The girl of a sword and a shield Ⅵ
昼食と談笑を挟んで午後の授業。組み手だ.
「では、対戦相手を決めろ。誰でもいいぞ!」
筋骨隆々とした講師の合図で、授業が始まる。
対戦相手を決めるというのだが、セイン達の姿が見当たらない。
あいつら何処に行ったんだ? トイレに行きたいとシエルが言いだし、付き添ったらこのざまだ。
校舎から離れた高原なので見晴らしは良いのだが、クラスⅢ、Ⅳとの合同授業らしく、如何せん人数が多い。
また別の機会に戦ってやればいいか……。
「ちょっと良いか?」
考えごとをしていたら後ろから声をかけられた。声から判断するに男。ただし、レイズではないな。
振り返ると、赤い髪の男子生徒が立っていた。すらっとした体格で、身長は俺と同程度。
「何か用か?」
「弱そうなのは引っ込んでろ。俺の用があるのは、そっちの貴族だ」
男は吐き捨てると一瞥もせずに、レイシアの元に歩み寄る。
いけ好かない奴だ。こういった行動をとるのは自分を過大評価している貴族だろうな。
中身は戦闘狂だが、レイズの方がよっぽど貴族らしい。
「お前、強そうだな。俺と戦えよ」
すると、レイシアは半身に構え、引き絞った右ストレートを男の顔面に叩き込んだ。
いやいや、確かにコイツはムカつく奴だけれども、今のはやり過ぎだろ。今のはっ!
「アルクの事を悪く言ったら容赦しないわよ。訂正してちょうだい」
鼻を押さえて呻く男に、冷たい視線を向ける。
「ぐっ――、何て事しやがる! くそが! おいエリィ!」
口元を拭い、こちらを睨みながら女子生徒の名前を呼んだ。
「……はい、マスター」
トコトコと駆け寄ってきたのは、青色の髪をツーサイドアップに結んだ背丈の低い女の子。包帯を額に巻き、眼帯を付けているのが印象的だ。
「武器になれ!」
雑な扱いに表情一つ変えず、エリィと呼ばれた少女は武器に変身する。
「おい、クラスⅣとイレギュラーが戦うらしいぞ」「え、イレギュラーが?」「こりゃ授業どころじゃないな!」
ざわざわ。水色の直剣を携えたヴェントと、俺達の周りにはいつの間にか人集りができあがっていた。
トイレを済ませたシエルが人混みをかき分け、小走りで駆け寄ってくる。
「え、な、何事!?」
「寧ろ、こっちが聞きたい」
「あ、あいつ……クラスⅣのヴェント・ブラドールっ!」
デュミナを携えた男を見てから、視線を俺に戻す。そして、実に嫌そうな顔をした。
「アイツがどうかしたのか?」
「クラス0(わたしたち)を凄いバカにするの」
自分より弱い連中をこけにするタイプか。つくづく嫌な奴だな。
「ほら、お前も武器を持てよ」
ヴェントを一瞥してからレイシアは踵を返して、背中を向ける。
「何だよ、逃げるのか!?」
「私はデュミナ。貴方の相手はアルクよ」
完全な飛び火だろ。俺は何もしてないんだが? それと、ヴェント。お前はそんな憎しみの籠もった目で俺を見るな。
「さぁ、アルク。あいつをボコボコにしましょう」
正直勝手にやってろと言いたいところなんだが……。
「そんなパッとしない奴が俺に勝てるとでも? くははっ、傑作だ!」
この態度は、流石にイラッとくるな。
「いいぜレイシア。俺もカチンときた」
差し出されたレイシアの手を握る。光を纏ったレイシアは一瞬で漆黒の銃へと変身した。
「大丈夫なの? 相手はクラスⅣ。クラスⅡじゃ叶いっこない!」
シエルが心配そうに見上げてくる。
「クラスⅣだか何だか知らないけどな、俺は負けねぇよ」
それだけ言って、ヴェントの方を向く。
レイシアが武器に変身した事で、周囲の生徒達がある程度の距離を作ってくれた。生徒達に紛れて、講師までもが観戦してやがった。
程なくしてセイン達の姿も確認。視線が合おうと、手を振ってきた。
そういえば、俺達の実力が見たかったんだよな? 見せてやるよ。
「お前、クラス0の無能共と知り合いなんだな。くく、実に笑える」
「お前さ、いつか足元を掬われるぞ?」
「ほざけ!」
剣を下段に構えたヴェントは、地面を踏み込み、一直線に突っ込んでくる。
踏み込みの速度、剣を振るまでのモーション。確かに、動きは早いし、正確だ。
ただ、それが実戦の動きとして正しいかは別だけどな。
切り上げる一瞬前に、半歩踏み込み、密着状態に持ち込む。
これで、お前の攻撃は当たらない。
銃の底で殴打してやり、視界を俺から外す。
「っぐ!」
実戦で敵から目を離すなんて致命的だ。隙も生まれるし、胴体もがら空き。攻撃してくださいと言ってるも同然だ。
足を絡めて重心を崩し、ヴェントの身体を地面に叩きつける。
さらに、剣を持つ右腕を踏みつけ、頭部に銃口を突きけた。
チェックメイト。これ以上の戦闘続行は不可能だろう。
『口だけの男は嫌いだわ』
同感だ、レイシア。
ここまで呆気なく片がついてしまうと、馬鹿らしくなってきた。
「視界を奪う、武器の無力化。実戦の基本だ。覚えとけ」
ヴェントを解放してやり、ぼけーっとしているシエルの元に戻る。
なんだよ、その意外そうな顔は。ちょっと傷つくだろ。
「あ、あんた意外に凄いのね。そうだ! ほら、手出して」
「ん。こうか?」
両手を出すとパチンと気持ちの良い音を鳴らしてハイタッチしてきた。
シエルのハイタッチを皮切りに、周囲から歓声が巻き起こった。
クラスⅣで貴族。それでいてあの態度だからな。それなりに反感をかっていたんだろう。
シエルの喜び様がそれを物語っている。
ヴェントはというと、さっきの攻撃で気を失っていたらしい。大の字に伸びていた。




