double contract Ⅱ
今日の授業カリキュラムを全てこなした俺達は、自室に帰っていた。
「それにしても、あのティアとかいう女子生徒……」
ティーカップに口をつけながらレイシアが言った。
「あぁ、かなり強かった」
「大きかったわ」
「確かに、魔力の保有量も凄かったな」
「Fぐらいかしら……」
「何の話しをしているんだ、お前は!?」
「胸の話よ?」
横に座るシエルがカチャカチャと行儀悪く音を立てる。
「それであのペアなんだけれど、さっき聞いた噂では、序列保持者らしいわ。確か、三桁後半だったかしら……?」
三桁といえば、実力者の分類に入るな。
俺達の序列は三桁前半だったが、シエルとの契約と、レイシアの契約で四桁後半まで落ちている。
序列が一桁変わるだけで、契約者の強さがかなり変わる。契約者の力量は序列で計れるという訳だ。
それに、序列を持っているという事は龍との戦闘経験もある。
そりゃ、強いよな。
「あの偉そうな娘の名前はわかるの?」
クッキーを口に運びながらシエルが聞いてきた。
「ええと……アミーラ・イヴァーリスだった気がするわ」
「使い手の方がティアだったな」
コンコン。と慎ましいノックの音が響く。
「レイズのやつか……?」
俺の部屋に訪ねてくるとするなら、セインかレイズだろう、と扉を開けると意外な人物が立っていた。
絹の様な栗色の髪、肌は陶器みたいに滑らかで白い。無駄はないが良い肉付きの肢体に、たわわに実ったやわらかそうな二つの塊。組み手で圧倒的な実力を見せつけてきたティアだった。
「お前は……」
「ティア・フレンと申します。先ほどはいきなり勝負を仕掛けてしまって申し訳ありませんでした」
ティアは深く頭を下げた。
その仕草が妙に綺麗で一瞬魅入ってしまう。
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。それより、こんな時間にどうしたんだ?」
時刻は二十時。よい子は寝る時間だ。
「お嬢様の非礼をお詫びに参りました」
「それだけのために、わざわざここまで来たのか?」
「はい」
ティアの瞳は至って真剣で、これからなにかしでかそうという感じではなさそう
だ。
「そういや、お嬢様ってのは?」
「私は、イヴァーリス家にお仕えする従者でした(、、、)ので」
――従者でしたので。
過去形。なにかあったのだろう。
契約者になるやつのほとんどが、龍に何かを奪われている。俺も例外ではない。
「立ち話もなんですので、私は失礼させていただきます。お詫びの品です、受け取ってください。では」
微笑し、もう一度深く頭を下げてからティアは去って行った。
受け取った紙袋を開けると、中には香ばしい匂いがするクッキーが入っていた。
リビングに戻ると、シエルが駆け寄ってきた。
「それ何?」
紙袋を見てシエルが首を傾げた。
「クッキーだとよ」
「へぇ。くれたのはレイズ? セイン?」
「いや、ティアだ」
「ティアって午後の! 何、もう仲良くなったわけ!? 呆れた。とんだ色魔ね!」
「おい、その言い方はやめろ! 邪な事なんかこれっぽっちも考えてないからな! あれだ、そのクッキーはお詫びらしいんだ」
「ふぅん……どうせ、ラブレターとか入ってるんでしょ」
半眼でシエルが睨んできた。
俺の手から紙袋を奪い取ると、中身をのぞき込む。
「どこに隠したの?」
「大前提として、貰ってないからな?」
シエルは胡散臭そうな商人を見るような目で見てくる。何気なく、袋からクッキーを取り出し、小さな口へと放り込んだ。
「え、何これ!?」
「何か毒でも入ってたのか?」
「このクッキー、す、凄く美味しい!」




