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第百十二睡 評価 : がっつき過ぎ


「バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッカじゃないの、あんた?」


 意識を取り戻した時、目の前にいたのは“全裸のザミア”ではなかった。顔面を豪快に踏みつけたいくらい腹の立つ煽り顔を俺に披露していた“ゴリ裸のババア”だっ


「ごぶちっ!!」


 俺は顔面を豪快に踏みつけられていた。


「ゴリラは基本的に裸ですけど。はあ……あんたって死人は本当にバカね! あまりにバカすぎて秀才に見えてくるわ!!」


「そ……そいつはどーも。てかそんなに怒んなよ。魅了の魔法まで使われたんだ。ただの人間が抗えるわけねぇだろ゛ぶちっ!」


 テスティニア様はそのまま俺の顎にスコーンと蹴りをいれた。


「え、なに、違うの? じゃああれか、ザミアにあんたの名前をバラしちまったことか。まあ確かに軽率な行いだったべぬ゛ずっ!!」


 そして鼻っ柱に踵落とし。


「いや何でそんな過激なの。口で“ブッブー”って言えば済む話じゃん。重すぎるだろ間違えた時の罰ゲームが。てかこれも違うってかい? じゃああんたは何をそんなに怒って……」


「誰が“乱暴なお年寄り”だボケナスがああっ!!」


 仕上げは襟をグイッと掴んで立たせての、全力グーパンチ。俺は声を出す暇もなく後ろ向きに吹っ飛ばされる。


「いってえ……いやそこ? 一番の怒りポイントそこ?」


「そこが一番重要でしょうが、バカ!! ザミア=マグレーヌの色仕掛けに乗ったことも、私の名前を教えたことも、あんたの命ひとつと引き換えになかったことになるでしょ! でもあんたが私を年寄り呼ばわりしたことで私に刻まれた心の傷は、何度コンティニューしても癒えることはない!」


「ははははは」


「何がおかしい!! はあ……もういいわよ! チンタラしている暇はないわ! さっそく反省会&作戦会議よ! そこに座んなさいエロ死人バカ!!」


 俺はしぶしぶテスティニア様の前に正座した。


「今回の総括を一言で言うとね……がっつき過ぎよ!!」


「だからそれはザミアが魅了魔法を……」


 テスティニア様の顔が一瞬で真っ赤になった。


「バッ……バカ! キ、キ、キスのことじゃないわよ、バカ! バアアアカ!! 死ねっ!!」


 すでに死人でごんす。


「そうじゃなくて……あんた、ザミア=マグレーヌを見るなり、単独で突っ込んでいったでしょ! あれのことよ!!」


「だって……」


「“能力的に相性バツグンの相手だということは一回目で確認済みだから”とでも言うつもりでしょ? 甘いのよ、バカ。子どもとはいえゴバーネイダーよ? 長時間相手に触れて少しずつ力を吸い取り、ツタを生やして終わりです、なんて、本当にそう思ったわけ?」


「う……」


 台詞をまるすっぽ先読みされて反撃の言葉を失う。


「ドレインキス……あの技は脅威よ。たとえツタで拘束されていなかったとしても、唇を奪われたら最後、死ぬまで力を吸い取られる。ドレインの名の通り、吸ったエネルギーは自分の物とすることができるみたい。おまけに魅了効果……厄介なことこの上ないわね。まあ、あんたみたいな腐れ無気力じゃない普通の奴等は、ある程度触れられただけでスッカラカンになるから、魅了なんてあってないようなものだけど」


「腐れ無気力で悪ぅござんしたね」


「ただ、その前まではいい流れだったわ」


「その前って……仲間にさせる作戦のことか?」


 テスティニアが


「ああん? なんてぇ、死人ちゃ~ん?」


……テスティニア様が小さくお頷きになったでごじゃりまする。


「うん……その通りよ。あんたは巧みな言葉で完璧にザミア=マグレーヌの信用を得ていた。それは間違いない。問題は……」


「あんたの名前を出しちまったこと、だろ?」


「そうよ! 何であんな余計なことするのよバカ!」


 結局それも重要なんじゃないか。踵落とされ損じゃないか。


「そうよ、じゃないっての。どうも、せっかく仲間になりかけてた奴に殺されるほど、俺があんたと内通してんのはヤバいことらしいじゃねぇか。一体あんた……何者なんだよ?」


「………ああ、もう! うっさいうっさい! だいたい何よあんた! 敵に骨抜きにされて無様に負け帰ってきた分際で偉そうなことばかり言って!」


「ぐっ……だから俺は永遠に天国暮らしでも別に敵わないって言っただろうが。それを“とにかく生き返らせるの!”とか言ってコンティニューさせてるのは他でもないあんただろ」


 俺は甲高い声を出してテスティニア様の真似をしてみせた。


「うっ……うるさいって言ってるでしょ、この変態! あんな幼い子どもの外見の魔物とあんな……あんなエッチいことして、恥ずかしくないの!? 何が“分かってる。俺がザミアに向けているものと違って、ザミアが俺に向けている愛は、偽りだってことぐらい。全部、分かってるんだ”よ! バカじゃないの!? 敵にメロメロにされてる癖にスカしてんじゃないわよ!! 死ね!」


 すでに死人でごんす。


「てか、意外とウブなんだな、あんた。さっきからキスとかの言葉に過剰に反応しすぎだろ」


「は、はあ!? ちょっと意味分かんないなぁ!! 別に私はキ、キシュ、キ、キ、キスぐらい、挨拶みたいなものだとおもっ、思って……」


 語るに落ちるとはよく言ったもんだね。


「黙りなさい!! ああ、もう! そろそろ行きなさいよバカ! いつまで居るのよあんた!」

 

 テスティニア様が地面を足でドンドンと叩いて俺に出発を促す。


「いや、まだヒントも何も……」


「ちっ……まあ確かにヒントをあげるのは約束だったわね」


 テスティニア様がやれやれといった顔でこちらに目をやった。


「ちょっとリスクは高いかもだけど……ザミア=マグレーヌに捕まってあんたが生き返りの秘密をバラす流れは、やっぱりあった方がいいわね。魔物である彼女が仲間になるのは色々と好都合だから」


「ただそこであんたの名前を出してはならない……」


「そう。逆に言えば、それさえ言わないでさっきみたいにしていれば、あんたは少なくともザミア=マグレーヌによって殺されることはない。あくまで私の憶測だけれど」


「あんたの憶測なら間違いなさそうだ。しばらくここに来なくて済むだろうね」


「ザミア=マグレーヌを仲間にしたとしても、のんびりしてたら……分かっているわよね?」


「ああ、そろそろハルス王国も観光し尽くしたからな。ミュガナッチェから上手く逃げて、先に進んでみせるさ」


「ねえ……何でそんなにザミア=マグレーヌを助けたいの? 彼女は魔物である上、こうしてあんたを殺したのよ? それを……」


 テスティニア様が不思議そうに聞いた。俺は長時間の正座による足の痺れに苦戦しながらなんとか立ち上がった。


「別に、悪い奴じゃなさそうだし、何より……人が多けりゃ俺の負担が減る」


「……バカ」


 テスティニア様が放った三度目の光は、いつもより少しだけ強い気がした。



 何回バカって言うんだよ。


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