The girl of a sword and a shield Ⅲ
ローレンシア魔法学園。
ここは、優秀な契約者を輩出するための育成機関。在籍する学生の一部には貴族や、騎士を目指す者達も存在するらしい。
俺は、そんな巨大な学園の門扉を潜ろうとしていた。
「学生証、または招待状はあるか?」
門番に尋ねられたので、俺の師匠であり、学園長でもあるニーナ・アルセリアの判が押された手紙を差し出す。
「こ、これは学園長の! 先ほどの無礼、失礼しました。どうぞ中へお入りください!」
急に畏まった門番に軽く会釈しながら、大型の龍もかくやという巨大な門を潜る。
「ニーナってここでは偉いのね」
手紙に押された刻印を見ながらレイシアが呟いた。
「そりゃ、序列二位とも成れば、学園長でなくても偉いだろ」
「あぁ、特権階級だったかしら? ありとあらゆる場所に入れるし、禁書も見放題。まったく羨ましいわ」
「それが序列一桁だからな」
契約者に付けられる順位は現在五桁。その中でも一桁の契約者は九名しか存在しない。筆舌尽くしがたい好待遇が与えられるのも頷ける。
まぁ、個の戦闘能力が上位種の龍数匹に匹敵する化け物だからな。
「それにしても……無駄に広いわね、ここ」
歩き疲れたのか、レイシアはとても不満そうだ。時折、つま先でトントンと靴擦れしないようにしていた。
「確かに、無駄に広いな」
レイシアの言うとおり、無駄に広いな。
門から入って、タイルで舗装された道を二十分歩いたところで、ようやく学園の入り口へと辿り着いた。
これからさらに、山の様な校舎を歩くのか……。今度は立体構造だし。広すぎるだろ
これも序列一桁に与えられた特権なんだろうな。
「……学園長室とやらを探すのも、骨が折れそうね」
溜め息交じりに呟くレイシア。
コイツ、そこまで運動は得意じゃないからな。
早いとこ用件を済ませて、宿屋でもとるか。
ツタのレリーフが装飾された、木製の二枚扉を前にして、息を呑んだ。
なんというか、とても入りづらい。
人避けの魔法でも使われているんじゃないかと疑いたくなる。
隣のレイシアも同じ事を考えているのか、困った顔でこちらを見てきた。
そんな顔されても、俺だって嫌だぞ。
回れ右をして引き返そうかと思った所で、扉が独りでに開いた。
「お前達はいつまで突っ立っている気だ? 早く中に入りたまえ」
真紅の絨毯の先、部屋の最奥部に座って、白いティーカップに口をつける人物こそ、俺とレイシアの師匠。ニーナ・アルセリア。
長い白髪に、切れ目の瞳。モノクルが知的な雰囲気をより一層際立てている。
知的というか、魔導機巧学だったかな。現に、それで博士号を授与されていたはずだ。
それでいて序列一桁、ローレンシア魔法学園設立者。
どれだけの影響力があるのか、おおよその察しもつかない。
「それで、この手紙なんだが……」
門番にも見せたニーナからの手紙。内容は簡潔に、私の学園に来い。それだけだった。
師匠からの命令に逆らえるわけもなく、はるばる来た訳だが……。
「簡潔に言おう。お前達にはこれから、私の学園に入学してもらう」
まったくもって唐突な返答が返ってきた。
「……は? ここは新人を育成する場所だろ? 俺達は契約者として、十分戦えるぞ」
ニーナはモノクルを少しだけ、持ち上げて、レイシアと俺を一瞥する。
「そうだな。確かにお前達は強い。下位種の龍なら臆することはないだろう」
「だったら、入学の必要なんて――」
それ以上の言葉は、パチンという軽やかな音と共に、ニーナの魔法によってかき消された。
指を弾いただけでだけで沈黙を行使してくるとは、本当に化け物だな。
「まずは、人の話を最後まで聞きたまえ。続きを話そう……上位種の龍はどうだ? 少しでもドジを踏めばあっという間に土の中だ。まぁ、私が一番懸念しているのはお前達の関係だ」
そう言ってから、ニーナは紅茶に口をつける。
「お前達の強さは脆弱だ。少しでも力を加えれば砕け散ってしまうだろう」
「そ、それってど――、っ!」
何かを言おうとしたレイシアも、沈黙の魔法をかけられたらしい。
「特にレイシア、今のままではアルクを殺すぞ?」
その言葉だけで、レイシアの光彩が一気に薄れる。
「私もアルクを失いたくなくてね。だから、君達には私の学園に入学してもらう。それと、少しだけアルクと二人で話したい。レイシア、席を外してくれるか?」
少し足下がおぼつかない足取りで、レイシアは学園長室から出ていった。
レイシアの心配をしてやりたいとこだが、今はニーナとの話が先だ。
「アルク。レイシアはどうだ?」
いつの間にか沈黙の魔法は解かれていた。
「何も変わってないよ」
「そうか、何もか」
「あぁ。変にスキンシップを取ってくるようになったのも、戦闘中に興奮し出すのも、武器の制御が効きにくいのも。何も変わってないさ」
「ふむ……。では一つ授業をしてやろう。魔法種族デュミナと人間族。両者が契約して、異次元から現れる龍共を殺す事ができる訳だが……、デュミナと人間の関係で一番大事なのは何だと思うかね?」
「信頼……か?」
「そうだ。信頼によってリンクは強化され、戦闘力も上がる。だがな、この信頼というのはすれ違っていては意味が無い。お前達の様にな」
「……すれ違い?」
「さて――」
俺の問いには答えない。ニーナは少しだけ間を開けて、口を開いた。
「あえて聞こう。お前の目的は何だ?」
「レイシアを助ける事。復讐に取り憑かれていた俺に、復讐以外の生きる意味を教えてくれたレイシアを、今度は俺が助けてやる番だ」
「それは良い心がけだが、苦難の道だ。今のレイシアと折り合いを付けて、上手く手なずける事も可能だ。もしかしたら、契約が解除されてしまうかもしれない。それでも、レイシアを元に戻してやりたいか?」
「上等だ」
そう答えるとニーナは満足そうな表情を浮かべた。
どうやら、今のが求める答えだったらしい。
「お前がもし腑抜けた事をほざいたら叩き直してやろうと思ったが、どうやら、根性は腐ってないらしいな」
「そんな事されたら死んじまうよ」
「さて、お前達は学園に通え。心配はいらないさ。入学手続き、寮の部屋、クラス。全て手続きは済ませておいた。そもそも、弟子に拒否権は存在しないんだがね」
どうせ、そう言うと思ってたよ。
だから俺は……。
「お師匠様の御心のままに」
と答えるのだった。
「それと、これは私からのプレゼントだ。可愛がってやれ」
ニーナが悪戯を計画した子供の様に、邪気の混じった笑みを浮かべながら鍵を投げてきた。
それをキャッチし、視線をニーナに移す。
「お前達の部屋の鍵だ。よろしく頼んだぞ」
なにやら訳のわからない事を言われたが、部屋に行け。という事なんだろう




