An important thing Ⅱ
正直勝てるかどうかすら怪しい。
「おい、セイン! こいつは龍の上位種だ。いいか、良く聞け! 上位種の相手をしながら、お前守るのは無理だ。だから、逃げろ!
しかし、セインは龍に背を向ける素振りをまったく見せない。しかも、獰猛な笑みを浮かべて、武器を指先でくるりと回す。
「おい、セイン!」
「あははっ、こんな面白そうなこと……仲間外れにしないで!」
「守り切る自信はないからな!」
片手でレイシアに下がるように指示を出し、剣を構える。
「自分の身ぐらい、自分で守る! けど、指示は頼んだよ!」
戦闘バカもここまでくると清々しいな。くそ、やってやるよ。
コアトルが動いた。セインの方を向いて口を大きく開く。あの動作は――、
龍の吐息か? 魔法か? くそ、この段階じゃ判断ができない。
「俺が盾になる! 隙を突いて頭を狙え!」
龍とセインの間に割り込み、シエルの紋章を展開させる。
直後、龍の口から衝撃波が放たれた。大気を震撼させ、見えない打撃が直撃した。
「くっ!」
これは、二角獣の角が創り出す衝撃波か。
龍は食った物を取り込み、自分の能力として変換できる。基礎的な事だが、もっとも気をつけるべき点だ。
衝撃波が止んだ瞬間、後方に控えていたセインが飛び出し、銃撃を放つ。さらに、続けて斬撃を見舞った。
鮮血が飛沫を散らすが、一瞬にして龍の傷口が再生する。
「これが龍! あは、楽しいねぇ!」
防御のために展開していた剣の紋章が、崩れて十本の光の剣へと姿を変える。それを、怯んだ龍へと殺到させる。
「……火力が足りないか」
光の刃は全て、龍に命中し、その肉を切り裂いたが決め手にはほど遠い。水蒸気の様な煙をあげて、傷口はすぐに塞がってしまう。
これじゃ、拉致があかないぞ。
「アルク、私を使いなさい!」
木の蔭に身を隠していたレイシアが叫んだ。
「ダメだ! お前の力は――」
『よそ見しない! くるわよ!』
俺の言葉はシエルに遮られて続かなかった。咄嗟に龍の方へと視線を戻すと、
「キュルァァァ!」
回復したコアトルが再び衝撃波を繰り出してくる。しかも、今回は円形状の範囲攻撃だ。
「シエル!」
『間に合わない!』
防御の紋章は、剣の紋章を使った反動でまだ使えない。
背後に控えるレイシアは完全な無防備。このままでは、守れない!
「クソッ!」
俺はシエルとレイシアを抱きかかえ、龍に背中を向ける。直後、俺を衝撃波が襲った。
「がぁぁっ!」
金属の棒を叩きつけられたかの様な、凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、樹木の幹にぶち当たる。
思わず腕の力が緩み、剣とレイシアを手放してしまう。
いくら契約刻印によって肉体が強化されてるとは言え、一歩間違えれば死に繋がっていたかもしれない。
木に衝突するとき、右手を打ったが、どうも良くない当たり方だったらしく力が入らない。これじゃ、シエルが使えない……。
仰向けに転がった俺を、二人の相棒が心配そうに覗き込んでくる。
「あ、血が……アルク、血が、血が出てるわ」
取り乱すレイシア。その瞳に光はなく空虚だ。
これはまずいな。
「そんな、っぐ……大した怪我じゃ無いさ、落ち着けよ」
「アルク、ごめんなさい……私が、私がしっかりしないから……」
「気にするな」
口元を緩めて笑みを作る。そして、レイシアの煌びやかな金髪をそっと撫でてやる。
「シエル。お前もそんな顔するな」
今にも泣きそうな顔をしていたシエルをなだめてやり、ゆっくりと上体を起こす。
「アルク、動いたらだめよ!」
「大丈夫、問題ない。それより、アイツを早いとこ片付けないとな」
あの衝撃波を凌ぎきったセインは、俺達に龍の注意が向かないように善戦するが、やはりとどめの一撃には及ばず、防戦一方だ。
「サボるとセイン達に怒られちまうからな」
身体に鞭を入れて立ち上がる。やっぱり、右手に力が入らないし、心拍を刻む度にズキズキと痛む。
「シエルは下がっててくれ。レイシア……いけるか?」
瞳に光が戻り、こくりと頷くレイシア。差し出した手を確りと握ってきた。
「……私は」
何か言おうとしたが、レイシアはぶんぶんと頭を横に振って言葉を中断した。そして、華奢な体躯に光を纏わせ、漆黒の大型拳銃に姿を変えた。
レイシアの最近の言動が気になるが、今はこれしかない。
頼むから杞憂で終わってくれよ……。
「悪い、遅くなった」
セインの元へ駆け寄ると、こちらに顔だけを向けて苦笑いを浮かべた。
「アルクはこんな化け物と今まで戦って来たんだね、通りで強いわけだ」
「俺は強くなんかない。……ここからは俺一人で行かせてくれ」
「ん……。背中は預けるって言ってくれないんだね」
「……すまない」
「けどね、ここで引き下がれる程、私は人間ができてないんだ。ほら、くるよっ!」
セインの言葉を皮切りに、岩が飛んできた。俺とセインは横に飛んでそれぞれ躱す。
「ちょっとは頼って欲しいな!」
セインは龍との距離を一気に詰め、接近戦に持ち込んだ。
あのバカ。本当にバカ。
『ねぇ、アルク……』
「どうした?」
『……やっぱりなんでもないわ、さぁ、集中しましょ』
さっきから何かを言いたげだが、まずは目の問題を解決してからだ。
「いつもの手順でいくぞ!」
『わかったわ』
龍の背後に回り、一気に距離を縮める。
「今から頭部を破壊する! セイン、核を破壊してくれ!」
「了解!」
俺の接近に気づいたコアトルが、太い尻尾で横凪に払って迎撃してくる。それを跳躍して避ける。
空中でロールを決めながら、龍の頭部。その中心に照準を合わせる。銃口から頭での距離は僅か数センチメートルしかない。
「頼むぜ」
トリガーを引き、レイシアの能力が付与された魔弾を発射するが、俺の魔力の流れに異変を覚えた。
『ダメッ! 違う!』
レイシアの悲痛な声が漏れる。俺の魔力が、根こそぎレイシアに流れ込む、否、奪われた。
「セイン! 急いでコイツから離れろ! 早く!」
レイシアが自分をコントロールできない状態で、あれだけの魔力を籠めた一撃だ。その威力は龍の頭どころでなく、俺自身さえも吹き飛ばすだろう。
しかし、時すでに遅し。もう、キャンセルできない。
銃弾は銃口を飛び出し、俺を嘲うかの様に宙に踊り、龍の脳天に突き刺さった。
爆発までの僅かな瞬間、俺はコアトルを蹴り、反動で僅かに離れる。意味などあまりないが、腕を交差して顔を守った。
直後、コアトルが炸裂した。視界を閃光が塗りつぶし、轟音が聴覚を奪う。
――光と轟音の渦に飲み込まれ、俺の意識は呆気なく呑み込まれた。




