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第百五睡 両刀

「おっ……輿ノ助にアイリやんか! こっちやこっち!!」


 こんな広い国を適当に探し回るのは絶対に無理だと思ったが、ポラポラを見付けるのは楽勝だった。象徴的な噴水を囲う大きな広場を埋め尽くす、身の毛もよだつような人混み、そこに彼女はいたのだから。


 こちらに手をぶんぶんと振っているポラポラに、人波を掻き分け掻き分け近付く。


「ポラポラさん、無事だったんですね、良かったです」


「それはこっちの台詞や! いやいや、ゴバーネイダーとはいえまだ子どもやな! アイツの手に掛けられんとやり過ごした人たちがこんなに居ったわ!」


 その数、百人あまり。子どもだから、というより、一人一人に触れなければならない、ザミアの能力の欠陥だな。


 あるいは、戦いを望まなかったザミアのせめてもの優しさ……なのだろうか。



 それにしても……


「ポラポラ様、民たちが正気を取り戻したですじゃ。貴女のおかげで我々は助かりましたですじゃ。噂に違わぬ漾瑩姫の器量、しかと見届けましたですじゃ。心より感謝を」


「ありがとう、ポラポラさま! ぼく、おおきくなったらポラポラさまみたいにたのもしい大人になりたいな!!」


「ポラポラ様……今夜、あなたへのお礼を兼ねてパーティーを催したいと思うのですが、お時間はありますか?」


「ポラポラ様、ばんざーーい!!」



 何だろう、この虚しさ。



 いや別に「おいてめえら、魔物と戦ったのは俺たちだぞ! そんな奴より俺たちを讃えるがよい!」なんて無粋なことを言うつもりはないし、ポラポラが傍にいて皆を護ってくれていたのは事実だよ?


 でも何か……釈然としねぇ。


「いやあ、なんやよう分からんけど、えらい懐かれてしもたわ! 昔っからこうやねん、ウチ! 何でやろなぁ?」


 俺と違って日の光が当たるところで生きてるからじゃないかな。


「てかアンタらどないしたんや、その体についた緑の液体? なんや変な匂いすんねんけど……?」


「「敵の攻撃だ(です)」」


 完璧なタイミングでシンクロする俺たちを、ポラポラは不審そうに見つめた。


「ほーん……まあ無事やったらええけど。そんで、どないなったんや? あのザミアとかいう女、倒せたんか?」


「ああ……それなんだけど……」


 ザミアの首が宙を舞う光景が、頭の中で何度もリピートされる。その直前の彼女の言葉とともに。



『わたくしは、貴方の事が……』



 何を、言うつもりだったのだろうか。


 ザミアは言った。“仲間がいない”“生きていくのが精一杯”“他人と何かをするのは初めてだった”と。



 そして……“楽しかった”と。



 そのザミアは、ミュガナッチェに……。



「輿ノ助? どないしたんや?」


「端的に言えば……ザミアは仲間に始末されたよ。首を刎ねられて……な」


「なっ……仲間って誰やねん!? まさか、ゴバーネイダーがもう一体来よったんか!?」


 食い気味に尋ねてくるポラポラの威圧だけで、疲れきった今の俺は倒れてしまいそうだった。


「ああ、魔王配下の四天王筆頭様がいらっしゃってな。ダメかと思ったが、タラ子が難なく倒したよ。今ごろ冷凍マグロだ」


「!!」


 ポラポラの顔があからさまに強ばった。


「四天王筆頭って、まさか……!!」




「ルシュアあああ!! ずっと一緒に行動してたのに、何で急にいなくなったのよおおお!?」




 ポラポラの発言を遮る、しわがれた声。見ると、汗だくになったブス姫が、息を切らしてキョロキョロと首を動かしながらこちらに走ってきていた。あの顔でだんだん近寄ってくるの怖いな。ホラー映画みたい。


「どうしたブス姫、そんなに焦って? 鏡でも見ちまったのか?」


「違うわよ!! そう言われると思ってわざわざ説明口調で叫びながら来てあげたんだから一発で話進めなさいよ! ルシュアがいないのよ! いきなりフッと何処かに行っちゃって……もう、どうしたらいいの!?」


「なるほど……でしたら毎日お風呂上がりとかに、十五分くらいマッサージしたらどうですか? 血行がよくなって整うと思……」


「顔の事じゃないわよ!! あと毎日マッサージしてるわよ! やってコレなのよ!……コレって何よ!!」


 相変わらず忙しい人だな。


 しかし、何だ。いつも何だかんだでブス姫に付きっきりのルシュアさんが突如いなくなった……か。確かにただ事じゃあなさそうだな。それはブス姫の様子からも分かる。


「で、ルシュアさんと離れたのはどこなんだ?」


「こっちよ、ついてきて!」



「タラ子、暇だからしりとりでもするか」



「ついてきなさいよ!! 何で場所聞いただけで終わろうとしてんのよ!!」


 急ブレーキをかけて、瞳孔ガン開きで俺に怒号を浴びせるブス姫。


「うるせえな……ちゃんと国を平和にしろってお願いは叶えてやっただろうが。第一、ルシュアさんに何かがあったって決まったわけじゃないし。すぐ帰ってくるかもしれねぇだろ。そう何個も何個もタダ働きしてやれるほど暇じゃ」



「契るわよ」



「今行くぞ、無事でいてくれ……ルシュアさん!」



「頑張ってくださいね、勇者さん、ブス姫。あたしはここで仮眠とっておきま」



「アタクシ……女もイケるわよ」



「オーケイ、プリンセス。このアイリ=クルディアーナ、必ずやルシュアさんを探し出してご覧に入れましょう」




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