double contract Ⅲ
何だか異様に蒸し暑い。
せっかくの休みだというのに、とても不愉快な目覚めだった。
目を開けると、陽光の優しい光が目にしみる。思わず、手で顔を覆おうとするが、動かなかった。
首だけ動かしてみると、金と銀の少女が見えた。美の女神もかくやという美貌の持ち主だ。
どちらもネグリジェ姿で、きめ細かい肌があらわになっている。シエルが右に、レイシアが左にへばりついていた。
熟睡している人間二人に挟まれていたら、蒸し暑い訳だ。
というか、一体何があった……?
「ん……ダメよアルク……そんな、激しいわ」
お前はなんていう夢を見てるんだ! と心の中で叫ぶ。
流石に、気持ちよく寝ている二人を起こしてしまうのは気が咎めた。
「……ぅん」
レイシアが身体をよじった。
すると、マシュマロの様に柔らかい二つの感触が俺を襲った。
これはまずいぞ、いろいろとまずい。
「やぁん……あっ」
今度はシエルが変な声を上げ始めた。
お前ら起きてるだろ。
嫌がらせしてるんだろ?
シエルももぞもぞと動く。しかし、レイシアの様な感触は襲ってこない。
なんだろうか、とても申し訳ない気持ちだ。
「ん……おはよう、アルク」
レイシアの猫の様に大きな瞳が見開かれる。ごしごしと手でこすりながら、上半身を起こした。
「悪い、起こしたか?」
「はぁん……大丈夫よ」
背伸びをした事でネグリジェの肩紐が片方二の腕まで垂れ下がる。際どい事になっていたので、慌てて視線を逸らした。
「一つだけいいか?」
「ん……何かしら?」
「お前らは何で俺のベッドにいるんだ?」
レイシアは意味ありげなためを作って、にやりと笑う。
「あら、聞きたいのかしら?」
「……いや、やめておく」
シエルを引きはがし、ベッドから降りる。
時計を見ると、時刻は十二時を指していた。
「なぁ、レイシア……今日は買い物に行くんだよな?」
そう、今日はシエルとレイシアを連れて街へ行く約束をしていたのだ。
「そうだけど、どうかしたのかしら?」
「いや、どうせ金を払って飯を食うなら、街の店でも良いかと思ってな」
「そうね。じゃ、そうしましょう」
シエルを起こし、身支度を済ませて学園を出る。
外出届けが必要だが、前もって提出しておいた。
タイルで舗装されたメインストリートを歩き、巨大な門を潜る。
学園の敷地を取り囲む障壁を越えた先には、ローレンシア大陸の中枢都市が広がっている。
建物の大きさはまばらだが、街を貫いく大通りに沿って店が軒を連ねている。
店の種類は雑多で、飲食店から怪しい道具屋まで実に様々。
道行く人も大勢で、活気に満ちている。さすがは中枢都市だ。
「あのお店がいいわ」
レイシアが指さしたのは、真新しいと思われるレストランだ。全体的に白い塗装で、目立つ。若い男女が好みそうな雰囲気がする。
中に入ってみると、案の定、客の大半が若い。しかも、カップルが多い。
店員の女性に案内されて窓際の席へと誘導された。
「それでは、お決まりになりましたらそちらのベルでお呼びください。ごゆっくり」
女性は一礼するとそそくさと裏手に引っ込んだ。
メニューを手に取り、開く。っげ、メニューの名前が洒落すぎていて、訳がわからない。
戦いに明け暮れる日々を送っていた俺にはどうも縁遠い。もはや、一種の魔導書に見える。
「……あ、アルク」
シエルも困った顔をして、こちらを見てくる。
レイシアはというと、メニューを凝視し、考え事をしていた。
「なるほどね」
「お前、このメニューの意味がわかるのか?」
「いえ、さっぱりだわ」
「だったら、わかった様な雰囲気を出すな」
この難解なメニューをどう攻略しようか。と、思考の迷宮に片足を突っ込みかけたところで、誰かに背中をタップされた。
振り向くと、
「何かお困りでしょうか?」
見知った顔のウエートレスがにこにこしながら立っていた。
栗色の髪に、柔和な雰囲気の少女。ティアだ。
「田舎から出てきたもんで、メニューがよくわからないんだ……というか、お前はここで何をやってるんだ?」
「あぁ、私ですか? 生活費の足しになるようにお手伝いをさせて貰ってるんです」
「生活費の足し……?」
「はい、私達は奨学金で学園に通っていますので……そこまで持ち合わせがないんです。お嬢様には少しでも前の様な生活を送ってほしいので、あぁ、お喋りが過ぎましたね。それではメニューの説明をさせて頂きます」




