double contract Ⅵ
俺達が学園の敷地に足を踏み込んだ時だった。
『異常な魔力値を観測しました。龍が発生します!』
緊張が走った。
魔法によって拡張された声が街に響いたのだ。
突如として発生する災厄。龍が街に出現すると。
『直ちに避難してください。契約者は至急討伐に当たってください』
「レイシア、シエル行くぞ!」
回れ右をして、学園の敷地から出ようとしたところで、目の前に二本の槍が交差し、障害となった。
「待て、外出許可が降りていない」
頭の固い事を言い出す門番に低めの声で言い放つ。
「俺は契約者だ、民間人を保護し、龍を討伐する義務がある。そこをどいて貰う」
「ダメだ、ここは通せない」
「あぁ、そうかい! シエル、レイシア頼む!」
二人は頷き、手を握ってくる。
左手には漆黒の銃が、右手には白銀の十字剣が現れる。
「力ずくで通るというのか?」
門番が気圧された様に、半歩下がった。
「そこを通したら学園長様に叱られちまうんだろ? もしかしたら、職を失っちまうかもしれないな。俺はあんたの人生を無闇にぶち壊したくは無い」
俺は言いながら数歩下がる。
そして、門番が塞ぐ出口、ではなく分厚い障壁の方を向いた。
「それに、そこは(、、、)通せないんだろ? だから、こっちから通らせてもらうぜ!」
レイシアの奪命弾を三発障壁に放つ。一発目は壁に当たり、弾かれる。二発目は、表面を穿って弾かれる。三発目は、めり込んだ。
「頼むぞシエル……失敗したらかっこ悪い上に病院送りだからな」
十字剣に魔力を籠め、突撃する。
剣の紋章で本体に加護を付与する。一撃の威力に特化した突きを、魔弾が打ち込まれた部分にぶち当てる。
轟音と礫を撒き散らして、俺は壁を突破した。
分厚い障壁をぶち抜いた事で、門番は絶句していた。
レイシアの奪命弾には、被弾部分の生命力を急激に奪って、脆弱化させる。という使い道がある。それに、ティアの流星をインスパイアしたシエルの一撃を当ててやれば、こうなる訳だ。
ティアとの一戦がなかったら思いつかなかっただろう。
『門番さんは叱られなくて済むかもしれないけど、アルクは大目玉ね』
レイシアの言うことはもっともだ。
学園の設備――ニーナの所有物をぶっ壊したんだ。音沙汰無しはまずありえないだろうな。
『私はパートナーだから、一緒に叱られてあげるわ』
レイシアに、そう言われてしまうと、さっきの発言が恥ずかしくなる。
そうだよな、パートナーだもんな。
『あ、あたしだって一緒に叱られてあげる!』
『強がらなくて良いのよ? ニーナのお説教はこわぁーいわよ。シエルじゃきっと漏らしちゃうわ』
『も、漏らさないわよ!』
「漏らすとか、漏らさないとか。年頃の女の子が滅多なこと言うな」
『気になるの?』
「なるか!」
軽口を叩き合いながら、人の流れを逆らって走る。
遙か上空には、水面に張った氷を割った様な亀裂が走っていた。
『厄介ね、扉じゃないの』
「あぁ、ちょいと面倒だ」
『え、扉って?』
俺とレイシアの会話に疑問を抱いたらしい。
『仕方ないから教えてあげるわ。扉っていうのはね、龍が群れでこっちの世界に現れる時に、ああやって空に亀裂が生じるの。それの事を言うのよ。テストに出るから覚えておきなさい』
いつも講義中寝ているレイシアはバカじゃない。むしろ、その逆だ。
ニーナ博士の研究の手伝いをしていたレイシアにとって、生徒に対しての講義が退屈過ぎて寝ているのだ。
禁書の写本もやっている辺り、学に関しては研究者並だろう。
『今回の場合、亀裂の規模から推測して、一匹の上位種と数匹の下位種からなる群れだと思うわ』
『アルクもわかるの?』
「俺にはからっきしだ。こういう事はレイシアに任せてたからな。そら、敵さんのお出ましだ」
亀裂が広がり、虚空にから腕が伸びてきた。
腕は亀裂をさらに広げ、ついには本体まで姿を表す。
トゲトゲしい頭角に、骨張った体格。どす黒い体表には血管の様に赤い線が張り巡らされている。
あいつは――。
『上位種、クローム。何の因果でしょうね』
俺から全てを奪った。俺とレイシアが街を守り切れなかった。あの種類の龍だ。
「なぁ、レイシア。あの時と違うものは何だと思う?」
レイシアは即答した。
『悔しいけど、私達は二人じゃないわ』
「そうだな、俺達は三人だ」
自分に言い聞かせるように、強く言う。
さて、今まで貸してたツケ。今日、返してもらおうか。
上位種のクロームが地上に降り立つのと同時に、二回りほど体格の下位種が現れた。
「ようくそったれ、今度は何一つ壊させないぜ。恨むならこの巡り合わせを恨んでくれ。さぁぁ、行くぜ糞野郎!」
他の契約者はまだ来ない様なので、単独で仕掛けようとしたところ、
下位種の一匹が突然爆発した。陽炎の様な揺らぎを纏った大剣が降ってきたのだ。
下位種は頭から胴体を吹き飛ばされて、一撃で絶命していた。
大剣が何かに弾かれた様に、独りでに宙を舞い、使い手の元へ戻る。
巨大な大剣を片手で受け止めたのは、栗色の君の少女。ローレンシア魔法学園の制服を纏った。ティアだ。
「助太刀か?」
「昨日の敵は、今日の友、ですっ!」
そう言って、ティアは龍に突っ込む。
『あ、アルク……』
心配そうに訪ねてくるシエル。
「なるようになるさ、今はやるべき事があるしな」
『わかったわ、行くわよ!』
一番近くにいる下位種に肉薄する。鉄を容易く切り裂けそうな程に鋭利な爪が振るわれる。剣で受け止め、勢いを殺さず、力が加わる向きを変えて、いなす。
零距離から、腕に銃撃を撃ち込み、脆弱になった部分を剣で斬り飛ばす。右腕、左腕、頭と繰り返し、無力化したところで、十字剣で心臓を穿つ。
二体、三体と討伐した所で、上位種が咆哮した。
「くそ、きりが無い」
上位種よって、新たな下位種が姿を現した。なるほど、そうやって群れで狩をするんだな。
「アルク様、ここは救援を待った方がよろしいかと」
息を切らしたティアが真横に降り立った。
「そうはいうが、ここは街のど真ん中だ。雑魚に逃げられたら民間人が危ない。とりあえずは、殲滅するぞ」
そうだ。これは復讐とは違う。
「わかりました」
そうは言うが、ティアは目に見えて疲弊していた。頬には汗が伝い、肩で息をしている。初っ端から火力を出し過ぎたんだろう。
いや、待てよ。ティアの実力から考えて、そんな初歩的なミスをするとは思えない。
じゃ、なんだ……?
喉に骨が引っかかった様な違和感に襲われる。なんだ?
「来ますっ!」
ティアの叫びが思考を遮る。
回避が間に合わないので、盾の紋章を展開して受け止める。直後、龍の横腹にティアの流星が炸裂した。
胴体を丸ごと吹き飛ばされて龍が絶命、余波の衝撃がさらに前方にいた、龍を襲う。
まただ。魔力も体力も消費が激しいであろう技だ。
そういえば、俺と組み手で闘った時も、短期間に大技を使ってきた。
それは、どういう意味だ? すぐさま決着をつける必要があった……?
『ボケッとしない!』
シエルに叱咤され、龍の接近に気づく。攻撃を躱し、反撃。龍は名前通り、骸と化した。
「すまない! なぁ、レイシア、短期間に戦闘を終わらせなきゃいけない理由ってなんだ?」
『急にどうしたの? そうね……戦闘時間に限りがある、とか?』
「その理由は?」
『その、アルクなら良く知ってると思うけれど……デュミナとの関係に歪みがあって、シンクロができてない。使い手に無理をさせてるのよ』
レイシアは、しゅんとした声音になってしまう。
そうか、そういう事か。
俺とレイシアに似た状況。ティアの信頼が一方通行なんだ。二人はシンクロできていない。
――龍の生態書。
――あれには龍の特性、性質が事細かに書いてあるわ。例えば、捕食についてとかね。
パズルのピースが填め込まれる様に二つの言葉が脳裏をよぎる。
禁書。捕食。シンクロ。いくつもの単語が浮かび上がり、こんがらがる。
くそっ、どうにも考えがまとまらない。
『……アルク。今すぐにあの上位種を仕留めるわよ』
「わかった」
学のある相棒は、俺が何を考えて質問したのか、状況、そこから推測して、答えを導き出したのだろう。レイシアはそういうやつだ。
何も言わずに指示を出すって事は、説明している暇が無いのだろう。
だったら、やることは一つ。信じればいい。
「――ッ!」
上位種とティアが戦闘態勢に移っていた。
『アルク!』
剣の紋章を展開し、上位種へと放つが、射線上に下位種が飛び込んで来る。
すぐさま駆け出す。身体のあちこちを失って悶える龍に、再生の隙を与えずに両断。
殺到してくる雑魚を斬って、撃って、斬って、撃って。とにかく殲滅する。
最後の龍を斬り倒した時に、視界に映った光景は――、
顎を開き、捕食しようとしてくる上位種に対して、ふらふらになったティアが流星を放とうとする。が、あろう事かアミーラが変身を解除した。
「ティアァァァァァアッ!」
俺の絶叫も虚しく、アミーラがティアを道連れにして、龍に捕食されてしまう。
俺はまた守れないのか。また、失うのか。
そう思った瞬間、粘り着くような何かが纏わり付いてくる様な感覚に陥った。手足が鉛の様に重い。
「ギャァァァアッ!」
突如として、龍が苦悶の咆哮をあげた。
龍の顎がぎこちなく開き、次の瞬間、アミーラが吐き出された。いや、ティアに弾き飛ばされたのだ。
ティアは太股に付けていたナイフを取り出し、龍の口腔を引き裂いていた。
アミーラが無傷なのに比べ、ティアは全身傷だらけで、おびただしい血を滴らせていた。
アミーラを庇った……んだな。
「おじょうさ……いき……てく――」
今にも途切れてしまいそうな、掠れた声でティアが喋る。しかし、途中でティアの言葉は途切れた。
「…………」
アミーラは何があったのかわからない様な表情で、ぼーっとその光景を見ていた。
「お前ってやつは! ……自分が死んじまってどうするんだよ!」
思わず、シエルとレイシアを握る手に力が入ってしまう。
『まだ死んだ訳じゃないわ』
「え?」
『あの本が禁書に指定されてるのは、何故かわかるかしら?』
「わかんねぇ……」
『見ればわかるわ』
どういう事だ? っと、質問しようとした瞬間に、龍の咆哮が響く。
そして、変化が訪れた。
龍の骨格が、みるみる変わっていく。
爪が大鎌の様になり、黒い翼が生え、胸部が裂けてティアが露出された。肋骨が剥き出しになり、ティアを檻の様に囲う。ティアは意識が無く、帆船の船首に取り付けられた、女神像、あるいは磔の様な体勢になっている。
『第七節、捕食による契約者と龍の融合。契約者が捕食され、龍に取り込まれたらどうなるか……。机上の空論だけれど、禁書にされるには十分な内容よ』
「つまり……」
ここに来てようやく理解が追いつく。
「アミーラの目的自体は達成されたかに思えた……。けど、ティアによって阻止された、のか?」
『そうよ。龍との融合で、人間の機能を代行させるのよ。龍を乗っ取る事ができるのならば、デュミナは自律し、人間を必要としなくなるわ』
パートナーを必要としないで戦う方法……。
だから、シンクロできなかったんだな。
『この現象をまとめて論文にすれば博士号が貰えそうね』
「それで、ティアは助けられるのか?」
『可能性はある……けど、龍とティアを切り離さないとどうにもならないわ。ティアを傷つけずに、なおかつ迅速に対処するのよ。ティアにこれ以上ダメージを与えたれば殺してしまうし、戦闘が長引けば、手当が間に合わない』
「おまけに、雑魚の相手もしながらか?」
龍の咆哮によって、新たな下位種が現れる。それも、さっきより数が多い。救援は来なさそうだな……ちりぢりになった雑魚の殲滅で忙しいだろう。
いくら絶望的な状況だからって、目の前に助ける事ができる人がいるなら、俺は諦めない。
これ以上失うのはもうたくさんだ。
『アルク! アミーラが!』
シエルに言われて、クロームからアミーラに視線を移す。下位種の一体が呆然としているアミーラに襲いかかろうとしていた。アミーラは放心していて動かない。
くそ、また間に合わない――!
「なんだ、苦戦してそうだね。手を貸すよイレギュラー」
アミーラを捕食しようとした龍の頭が吹き飛んだ。ガンブレイドを構えて好戦的な笑みを浮かべるのは、セインだ。
「お前、入院してたんじゃないのか?」
「アルクがまた私を仲間はずれにしようとするから、急いで駆けつけたんだよ。どうだい、私もこのパーティーに混ぜて欲しいな」
「……恩に着る」
セインはにやりと不敵に笑う。
「それと、飛び入りゲストは私だけじゃないよ? ねぇ、ヴェント」
そう言うと、建物の影からバツが悪そうな表情をして、赤髪の青年が姿を現した。
ヴェントが携えているのは、薄緑色のロングソード。パートナーは変わってない。エリィだ。
「俺はあれだ。ちょうど通りすがっただけだ……んだよ、その顔は! あぁ、くそっ、アンタに死なれちゃ、俺が強くなった事を認めさせる相手がいなくなっちまって困んだよ!」
不器用なりにも色々と頑張ったのだろう。少し前までの小物オーラが無くなっていた。
ヴェントはぶっきらぼうにそう言って、そっぽを向く。
「すまない、手伝ってくれ」
「役者は揃ったね」
俺の後ろを守る様に二人が立つ。
「アミーラと後ろは任せたぞ!」
振り返らない、返事も聞かないで俺は飛び出す。
ここまでお膳立てされてティアを助けられなかったら、あいつらに顔向けできない。
考えろ、ティアを助け出す方法を!
『ねぇ、私の仮説聞いてくれるかしら?』
クロームに接近した直後、地面から黒い棘が突き出てくる。躱した直後、再び別の棘が襲ってくる。
二転、三転と続き、一息つく暇も無く次の攻撃が繰り出される。
正直、会話を交わしながらコイツと戦うのは無理だ。一瞬でも気を抜いたら痛恨一撃を食らいかねない。
レイシアは俺の意をくみ取ってくれたらしく、そのまま続きを喋る。
『ティアと龍の融合は不完全だと思うの。普通、捕食によって取り込まれても、あそこまで露骨に吸収したものが表面に現れるのは珍しいわ。ティアが融合に抵抗している可能性がある。ティアを刺激して、その抵抗をさらに促せば融合を解除できるかもしれない』
抵抗を促す? どうすればいい?
ティアが瀕死の傷を負ってでも抵抗し続ける理由はなんだ?
――アミーラだ。
あいつにとって、何よりも大切な存在なんだろう。
『アルク!』
不意に側面から猛烈な衝撃が襲った。
それの正体が尻尾だと気づく頃には、俺の身体は宙を舞い、吹き飛ばされて近くの建物に突っ込んだ。
『大丈夫!?』
脇腹に焼けるような痛みが走り、口内に鉄の味が広がる。
果物屋の商品に突っ込んだらしく、甘ったるい香りがする。地面に叩きつけられずに済んだだけいいか。
「くそったれ」
『急いで盾を!』
立ち上がってすぐさま、シエルが叫んだ。
クロームに視線を移すと、口を大きく開いていた。目に見える程の濃密な魔力が、クロームの口に収束していた。
龍の吐息か!
盾の紋章を展開した直後、圧倒的な力の奔流に呑まれる。
直接当たっていないにも関わらず、皮膚がじりじりと焼ける。
『大丈夫?』
「……なんとかな」
ちくしょう、クローム種の上位種はこんな強くないぞ。
クロームが片腕を天に掲げ、石柱の様な物を創り出しているのが視界に入り、背中を嫌な汗が伝う。
しかし、その巨大な塊が俺に放たれる事はなかった。
風の刃がクロームの腕を切断したのだ。さらに、龍の目を潰し、もう片方の腕までも切り落とした。
「視界を奪う、武器の無力化……アンタが言った事だ!」
ヴェントに最初に言った言葉を返されてしまい、口ごもる。
『ねぇ、アルク。提案があるの』
シエルが思い出した様に言う。
『あたし、あいつに痛めつけられて心が折れた。どうしようもなく辛くて、嫌な気持ちが胸にいっぱいになって……でも、アルクが呼びかけてくれて、嬉しかった。勇気が沸いた。だから、ティアにもそうしてあげよ?』
あいつ……ヴェントの事か。
「そう、だな……。でも、それは俺の役目じゃない」
それは、あの我が儘娘の仕事だ。
「セイン! そこのバカを一発殴ってやれ!」
呆然自失となったアミーラを守っていたセインは、有無を言わずにアミーラの横顔を蹴った。
「馬鹿野郎! やり過ぎだ!」
アミーラは顔から地面に突っ込み、綺麗な顔を土まみれにした。
今の一発で我に返ったのか、アミーラはむくりと起き上がる。しかし、その表情に前の傲慢な感じは一切無い。
「アミーラ! お前、このままパートナーを見捨てる気じゃないだろうな! 世話になって、迷惑かけて、傷つけて……詫びも、礼も無しにお別れなんてのは、俺は許さない!」
アミーラは拳を握り、歯を食いしばった。
「お前に私の何がわかる! 理解もしてないくせにほざかないで!」
叫んだ声に怒気は無く、痛々しかった。
「助けなんて求めてない! 放っておいて!」
「そんな顔されて放っておけるか!」
アミーラの瞳から、一筋の涙が伝い、地面を濡らす。
「うるさ……い! うるさいうるさい! なんで、そこまでするの! ほとんど無関係じゃない!」
「俺はバカだからな、助けられる奴がいたら、力を貸してやりたくなるんだよ。助けてと言われたら断れないんだよ! ティアには借りもある! お前が一言助けてと言えば良いんだよ!」
「じゃあ、助けなさいよ!」
そうだ、それでいい。
「わかった、助けてやる!」
『ほんとバカ、とんだお人好し』
『アルクはお人好しよ、バカなのよ』
シエルとレイシアが口を揃えて言う。
俺はバカで、お人好しだ。
だから、頼まれちまった以上、ティアは絶対に助ける。
「アミーラ、ティアに呼びかけてやってくれ! 助けると言っても、お前の力が必要だ!」
アミーラは目尻を服の袖で拭うと、確かに頷いた。
「シエル、レイシア。頼むぜ」
『任せなさい!』
『えぇ、任せて』
傷が完全に回復したクロームは、耳をつんざく様な咆哮を轟かせる。大気が震え、地面が揺れる。
俺は全力で地面を蹴る。動く度に熱を帯びた脇が痛むが、知ったことか。
「私……貴方にずっと迷惑をかけた。パートナーなんて必要ないって思ってた。でも、ティアが隣にいないと何も出来ないって思い知ったわ……」
アミーラが祈りを捧げる様に言葉を紡ぐ。静かだが、それは確かに聞こえる。
『くるわ!』
叩きつけられる腕を紙一重で避ける。奪命弾を撃ち込み、脆くなった腕に斬撃を浴びせ、断ち切る。
苦痛に、悶えるクロームにさらなる攻撃を叩き込んでいく。足の筋を斬り、肩を打ち抜く。
もっと、二人とシンクロしろ、限界以上に!
攻撃をいなし、紋章で受け止め、必死の猛攻に応戦する。
「やっと気づいたの……ティアは私にとって一番の友達よ……だから、だからお願い――私とやり直して!」
クロームの動きが突然止まる。そして、今まで以上に苦悶の声をあげた。
「お……う……さま」
ティアの唇が微かに動く。
「ティア!」
アミーラの声が届いたのだ。
ティアの瞳がうっすらと開かれ、捕らわれた指が微かに動く。
檻の様にティアを囲う骨を、へし折り、ティアの腕を縛る肉を十字剣を突き立てて断ち切る。
「掴まれ!」
伸ばした右腕をティアが掴んだ。そして、思いっきり引っ張る。
龍の絶叫と共に、ティアが解放される。
「ヴェント頼むぞ」
滑り込んできたヴェントに少々手荒だが、ティアを投げ渡す。
ヴェントは首を縦に振ってから、直ぐに離脱した。
クロームから剣を引き抜き、一旦距離を取る。
「今度は俺を食おうってか?」
割けた胸部から触手が這いだし、再生した肋骨が牙の様な形状に変化した。
「それじゃ、終わりにしようぜ」
ありったけの魔力を注ぎ込み、剣の紋章の加護を受けて聖なる光に包まれる。
そして、聖剣は龍の心臓を貫いた。
龍が絶命し、仰け反るのを見ていたら、力が抜け、膝を突く。さらに、脇腹の焼ける様な痛みが思い出した様にやってくる。
どうやら、魔力も使い果たしたらしく、二人の変身が解除された。
「ちょっと、アルク!?」
「アルク!」
二人の声がだんだんと遠のいていく。視界にも霞がかかっていき――、
間もなくして、俺は意識を失った。




