An important thing Ⅳ
「おや、目が覚めたか」
目を開けると、白い天井とニーナが見えた。
「まったく、龍並の生命力だな」
憎まれ口を叩いてくるニーナだが、その顔には安堵した様な色がうかがえる。
「……ここは?」
「学園の医務室さ。お前は五日ほど意識を失っていた。あれほどの爆発に巻き込まれて生き延びるとは、恐れ入るよ」
「セインはどうなった?」
「彼女も無事さ。ただ、別の部屋で療養中だがな」
それを聞いて安心した。あいつらも無事か。
「そうだ、レイシアとシエルは?」
ニーナは何も言わずに、目だけ動かした。追って、視線を動かすと、
「お前の看病をずっとやって疲れたのだろうな」
窓際のソファで寝込む二人の少女の姿があった。
「さて、私はそろそろいくとするよ。一つだけ注意するが、おそらく今日は誰も面会にこない……だからといって、パートナーの少女と二人といかがわしい行為に耽るなよ」
「だれがする――っく」
大声を出そうとしたところで、全身が痛む。ニーナは悪戯に笑うと、部屋を出て行った。
くそ、嵌められた……。
「ん……あ、アルク? 良かった!」
俺の声に反応して、シエルが目を覚ました。瞳を潤ませ、飛びつこうとしたところで踏みとどまる。
「身体、大丈夫なの?」
「みたいだな」
「そっか……」
ほっと胸をなで下ろすシエル。その後ろで、ぐったりとしていたレイシアが起き上がった。
「よぉ、レイシア」
俺が声をかけると、レイシアの目が見開かれる。
「ひっ」
しかし、レイシアの口から漏れたのは喜びの声――では無く、怯えた短い声だった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
レイシアは巻くし立てる様に何度も謝り、急いで部屋を出て行こうとする。
「レイシア!」
すかさず、シエルが手首を掴み、レイシアを止めた。
一体何が起こってる……?
「離して!」
シエルを振りほどいたレイシアは、ミニテーブルの上に果物と一緒に置かれていたナイフを掴む。
「おい待て、何をする気だ!」
俺が叫んだのとほぼ同タイミングで、レイシアがナイフを自分の手首に向けて振るう。鮮血が飛び、ベッドのシーツに赤い染みを作った。
「馬鹿野郎!」
痛む身体など無視して、ベッドから飛び出す。
再び手首を傷つけようとするレイシアを羽交い締めにし、血の滴る手首を強く握る。
「シエル、誰かを呼んできてくれ!」
「わかった!」
シエルは慌てて部屋を飛び出した。
「お前……どうしてこんな事を」
レイシアはぺたんと床に座り込み、しくしくと鳴き始めた。
「わ、し……必要ない……から。迷惑、かける……から」
掠れた声も、紡がれる言葉も酷く痛々しい。
俺はこんな時、どうしてやれば良いのかわからない。小刻みに震える細い身体を、抱きしめてやる事ぐらいしか出来なかった。
その後、直ぐに医師が駆けつけ、レイシアに治療が施された。幸い、傷は浅く、出血量も少なかったので大事にはならなかった。
レイシアをベッドに寝かせ、俺とシエルは椅子に腰掛ける。
「……ごめん」
申し訳なさそうに頭を下げるシエル。
「お前が謝る必要なんかない。それより……」
そう言って、レイシアに視線を向けた。
良く見てみれば、レイシアの顔には泣き腫らした痕がくっきりと残っていた。
「うん、あれから……あの戦闘からレイシアの様子がおかしくなって、その――」
シエルが言葉に詰る。
「自ら命を絶とうとする、か」
「……うん、あたしが目を離すとね。それ以外の時は、アルクに向かってごめんなさいって言いながら、ずっと泣いてた」
「そうか……。シエル、すまないがレイシアを見てやってくれ」
「どこかいくの?」
「あぁ、ちょっとな」




