第百九話 “知っておきたい雑学”よりも“知らなきゃよかった雑学”の方が知りたくなるのが人間
「ちょ……ちょ……ちょおおおっと待ちなさいよアンタたちぃっ!!!」
「うおおっ!!」
気が付くと、目の前にブス姫の顔があった。驚いて腰を抜かしてしまう。
「何してるんですか勇者さん、早くしないとポラポラさんが……」
「うわあああ!! な、なんやその恐ろしい顔はぁっ!!?」
「ちょっと! まだ登場して失礼な目にしか遭っていないんだけど!! いい加減にしなさいよアンタたち! アタクシを誰だと心得ているのよ!?」
あの時と同じタラ子、ポラポラ、ブス姫の反応。それを見て微笑むルシュアさん。みんな、生きてるんだ。皆を無惨な死へと追いやってしまった後悔と自責の念が、少しだけ、ほんの少しだけ、和らいだ気がした。
戻って……来たんだな。
コンティニューはこれで二度目か。何回やっても新鮮さは抜けないような気がする。過ぎ去った時間を取り戻すなんて、リアリティの欠片もない。
場面は……レシミラ王国を出て、ブス姫とルシュアさんと出会って、ブス姫のことを“犬のフン”って言った直後だな。
ていうかセーブ地点がブス姫の顔面の目の前ってさ……下手すりゃショック死ものだぞ。天国に忘れ物したみたいな早さで帰ることになるぞ。その場合はブス姫に殺されたことになるんだろうか。それを四回繰り返したらゲームオーバー。嫌すぎる幕引き。そうならないためにも早く慣れないとな。
「ポラポラ、初めて見るには刺激が強かっただろ? この人たちはレシミラ王国の隣国であるハルス王国に住んでいる、フス=ヴィクトリア姫と、その執事であるルシュアさんだ」
「ブ・ス!!……………あっちがっ……そうよ、合ってるじゃない、最初からそう呼びなさいよ!」
しまった。つい普通に紹介しちまった。そんでやっぱり反応とかがテスティニア様……あっちがっ……テスティニアと似てる。
「え、ブスなんですか? ブスなんですか? ブスなんですか? ブスなん」
「あーもう黙ってなさいよ腐れ王女!! だから合ってるって言ったでしょ! アンタたちが普段からブスだの犬のフンだの、アタクシに罵詈雑言を浴びせるから悪いのよ!」
ヤバいぞ、会話の流れが変わってきた。なんか“罵詈雑言”とかいう聞いたこともないワードも出てきたし。
「要約すると、宇宙などの無重力な空間でゲップをしようとすると、空気といっしょくたになった液体や固体まで一気に体内から放出されてしまうので、結果的にゲロと同じようになるってことですか?」
何も要約できてませんが。誰がいつ無重力の話をしたよ。お前わざと話を奇天烈な方向にねじ曲げようとしてない? あとお前曲がりなりにもヒロインなんだから“ゲップ”とか“ゲロ”とか軽々しく口にすんな。
くそっ……些細なことから未来が変わっちまうんだとしたら、さっきの反省を生かすためには出来るだけ同じ流れにしなけりゃならないんだが……このバカ天使のせいでだいぶ狂ってしまった。どうする?
「だーめだって姫様。初対面の人は姫様のあまりの美しさにビックリしておっ死んじまう恐れがあっから、こうして顔を隠しておかねぇと危険だって、口酸っぱくして言ったべ?」
おおっ、一言一句も違わない台詞回しで持ち直した。さすがルシュアさん。
「んで、依頼って何ですっけ、ブス姫? 整形でしたかね?」
そうと来れば俺も似たような台詞を……。確かこの頃はまだ敬語だったな。
「違うわよ! ハルス王国が荒れに荒れてるから何とかしろって言ってんの!!」
「あたしたち、急いでるんですが。世界滅ばないために、とっとと魔王倒さなくちゃいけないんで」
「しっ、知らないわよ! いいから早くなんとかしなさいよぉっ!!」
「んなこと言うたかて、国一つを鎮めるやなんて、具体的に何をしたらええんや、お姫さん?」
「そこなのよね……アタクシの美貌を以て抑制を図ったのだけれど無理だったわ。となると解決はかなり困難になってくるわね」
「抑制かと思った? ねえねえ、思った? 残念、促進でおまんがな」
「うっさいわねクソ王女! 引っ込んでなさいよ!!」
よしよし、ルシュアさんのおかげで軌道修正できた。でも同じやり取りを二回聞くのって変な感じだな。
「百聞は一見に如かず。面倒くせぇだろうけど、姫様の熱意に免じて、ここはお力添えを頼めるだか? なんせ、余所者のおめぇさん方に頼んなきゃいけねぇほど、相当ヤベェ状態なもんでな」
よしよし、やっぱり国一つを見殺しは後味が悪いからな。きっちり助けてみせよう。
それに……もう一度、ザミアとしっかり話をしてみたいからな。
「わーった、行くよ」
「なによ、最初からそうやってスバッと返事しておけば良いのよ! グダグダしないでよ、愛すわよ!!」
結局キラーワードは避けられないんかい。




