初詣
今日は、彼と駅で待ち合わせて初詣に行く予定。
…で、着なれない振り袖なんか着たりして…。
もう一度、姿見で可笑しくないかチェックする。
「お母さん、変じゃない?」
「それは、お母さんに対しての侮辱と見なすわよ」
って、苦笑してる。
「でも…」
「大丈夫。ちゃんと着こなせてるわよ」
お母さんが言う。
「はい、巾着とファー」
そう言って、手渡してくる。
「早く行かないと、間に合わないわよ」
私は、時計に目をやる。
待ち合わせギリギリだ。
「玄関に草履出してあるから、それを履いていきなさい」
「はーい」
私は、和室を出て玄関に向かう。
「馬子にも衣装だな」
すれ違い様にお兄ちゃんが言う。
「どうせ、似合わないもん!」
そう言い放って、玄関で草履を履く。
「行ってきまーす!」
元気に掛け声をかけて、玄関を出た。
駅にやっとの思いで辿り着く。
エッ…と。
紫音くんは何処だろう?
人混みの中をキョロキョロと探す。
あっ…居た。
って、女の子に囲まれてるし…。
どうしよう…。
出ていきにくい。
楽しそうだなぁ。
「梓!」
背後から声をかけられた。
振り返る。
「なーんだ、直樹か…」
「なんだじゃねぇよ。そんなめかしこんで、何処行く気だ?」
「これからデートなんだ」
私が言うと。
「がさつで、大雑把な梓が、デート?わらっちまうぜ」
直樹は、本気だとは思っていないらしい。
「嘘じゃないって…」
「相手は、何処に居るんだよ」
直樹に言われて。
「あそこに…」
って、目線を向けた。
…………が。
あれ?
居ない。
「居ないじゃん」
まさか彼女達と。
私が青くなってると。
「梓、遅いよ」
って、背後から抱きつかれた。
キャッ…。
「紫音くんゴメンね。思ってた以上に歩きにくくて、遅くなっちゃった」
私は、彼を見て言う。
そんなやり取りを見てた直樹が、顔面蒼白になってる。
どうしたんだろう?
「梓、こいつ誰?」
紫音くんが、私を背中に隠すように立つとそう言いはなった。
「あ、えっと。近所に住んでる鈴木直樹くん。中学まで一緒だったんだ」
私が言うと。
「ふーん。梓と付き合ってる、流崎紫音です。よろしく」
紫音くんが、牽制を張ってるのがわかる。
そんな事しなくてもいいのに。
そんな紫音くんに我に戻った直樹が。
「あ、どうも。鈴木直樹です」
って、頭を下げてる。
って、あなたたち口元は緩んでるけど、目が笑ってないよ。
二人とも、怖いです。
「梓、そろそろ行こうか?」
紫音くんが私に振ってきた。
「えっ、あ、うん。直樹、またね」
紫音くんが私の肩を抱くと、歩き出した。
神社に向かう間、紫音くんが。
「あいつ。梓のこと好きなんだな」
って、ポツリと呟いた。
「そんな事ないと思うよ。って言うか、そんな素振り見た事ない」
私は、そう言い返した。
直樹にとっては、私はいじめの対象だったし…。
「じゃあ、なんで何時もと違う格好の梓に声をかけれたんだ?」
紫音くん、もしかして嫉妬してる?
「だって、直樹。私の振り袖姿、今日が初めてじゃないし」
「それって、あいつは何度も梓のその姿を見てるってことか?」
「そうだよ。毎年新年には、振り袖着せられてるし…」
「ふーん。梓のその姿、俺だけのものにしたいんだけど…」
これって、独占欲丸出しじゃ…。
「それは、無理だよ。私、自分で着付けできないもん」
「そうなのか?」
「うん。だって、これお母さんの練習代なんだよね」
「はっ?」
紫音くんが驚いてる。
「あっ、うちのお母さん。着付けは年一回確認のために私に着付けてるだけなの。だから、自分でしろなんて言われても困っちゃうんだけど…」
「うーん。でも、梓の振り袖姿は、他の男に見せたくない。特に同世代に」
紫音くんが、真顔で言う。
フフフ…。
そんな風に思ってもらえるなんて…。
「梓。絶対に俺から離れるなよ。ここから混んでくるからな」
紫音くんが、私の肩を強く抱いていた。
参道への道を辿って歩いていた。
彼も一緒のはずだったのに…。
はぐれてしまった。
アレ?
紫音くん、何処だろう?
私は、人混みの中をキョロキョロ。
辺りを見渡してるが、見つからない。
アレ…?
まさか、私、迷子ちゃん?
って、どうしよう…。
知らない人ばかりで、怖い…。
とりあえず、参道から外れる事にした。
参道から少し離れたところから、彼を探す。
…が、見つからない。
いったい何処に…。
不安が胸に押し寄せてくる。
嫌だ…。
もしかして、帰っちゃった?
私は、涙を堪えながらもう一度彼の姿を探す。
「君、大丈夫?」
って、声をかけられて。
「あっはい。大丈夫…です」
私が答えると。
「大丈夫じゃなさそうだけど。もしよかったら、あっちの焚き火で、温まっていけばいいよ」
って、指を指して言う。
うーん。
「おかまいなく」
私は、そこからそそくさと逃げる。
「梓ー!!」
って、声が聞こえてきた。
「紫音くん?」
「梓ー!」
紫音くんが、走ってきて私の目の前に現れた。
「紫音くん」
紫音くんの顔を見たとたん涙が溢れてきた。
「やっと見つけた。いったい何処に行ってたんだ」
紫音くんが、私を抱き締めながら言う。
「ごめんなさい。気づいたら離れちゃってた…」
「ったく。心配させるなよ」
紫音くんが、涙を拭ってくれる。
「…で、なんで泣いてるんだ?」
「不安になっちゃって…」
「何に対して?」
「紫音くんが、私に呆れて、嫌いになっちゃったんじゃないかって…」
私は、俯きながら言う。
「そんな心配してたのか?」
「だって、紫音くん人気者だし、私みたいな子と無理して付き合ってるんじゃないかって…」
自分で言いながら、虚しくなる。
「バカだなぁ。俺から、梓にコクったんだぞ。そう簡単に離すわけないだろ」
紫音くんが、笑顔で言う。
「本当に?」
「あぁ、梓だけだよ」
って、紫音くんが私の頬に口づけてきた。
ヤバイ。
顔が、火照り始めた。
「梓。参拝したのか?」
紫音くんの言葉に首を横に振る。
「じゃあ、もう一度並ぶぞ、ほら」
紫音くんが、腕を軽く動かす。
「?」
私が不思議に思ってると。
「梓は、俺の腕をつかんでで」
そう言って、私の腕を自分の腕に絡めると。
「行こう」
紫音くんの笑顔で言うから、私も笑顔になる。
「うん」
紫音くんのエスコートでもう一度参道に並ぶ。
そうだ、まだ言ってなかった。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」
私が、笑顔で言うと。
「おめでとう。こちらこそ、よろしくな」
紫音くんが、笑顔を返してくれた。