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新しい人生の新しい学校生活 13

 熱くもなく寒くもないが、心地よい温度が部屋の隅々に行きわたっている。この気温のおかげなのか全員がやわらかいソファーに体をすべて預けてしまっていた。

「お待ちしました、こちらキインのコーヒーとビー蜜をかけたパンケーキになります」

 声をかけてきたのはこのカフェの店長らしき人物だ。年齢は五十を過ぎているだろうか、落ち着いた雰囲気を醸し出しているこの男の人は、慣れた手つきできれいにトレーに乗っていた商品を並べてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げるルーティは目を輝かせる。

 これでもかと嬉しそうにしているルーティを見ているととても和むなと思いつつ、目の前に置かれたコーヒーとパンケーキを見る。

 コーヒーはあの世界ではあまり嗅いだことの無い匂いだが、不思議と心が落ち着く香だった。色は同じだが、なぜだろうか、グツグツと泡が膨らんでは弾け膨らんでは弾けている。ものすごく暑いのだろうと予想できるコーヒーだ。

 パンケーキはそんなに大した変化はない。というよりは同じといっても過言ではない。

 しかし、違うところを上げるとしたら、やはり上にかかっている蜜だろうか。これは、正直驚かない方がおかしい。なぜなら、どこからどう見ても真っ青なのだ。それなのに香りは蜂蜜よりも気高く気品あふれた香りだ。青色の食べ物を食べたことのないセスは、これを見て若干食べる気を失ってしまっていた。

 少々長く観察していると、すでに他のみんなは食べていた。とてもおいしそうに。

 なぜあのグツグツ音を立てている飲み物を飲めるのか分からないし青いものがかかっているのになぜ食べれるのかが分からなかった。

 ナイフとフォークを手に持ち小さめに切り恐る恐る口に運んだ。

 青々としたパンケーキは口の中に刺激を与えた。

 炭酸などのシュワシュワの刺激ではない。もっと別の刺激だ。

 痛い。それが今思う感想だった。

 辛い蜜に甘いパンケーキの組み合わせは、自分ではまったくもって考えられないものだった。どうして辛いものと甘いものを一緒にしたのかと思う。しかし、だからと言って不快になることはない。なぜならこれが絶妙にマッチしていたからだ。

「これ、辛いぞ」

 突如、ヤコフは顔を歪めながらつぶやいた。

「え、ヤコフさん辛いの苦手でしたか?」

 意外そうな顔を向けるルーティにコクリとうなずく。この辛さを和らげるために、煮えたぎっているコーヒーに口をつけていた。

「あれ、これ熱くない?」

 ヤコフは驚いている。

 セスもグツグツ音を立ているこのコーヒーを一口飲む。

 マグマのようにグツグツ言っているが熱くはない。むしろ冷たい。それも頭が痛くなるほどの冷たさだ。

「味も普通だ」

 コーヒーの味の感想を言うヤコフ。それに対して、

「そうだね。普通のコーヒーだね。ちなみにキインて温めれば温めるだけ冷たくなるんだよ」

 セスは豆知識を一緒に答えた。

「セス君物知り~」

 とリリー。

「ところでセス、あの怪物はどうなったんだ?」

 ヤコフの疑問に、

「倒したよ」

 と返したら、

「「えっ? あれを倒した? 一人で!?」」

 綺麗に言葉が重なった者が2人いた。

 リリーとヤコフだ。

「なんであんたと言葉が被らないといけないのよ」

 少しきつめの目を更に鋭くし、ヤコフにいうリリー。

「ちよっとまて、かぶったのはお前の方だろ! 逆に俺に被らせんなよ」

 と返したヤコフ。

 どちらも自分の方が先だと言う子供のような言い合いをしている。

「先生がだけどね」

 割って入るように言うセス。

「あ、そうなんだ」

「まあ、そうなんだろうとは思ってたわ」

「私はてっきりセスさんが本当に倒した者かと思ってました」

 シーナ、エリアーヌ、ルーティが順番に言う。

「ふざけんなよ、この狐女!」

「はぁ? 誰が狐女ですって!? あんたみたいな脳筋馬鹿が何言ってんのよ!」

 段々とエスカレートしていく二人の会話にセスは、

「二人は仲がいいね」

 と若干ずれたことを言う。

 それに対して、

「「はぁ? これのどこが仲がいいように見えるんだよ(のよ)!」」

 また被る二人。

「セス君て意外と鈍感?」

 エリアーヌは首をかしげる。

「鈍感? いや、だってこんなに言い合えるのってそんなに無いよ」

 完全に無自覚なセスにあきれ顔を向ける三人。

「なに?」

 駄目だこれ。と三人は思ったことだろう。

「あんたみたいに私の脳は単純にできてないのよ!」

「いやお前の方が単純な脳みそしてんじゃねーの?」

 いまだに言い合いを続けるリリーとヤコフ。

「もう言い合いやめた方がいいよ。他の人たちに迷惑だよ」

 そろそろこの喧嘩を止めないと店の人と他の客に迷惑がかかりかねないと思いセスは行動を起こした。少し遅い気がするが。

「今ここで決着をつけるか?」

「そんなことを言うから脳筋馬鹿なのよ!」

 聞こえていない。

 ――もう少し強く言わないといけないかな。

 そう思い声を出そうとした。

 しかし、

「やめてください! そんなことで喧嘩なんてだめですよ」

 ひときわ大きな声を上げるルーティ。その顔はいつも通り弱々しいがなぜかその顔が怖く思える。

「す、すまない」

「ごめんねルーティ。ちょっとやり過ぎたわ」

 二人ともルーティの言葉で静かになった。

「本当にルーティの言うとおり二人とも言い過ぎだからね。時と場合は考えようよ」

 エリアーヌの一言に、

「うっ……すまない」

「ごめんなさい」

 二人は謝罪した。

「そういえばこの学園て確か校内国別対抗戦があったわよね?」

 この場の空気を変えるように声を出したのはシーナだ。

「校内国別対抗戦?」

 ヤコフは何の事だかさっぱりなようだ。

「校内国別対抗戦て言うのは、この学園内で出身国に分かれて競技を行う大会よ」

「さらにもっと言うならこれで学園内での優劣が決まるのよね」

 シーナの説明につけ足したリリーは嫌そうに言う。

「私、この学園内でこの対抗戦毎年見てましたが、自分がやると思うとなんだか緊張しますね」

 弱々しくしかししっかり話すルーティ。

「そうよね。私も見ていたけど自分がやると思うとね……」

 それに同意見なシーナはため息をついた。

「おいおい、お前らそんなに嫌なのか。おれはすっげー楽しみなんだが!」

 いつも通りのテンションに戻ったヤコフは立ち上がる。

「だってよこの対抗戦で上位組に入れば上クラスに入ることができるんだろう? さらにかっこいいじゃねーか。あの魔法がビュンビュン飛び交って相手の守っているものを壊すまでの駆け引きとか、自分の技術がてっぺんとる瞬間とかよ。俺はこの競技早くしたくてしたくてたまらないんだよ」

 対抗戦の事を熱く語るヤコフの目は輝いていた。それほどまでに対抗戦に出たいということが分かる。

「……対抗戦か」

 セスは呟きながら最後の一口、コーヒーを飲みほした。

「セス君どうかした?」

 声をかけたのはリリー。

「いや、なんでもないよ」

 あいまいな返事をするセスに、

「ふぅ~ん。まあ良いんだけど。この二日間で分かった事は、セス君て自分の事をあまり話したくない人だよね?」

 厭味ったらしく言うリリー。

「ごめん。気を悪くしたんなら謝るよ」

 セスは素直に謝罪した。これは自分の対応が相手に対してとても失礼だったから。

 だが言わない。例えどんなに悪かったとしても。いや、言えない。

「別に怒ってるわけじゃないのよ。ただ……何も話さないから」

 なぜかばつが悪そうに言うリリーに、本当に申し訳なく思うセス。

「はいおしまい! 私こんなに暗いのはもう嫌だからこれからはもっと楽しい話をしましょう!」

 切り替えが早いのかリリーは立ち上がり手を叩いた。

「そういえばみんなの出身国てどこ?」

 話題を振ったのはエリアーヌ。

「おう! 俺はここラシウス生まれだ」

 最初に発したのはどこでも元気なヤコフ。どうしてこんなにテンションが高いのかがセスには分からなかった。

「私たち三人はナーダ皇国出身よ」

 とリリー。

 三人というのはリリー、シーナ、ルーティの事だろう。

「そうね。私たちは三人とも同じ国で同じクラスだったから良かったけど……もう一人一緒に来た子がいたんだけどね」

「そうですね。あの子はSクラスに入ってますもんね」

 シーナ、ルーティは、もう一人の友達のことを思い浮かべながら話した。

「ちなみにそのもう一人の名前は?」

 とヤコフ。

「……? シリカ・シーベントですけど」

 ルーティはその名前を言った。

「え、えっと、それってあのシーベント家のか?」

 ヤコフは言葉に詰まりながら聞きなおす。

「ええそうよ。あのシリカ・シーベント。またの名を、烈火の炎帝、レッドヴァルキリーよ」

「レッドヴァルキリーて三年前の魔物大発生の十四歳にして一万以上もの魔物を得意の炎属性の魔法で焼きつくしたあのヴァルキリーだよな?」

 この話が信じられないのかヤコフは再度聞きなおした。

「そうよ。そのヴァルキリー様よ」

 面倒そうに答えるリリー。

「あれが炎帝だったんだ……。しかし、ユーナと一緒に来たのには驚いたな」

「「は? え? うそ?」」

 ただの独り言だったのだが聞こえていたらしい。セス以外の全員がほぼ同時に驚きの声をあげた。

「「ユーナてあのユーナ!?」」

 セスにはどうしてこんなに驚くのかが分からなかった。

「――あっ、セスさん!」

 その時セスを呼ぶ声。

「噂をすればだね」

 声の方に全員目を向ける。

「やはりシリカさんも一緒なんだね」

 そう、ユーナの隣には昨日館を訪ねてきたシリカも一緒だった。

「ああ! 昨日私を振ったセス君だ」

 突然とんでもないことを言い出すシリカ。

「いきなり人を陥れようとするなんて、なかなか酷い人だねシリカさん」

 それに対して一切動揺しないセス。

「は? おいセス、お前シリカさんを振っただと!?」

「シリカ! アンタ、セス君の事す、好きだったの!?」

 殴りかかりそうなほど近づくヤコフに、若干顔を赤らめながらシリカに言いよるリリー。

 この時のシーナとルーティは(ああ、またか)と言わんばかりのため息をついていた。

 エリアーヌとユーナはただ茫然とこの場面を眺めているだけだった。ユーナは何が何だか分かってなさそうだが。

「そこに突っ立てないで隣座ったら?」

 セスは座るように促した。

「あ、じゃあお隣座らせてもらいますね」

 ユーナは遠慮がちに隣に座った。そのさらに隣に座るシリカ。

「それにしてもセス君が私の仲良し三人組と仲良くしてるなんて、なんか妬けるなぁ」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべるシリカ。

「ちょっと私の話聞いてるのシリカ!」

 いまだに言いよっているリリーに、

「もう、リリーったら。本当にあなたは可愛いわね」

 苦笑いで返すシリカ。

「なによ」

「ううん何でもないわよ」

 クスリと笑うシリカ。その動作はかわいらしく、とても先ほどまで人の悪い笑みを浮かべていたとは思えないほどだ。

「ところでシリカさんを振ったというのは本当なのか!」

 リリーと同じようにセスに聞き出そうとしているヤコフ。

「ああそうだ。シリカさんここら辺に米というか穀物類なんて売ってるところある? 広場の方に行ったら肉類と野菜果物類しかなかったから」

 面倒になったセスは無視を決め込んだ。

「ふ、ふふあはははは!」

 なぜか笑いだしたシリカ。

「え、おい、セス? 人の話きいてくれよ。なあ」

 少し涙目になっているヤコフ。

「何か変なこと言ったかな?」

 いまだに無視を続けるセス。

「いや、おかしくはないわね。だってセス君ここの住人じゃないもの。まあでもそこには無いわよ。あと普通にシリカでいいわ」

 笑いを止めはっきり言うシリカ。

「てことはあるってことだよね。穀物類が」

 その言葉にコクリとうなずくシリカ。

「ねぇ、シリカ私たちも何か頼まない?」

 昨日とは違いシリカをさん付けで呼ばなくなったユーナに少し驚いたセス。

「そういえばそうね。店員さーん! この人たちと同じのくださーい。二人分でお願いしまーす」

 元気よく店員に注文するシリカはニコニコしていた。

「ねえセス君、案内してあげようか?」

 とリリー。

「それはたすかるよ」

 願っても無い申し出にセスはうなずいた。正直この付近の土地勘はまったくもって皆無だ。

「お待たせしました」

 先ほどの中老の男性ではなく二十五前後の男性が運んできた。よく見ると落ち着いた男性に似ているような気がする。

「ありがとうございます」

 ユーナは軽くお辞儀をし人のよい笑顔を向けた。

 一方シリカは、お礼は言わず、すぐさま運ばれてきたコーヒーとパンケーキを口にしていた。

 まったく逆の反応をする二人を見て、セスは思った。リリー、シーナ、ルーティのように真逆の性格をしているこの二人が、よく一緒にいるなと。

「うーん、おいしい!」

 満面の笑顔で声を上げたシリカ。どちらかというときつめの顔立ちをしているシリカは、大人びて見えるが、今は本当に可愛らしい女の子の顔をしていた。

 見ていた周りの男性およびヤコフのシリカを見る目が、どこか小さい生き物を見るかのようにほころんでいた。

「ほんとシリカって甘いもののときだけ女の子って感じになるよね」

 若干失礼なことを言うシーナ。

「そう? 私そんなに女の子って感じじゃない?」

 多分何回も同じようなことを言われていたのだろう、まったく怒った様子はない。

「そうね、どちらかというと大人の女性て感じだものね」

 とエリアーヌ。

「自己紹介とかはいいのかな……?」

 ルーティーは申し訳なさそうに言う。

「そういえばそうだったね。私リリー、リリー・ネーメよ。ユーナさん? とりあえずよろしく!」

「私の名前は、シーナ・アルジェントよ。そこのおいしそうにパンケーキを食べてるアホちゃんを今後ともよろしくお願いするわ」

「……えっと、私は……、ルーティ・ベリアージュて言います……。その、今後ともよろしくお願いします」

「じゃあ次私。名前はエリアーヌ・フォンテルセンて言うの。シリカにユーナ、よろしくね」

「最後は俺だよな! 俺の名前はヤコフ・アブトだ。シリカにユーナよろしくな!」

「私はユーナ・スード・スワン。私の事は普通にユーナて読んでもらっていいですよ。そのかわり私もリリーて呼ばせてもらいますし。よろしくね」

 リリーは、フレンドリーな感じに挨拶し、シーナは、あろうことか炎帝をアホ呼ばわりし、ルーティは、若干詰まりながらしかしはっきりとした声がでていた。

 エリアーヌは、落ち着いていて、最後にヤコフは、どこまでも元気だった。

 ユーナは、にっこりと笑いながら少し砕けた感じだった。この笑顔、どこかエリカに似ていた。

「ふ~。おいしかった~!」

 出されてからまだ三分と経っていない。だが綺麗に完食していた。

「私は、シリカ・シーベントよ。レッドヴァルキリーなんて呼ばれているわ。まあでもそんな私より上がいた訳だけど」

 隣をちらりと見て言う。

「そんなことはないですよ。だってシリカは炎帝に選ばれるほどですし」

 笑顔で返すユーナ。

「て言うか、ユーナ早く食べないと冷めるよ」

 とシリカ。

 確かに、まだ口をつけていないユーナのコーヒーとパンケーキがあった。

「あ、そういえばそうだった」

 そう言いながらナイフを入れて切り分けた。それを口に運び、

「……これおいしい」

 と一言いい次々と口に運ぶ。その合間にしっかりとコーヒーも飲んでいた。

「ところでセス! お前シリカさんを振ったてどういうことなんだよ」

 先ほど聞きそびれたことを聞いてくるヤコフ。

「まあまあ、ヤコフ君。その話はセス君は振って無いし私も振られてないから」

 こう応えるシリカに、この言い方だとなんか違うと思ってしまったセス。

「実際告白どうこうは無かったから」

 と付け加えといた。

「そ、そうか。ならいいんだ」

 これで納得したヤコフ。

 何とも扱いやすい奴だなと思ってしまったセス。

「ふ~。おいしかったですね」

 いつの間にか食べ終えていたユーナは、最後にコーヒーを飲み干した。

 これで全員が食べ終えた。

 セスは、隣に座ったシリカとユーナを一回立たせおもむろにカウンターの方に向かった。

「会計いいですか?」

 そう言ったセスは、全員に奢る形で会計を済ませた。何とも太っ腹な男だ。


悪いところが多いと思いますがよろしくお願いします。

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