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第百十睡 幽閉

 同じ道、何もない道を小一時間歩いて、俺たちはハルス王国までやって来た。


 国の人たちは、やはり変だった。何度見ても不気味な光景だ。大勢が上を見て半笑いでさ迷っている。まるで、空に自分が大好きなものが浮かんでいるかのように。とりあえず異様すぎる。最初見たときタラ子に言われるまでこれに気付けなかった俺も俺だけどさ。


「に゛ゃっ……に゛ゃにずんのよおっ!?」


 とりあえず掴んでおくか、この醜いフェイスを。


「何すんのじゃねぇっての。どこが荒れてるんだ? 平和一色じゃねぇか。それとも、お前みたいな野獣には、これが殺伐とした景色に見えてんのか?」


 油ギッシュで気持ち悪いから二度と持ちたくなかったけど、仕方ないな。


「お……おかしいわ! 今朝まではこんなに平凡な感じじゃなかったもん! ねっ、ルシュア!?」


「んだな、こればっかりは姫様の言う通りだ。確かにオレたちが出てくる前は、物も飛び交い、市民たちは殴る蹴るの大喧嘩。手がつけらんねぇからって、慌ててオメエさん方の所に来たってのに。なして急にこんな事に……」


「アンタらが離れとる少しの間に暴動がキレイさっぱり収まったっちゅうんか? んなアホな話が……」


「勇者さん、ここの人たちの様子、何か変じゃありませんか? ただ穏やかなだけには見えないんですが」


 さて、ここまで流れを一緒にすりゃ、完全に前回通りの展開になってくれるだろう。こっからはタイムアタックだ。テスティニアの言う通り……


「おや本当だ。皆が魂を抜かれたかのようにボーッとしていらっしゃる。こいつは一体どういうことだろうか? 皆目検討がつかない。何か心当たりはないかね……お嬢さん? そこにいんのは分かってんだ」


 一瞬で終わらせてやる。


 前を向いたまま、後ろにいるザミアに尋ねた。「そこにいんのは……」という、ずっと言ってみたかった台詞が一つ言えて満足した俺は、たぶん軽いドヤ顔でその姿を確認する。ザミアは少しだけ驚いた声を出すと、物陰からゆっくりと出てきた。


「あら……一番勘の鈍そうな貴方が最初に気付くとは……人を見掛けで判断してはなりませんわね」


 血色の悪そうな顔に慎ましやかな笑みを貼り付けたザミアが、長いスカートをつまんで俺たちに礼をした。


「わたくしの名前はザミア=マグレーヌ。ゴバーネイダーですわ。以後、お見知りおきを」


 今だ。



 俺はザミアに向かって駆け出した。


 ルシュアさんが殺されたのが、ブス姫と共に俺たちとは別行動をとったからであれば、その前……ブス姫がザミアに顔のことをイジられ何やかやあって逃走する前に、決着をつけるべきだと思う。


「何しとんねん輿ノ助、アホかアンタ!! ソイツ、ゴバーネイダーやねんぞっ!?」


「大丈夫だって、ポラポラ。そこで見てな」


 ザミアの能力は俺には効かない。それはタラ子と一緒に実証済みだ。


 殺しはしない。俺はこいつも助けてやりたいんだ。ミュガナッチェの魔の手から。


 ザミアが天使のようにニコリと笑った。その直後、地面から無数のツタが生えてきて、あっという間に俺に絡み付いた。


「貴方……わたくしのことを馬鹿にしておりますの?」


 ザミアは笑顔を絶やさずに俺に近寄ってきた。


「殺意もなければ協調性もない。そのような単騎での無謀な攻めが、わたくしに通じるとでもお思いですの? 実に不愉快ですわ」


 ザミアが真っ白な二本の腕を伸ばし、俺の両頬をふわりと包み込むようにして掴んだ。


「そこの貴方たちにも見せて差し上げますわ。わたくしの能力を……あれ?」


 目の前の少女の顔色が変わった。


「初めてか? 能力が通じない相手は」


「そんな、どうして……!?」


「お前の能力はドレインタッチ。その名の通り、触れた相手の力を吸い、私物化するもんだ。だがな……もともと超がつくほど無気力な俺には、そんな能力、通じないんだよ」


 俺は思い切り勝ち誇ったような顔をザミアにお見舞いしてみせた。


「待ちなさいよ! 何でそんなの分かったのよ、あんた!? そいつと会うの、初めてじゃないの!?」


「え………いやまあ、相手にこんなに優しく触る攻撃なんて、ドレインタッチぐらいしかねぇだろ」


 遠くにいるブス姫からの思いがけない鋭い指摘に、俺は早口で答えた。危ない危ない。


「ほれ、しまいかザミアちゃん? だったら大人しく降参して一緒に………」


 調子に乗り過ぎた俺の言葉を打ち消すかのように、突如地中から無数のツタがボコボコと大きな音を立てて出現した。それは近くにあるもの同士でガッチリと絡み合い、俺とザミアを囲むかのように伸びていく。


「輿ノ助っ!! おい待てやチビ女! アンタ何を……」


 こちらに走ってくるポラポラの姿も、間もなく見えなくなってしまった。


 そうして半径五メートルほどのドーム状に辺りを埋め尽くしたツタによって、俺とザミアは周りの世界から完全に隔絶されてしまった。


 声も光も届かない、真っ暗な空間に、眼前のザミアの姿だけが何故か鮮明に映し出された。


「どういうこった、これは……!?」


 彼女は俺の顔に触れたまま、戸惑う俺を見て、再び優しく笑った。


「ようこそ……二人だけの世界へ。さあ、たくさん愛し合いましょう……ね?」



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