The girl of a sword and a shield Ⅴ
数日後、シエルのクラス変更手続きや俺達の制服、教科書の調達など、忙しい日々が終わり、本格的に学園の生活が始まった。
午前に座学、午後には戦闘訓練などの実技。というカリキュラムらしい。
円形に広がる、階段状の広い教室では教師が講義をしている。アッシュグレイの髪をアップスタイルでまとめ、眼鏡をかけた女性の講師だ。講義内容は、魔導部門の一つ、龍種学。
左に座るシエルは板書された内容を一生懸命ノートに書き写しているが、右に座るレイシアは退屈そうに外を眺めている。まじめにやれよ。
「では、セイン・クロイツ。貴方に答えて貰いましょう。龍とはなんですか?」
指名されたのは、俺の一つ前の席に座る女子生徒だ。腰まで届くであろう長い茶色の髪を、背中当たりでリボンで結った少女だ。その隣に座るパートナーは金髪の男子生徒。
「刻印を強化するための素材です」
セインはそれだけ答えると、直ぐに席に着いてしまう。
「確かに、龍から採取できる龍結晶は、魔力を抽出すれば刻印を強化できますが……。戦闘バカの貴方に聞いた私が至らなかったです。では、代わりに……」
講師の視線が止まったのは、熱心にノートを書いているシエルだった。
「シエル・ミストリア。龍とはどういった生物ですか?」
指名され慌てて席を立つシエル。
緊張しているのか、拳を作る小さな手がぷるぷると震えている。
「え、えっと。異次元から突然現れる魔物で、硬質な鱗で全身を包み、大きな翼を保有している魔物です」
「良い回答です、座ってけっこうですよ」
シエルは着席すると、はぁと深く息を吐いた。
「龍の行動原理は“破壊”これに限ります。龍は魔法を行使できる上に、上位種の龍は、驚異的な再生能力を持ちます。これを倒すには、心臓部の核を破壊する必要があります。この龍核を破壊しない限り、龍が絶命することはありません。また、魔法を無力化するには頭部にある、角と呼ばれる結晶状の器官を破壊すると良いでしょう。下位の龍には核が存在しないので、心臓を止めるだけで絶命させる事が可能です」
リゴーン、リゴーン、リゴーン。
ここで授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。講師は机に並べた資料をまとめ、そそくさと教室を出ていった。
「……ふぁ」
レイシアが口元を隠しながら大きな欠伸をする。
これでやっと昼休みか。座学っていうのはなかなかに辛いな……。
席を立とうとしたところで声をかけられた。
「貴方たちが噂の転入生、それにクラス0(ゼロ)の」
話し駆けて来たのは先ほど指名されていた、セインとかいう女子生徒だ。
端正な目鼻立ちをした切れ目の少女。可愛いというより、美人の方が適切だろう。
「噂かどうかは知らないが、確かに転入生ではあるな」
「噂になってるよ。学園に入学する前から契約しているイレギュラーだって。ま、イレギュラーと言えばその銀髪ちゃんもなんだけどね」
シエルの事か。当の本人はノートや教科書を胸に抱きかかえ、小動物が威嚇するようにうーっと唸っている。全然怖くないし、むしろ腰が引けてるぞ。
「そんな警戒しないでくれよ。大丈夫さ、ボクは強者にしか興味はないからね」
こっちはセインのパートナーか。制服を着崩して着用している金髪の美少年だ。言動はアレだが、立ち振る舞いや、容姿が相まって貴族の様に見える。
「ボクはレイズ・ノーウッド。セインのパートナーだよ。よろしくね、イレギュラー」
「俺はアルク・バルハートだ。よろしく」
レイズが手を差し出してきて握手を交わしたところで、身を乗り出してくる。
「ところでさ、君達。強いんだろ? 午後の組み手で一戦どうだい?」
「私も気になるな。いいね、お手合わせ願うよ」
講師が口にしていた戦闘バカってのは本当らしい。どうにも好戦的だなコイツらは。
「あら……試してみる?」
微妙に人見知りを発揮していたレイシアだったが、戦闘の話題になって混ざってきた。
そういえば、レイシアにも戦闘狂の気があるんだよな。
「いいね、キミ。気に入ったよ、名前は?」
「レイシア・ウェンディアよ。以後お見知りおきを」
そう言ってスカートの端を摘まんで、いいとこのお嬢様よろしく優雅にお辞儀をする。
勝手に盛り上がる三人に取り残され、置いてきぼりをくらった俺とシエルは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「こんな所に居続けても何だし、食堂に行行かない?」
「そうだね、ランチにしよう。キミ達も一緒にどうだい?」
流されるまま、昼を共にする事になった。
まぁ、この学園の構造をまったくもって知らない俺達には、普通にありがたい。
セイン達に案内されて食堂へと向かうが、道が複雑過ぎて覚えれる気がしない。 しばらくはコイツらに案内してもらうしかなさそうだな……。
学園の内部構造は、外から見た光景に似合った複雑さだ。
「そういえばさ、銀髪ちゃんとはどういった関係?」
先導するセインが体勢を変えずに質問してくる。
「パートナーだ」
「へぇ、じゃレイシアちゃんは?」
「ふふ、アルクのお嫁さんよ」
レイシアが割り込んでくるが、お前またそういう事を。
「お前は誤解を招く様な事を言うな! ただのパートナーだ」
「まさか、二重使役を完成させようだなんて。あはは、やっぱ貴方達って面白いや。ねぇ、レイズもそう思わない?」
「あぁ、ゾクゾクするよ。……おっと、着いたよ」
大きな扉を開いた先の大部屋には、全長三十メートルはありそうな四つの長机が整然と並べられ、その上には様々な料理がのっている。
「ボク達クラスⅡは、左から二番目さ」
「席に決まりがあるのか?」
「ちゃんとあるよ。左からクラスⅠ、一番右はクラスⅣ。学位も身分も関係ない。実力のみで決まってるのさ。実に良い制度だと思わないかい?」
それには同感だとは思うが……。
「クラス0ってのには、席がないのか?」
「答えてあげたいところだけど、ボクは弱者に興味がなくてね……。キミのパートナーの方が詳しいと思うよ?」
レイズは長めの横髪を指に絡めながら曇った笑みを浮かべた。
「まだ授業中。あたし達の食事は皆が食べ終わった後」
実力制度故か。他の生徒から遅れをとっている分、カリキュラムの密度も増すわけだな。
「とりあえず、座りましょう? お腹が空いたわぁ」
レイシアはそう言ってクラスⅡの椅子に座った。そして、足首まで伸ばした長い金髪をうなじ辺りで結わく。
「まずはランチといこう。空腹じゃ満足に戦えないだろう?」




