スーパー愛煙家
またかよ……。
これだから喫煙者は……。
まったく迷惑だな……。
オフィスに隣接する喫煙ルームへと、足早に向かう佐々木光三の背中に、厳しい視線と心ない陰口が突き刺さる。
一面を透明なガラスで仕切られた喫煙ルームは、まるで見世物小屋だ。いつから愛煙家は、こんなに肩身の狭い思いをするようになったのだろうか……?
窓際族へと追いやられて早五年。ベテラン社員の佐々木は、真面目な男であった。女遊びもせず、ギャンブルもしない。唯一の趣味といえば、この煙草だ。
けれど、社会の健康志向が強くなるに連れ、愛煙家への風当たりは厳しくなり、いまやどこもかしこも禁煙禁煙。
家では家族からも文字どおり煙たがられ、ベランダで吸っても、狭いマンションではすぐに苦情が来る。
全く、何がいけないというのか……。
吸わないヤツらには分からんだろうが、煙草は集中力を高めて、人間の持つ能力を引き出してくれるんだ。そんな喫煙者の力があったからこそ、社会はより発展してきたんだ。言い換えれば、煙草がこの便利な現代を作ったと言っても過言ではないじゃないか。
なのにこの仕打ちだ。
吸わない人間は、自分たちのほうが偉いと思ってやがる……。
だったら――――俺が、それを覆してやる。
見ていろ。今からお前たち以上の働きをしてやる。煙草の力ってやつが、どれほど凄いかを思い知るがいい。
吸殻を灰皿へ押し付け、喫煙ルームを飛び出した佐々木は、自分のデスクに戻ると、心の誓いどおり、凄まじい速さで事務作業をこなし始めた。
――うおおおおおっ! どうだ? 恐れ入っただろ! ふははははっ――――。
そして十五分後。
一息ついた佐々木は、デスクを立ち、「またかよ……」という批難の声を浴びながら、喫煙ルームへと向かうのだった――――。
―――――――――――――――――――――終
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
しかし…文章によるギャグは、ウケてるのか滑ってるのか、分からないのが怖い…。