待ちなさいよアンタたちぃっ!!!」
「うおっ!!」
くっそ、やっぱり慣れねぇよ。何回見てもデッカい声が出ちまう。絶対悪意があるだろ、このセーブ地点。
「な……………何してるんですか勇者さん、早くしないとポラポラさんが……」
「うわあああ!! な、なんやその恐ろしい顔はぁっ!!?」
「ちょっと! まだ登場して失礼な目にしか遭っていないんだけど!! いい加減にしなさいよアンタたち! アタクシを誰だと心得ているのよ!?」
三度目のやり取り。時間が戻ってるんだから当たり前だが、変な感じだ。俺だけが世界に置き去りにされているのか、俺だけが世界を置き去りにしているのか。
「驚いたか、ポラポラ? この人たちはレシミラ王国の隣国、ハルス王国に住んでいる、ブス=ヴィクトリア姫と、その執事であるルシュアさんだ」
「フ・ス!! アンタね、アタクシみたいなビューティフォーフェイスをブスだなんて、罰当たりもいいところよ!」
前回は普通に名前を読んでしまうなんて無礼を働いたからな。今度は間違えないように……と。
「んじゃ、お迎えいただいたところで行くかね」
「え……あら、やけに素直じゃない。そうよ、いくら勇者とはいえ、完璧超絶ウルトラ美少女のアタクシを崇めることに変わりはないわよね! こっちよ、早く来なさい!」
ムカつく。素直に従ったら従ったでこれだよ。顔飛んでいけばいいのに。どうせそんなんだったら顔ないほうが美人だよあんた。
「待てって姫様、あんまり急ぐと危ねぇべ。その美しい顔に傷でもついちまったら、責任取れねぇっての」
「ルシュアさん、アンタ……優しそうな顔してメッチャ残酷やな……」
ルシュアさんとポラポラもブス姫の後に続く。だいぶ流れが変わっちまったけど、大丈夫だよな?
「勇者さん」
俺も三人に続いて歩き出そうとした時、後ろからタラ子の声がした。
「ん、何だタラ子?」
いつもは遠慮なく言葉のマシンガンをぶっぱなすタラ子が、言いにくそうに口をモゴモゴとしている。たまにこういうところあるんだよな、この女。
「………どうしてですか?」
タラ子と俺の髪を、生ぬるい風が静かに揺らした。
「え、何が?」
「っ……いえ、何でもありません。呼び止めてしまってすみません。行きましょう」
隣を通り過ぎていくタラ子を、腕を掴んで引き留める。
「待てよ、勝手に終わらすな。何を言おうとしたお前」
「……今はお話しできません。忘れてください」
タラ子の細い腕を掴む力を強くする。
「忘れてくださいで忘れられりゃ苦労しないわな。言え。お前今度は何を……」
「おい輿ノ助、アイリ! 何しとんねん、早よ来んかい!」
イライラのスタート地点くらいに立っているポラポラが、荒めに言った。
「すみません、時が来たらちゃんとお話ししますので、今は何も聞かないでください。本当にごめんなさい」
「あ、おいタラ子……」
タラ子は腕を小さく振って俺の拘束から逃れると、小走りで俺から離れていった。
絶対変だ。また何か俺を貶めるようなことを企んでいるに違いない。
ザミアやミュガナッチェと同様、こいつにもしっかりと気を配っておかなければ。
でもなんか……違うんだよなぁ……。




