The girl of a sword and a shield Ⅸ
「おき――て――」
肩を揺さぶられ、誰かが声をかけてくる。
「ほら、起きてアルク」
重たい瞼を持ち上げると、幼さがうっすらと残った端正な顔が目の前にあった。
鼻と鼻が触れ合いそうな程に近い。
燃えるような真紅の瞳と視線が重なる。
「やっと起きたのね、おはよう」
「おはよう……ところでお前は何をしているんだ?」
「昨日、シャワーも浴びずに寝てしまったから、シャワーを浴びてきたのよ?」
言われて見れば、レイシアの髪の毛は湿っていて、薔薇の香りに似たシャンプーの匂い鼻腔をくすぐる。
髪から零れ落ちた雫が、剥き出しの肩を伝う。
って、レイシア……バスタオル一枚しか身につけてないじゃないか。
覆い被さる様な体勢なので、レイシアの程よく膨らんだ二つの果実が、否が応でも視界に入ってくる
「そうじゃない! この状況を説明しろって言ったんだよ!」
「そんな野暮な事を聞くのかしら? 流石に口に出すのは恥ずかしいわ」
そう言って、密着しようとしてくるレイシア。
身の危険を感じたので、レイシアの華奢な肩を掴み、勢いで体勢を入れ替える。
「きゃっ! あ……き、きょ!」
急にレイシアは顔を真っ赤にして、奇声を上げる。
行動権をレイシアから奪った所で自由になる。しかし、立ち上がろうとしたところで、バタン! と廊下に繋がるドアが勢いよく開いた。
「ただい……ま」
手に持った革製の鞄が床に落ち、衝撃で留め金が外れて中身が飛び出す。
「な、何をやってるの?」
レイシアにしたのと同じ様な質問だ。
シエルは顔を真っ赤にし、握った拳がぷるぷると震えている。おまけに、口元が引きつっている。
自分の状況を確認してみると、大変な事になっていた。
体勢が逆転した事により、俺がレイシアに覆い被さっている形になる。
内股に閉ざされたレイシアの股の間には俺の膝が挟まり、奇妙な言葉を発していたレイシアの目尻には涙が溜まっていた。
おまけに、レイシアはシャワーを浴びたばかりで、裸にバスタオルを巻き付けているだけの状態である。
はたから見れば、完全に俺がレイシアを襲っている絵面に見えるだろう。
……どうしてこうなった。
「ちが、待て落ち着け。誤解なんだ!」
「何が誤解よ! 変態! 淫乱大魔王!」
「だから誤解だって言ってるだろ! レイシア、お前からも説明しろ!」
しかし、当のレイシアはと言えば、
「きゅう……」
この様だ。なんでお前は肝心な時に役に立たないんだよ!
「も、もう知らない! せっかく補修の休みに会いに来てみれば! アルク達は今日はお休みだもんね! バカっ!」
散らばった教科書やノートをかき集めながら、早口にまくし立てる。
「バカ!」
最後に、手に持った紙袋を投げつけてきた。
避けようにも、キャッチしようにも、レイシアが太股と手でがっしりと俺を固定しているので、身動きが取れず、顔面で受け止める羽目になった。
さらに、レイシアの整ったお顔にも紙袋が直撃した
「お、おい待てって、どこ行くんだよ!?」
「午後の補修に校舎の外! バカ!」
そう言ってシエルは飛び出してしまった。
「……まったく騒々しいわね」
紙袋のおかげで我に返ったらしいレイシアは、シエルの背中が消えるのを見届けてからぼやいた。
「いや、お前のせいだからな! 後、早く服を着ろ! 服を!」
「もう……せっかちなんだから」
レイシアは自分の寝室へと引っ込んでいった。
俺も着替えを済ませて、寝室を出る。リビングのソファでくつろいでいると、
「待たせたわね」
フリルが散りばめられ、丈が膝上までの黒いワンピースを着たレイシアが戻ってきた。
「その紙袋は……?」
「そういや、そうだな」
レイシアに言われて気づく。
早速開けてみると、中には割れたクッキーが入っていた。割れているのは勿論、俺が顔面で受け止めたせいだ。
それにしても、クッキーか。
「美味しいクッキーね」




