新しい人生の新しい学校生活 12
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棒を出現させ軽く振り回し今の調子を確かめるセス。
「貴様あれと戦うつもりか」
苦しげに問いかけるアメジストは、立ち上がろうとするが、うまく体が動かせないのか立ち上がれない。
「無理はしない方がいいですよ。その体は完治しているわけではないんだから。それにあれを倒せるなんて思ってはいませんよ」
そう言い魔人を見据え、進め始めた。
いまだ動く気配はないがいつ動き出してもおかしくはない。
一歩、また一歩、確実に近づいていく。壁際でも相当な威圧感を放っていた魔人が、近づくにつれて段々と放たれる威圧感が増していく。
魔人までの距離およそ五メートル。
そこまで来てやっと動き出した。魔人はさらに威圧感を増してセスの方に向く。押しつぶされそうな感覚に陥るがそれを平然とした顔で受けるセス。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」
雄たけびを上げる魔人。その雄たけびは地面にひびを入れるほど強烈な叫びだった。
だがそれにまったく動じていない。
突然魔人の右手に黒々した炎が発生した。それをごく小さな動きで投げる。一直線に向かう炎はセスに直撃するルートだ。速度は速く避ける事はおろか防ぐことも難しいだろう。
それはまったく防がれることはなく爆音と砂煙を上げ直撃した。いや、直撃したように見えた。
セスには一切傷はなかった。
これを見た魔人は次の行動に移した。
セスに向かって駆け出す。
重低音を響かせながら速度を持ってその巨体は突っ込んできた。
セスはこの肉塊を軽くかわした。だが思った以上に魔人の動きは俊敏で通り過ぎたと思った瞬間にはふり返っていた。
「ッ!」
そしてアメジストを吹き飛ばしたようにセスも吹き飛ばした。
背中を強打したセスは肺の中の空気がすべて吐き出す。魔人から十メートルほど吹き飛ばされ地面を転がり体勢を直す。
「ゲホッゲホッ」
口の中に血の味が広がる。
「やはり効いてないな」
一言つぶやき今の状態を確認する。
――あれ、おかしい。なんで魔法で死なないようになっているのにみんな逃げだしたんだ?
セスはここでまた疑問に思ってしまった。
今この場所は死が存在する。あの魔人の一つ一つの行動が死につながるがそれではない。なら何か、それはこのアリーナだ。アリーナはすべての魔法、攻撃を受けても死なないように魔法が掛けられている。いや、掛けられていた。
だが今このアリーナにはその魔法は一切かかっていない。これは最初はしっかりと機能していたはずだった。しかしこの魔人が出現した瞬間には魔法は消えていたのだ。そのためアメジストは重傷を負い、セスもそこそこの怪我を負った。つまり、死なないというのは、実際にはそうではないかもしれない可能性が出てくる。もし考えられるとしたら、半分が本当で半分が嘘なのか、もしくは限りなく死から遠ざかっているだけなのかということだろう。
「……」
セスは静かに立ち上がり棒を持ち直しまた魔人に近づいていく。
魔人はそれを待つかのように身構えている。
どこまでも余裕を持っている感じがするが、この魔人を驚かせるには丁度いいものがそこにはあった。
その時、魔人に魔法がぶつかり爆発音を響かせる。
「グヴォォォォォォォッォォォッ!?」
先ほどまで一切反応しなっかった魔人がこの魔法でひるんだ。
「カッコつけといて何やられてるんだガキがっ! あと、私はまだ戦えるぞ」
アメジストは立ち上がり叫ぶ。
「なら先生は魔法で援護してください。自分は魔法が得意ではないので」
淡々と告げるセスは魔人に向かって駆け出す。
アメジストはコクリとうなずき魔法を連発した。それは全弾命中。爆音を轟かせ火炎を吹きあげる。
その魔法は上級の火属性。バーニンングショット。これを連発するのにどれだけの魔力を消費しているのか考えたくもない。たぶん相当な量がこの数秒で消費されているはずだ。
爆発によって撒き上がった砂埃の中に突っ込むセスは、棒を魔人の腕があった場所を狙って振るう。
スカッ。
空振り。粉うことなき空振り。
「えっ?」
これまでこんなことはなかったセスは動揺した。
その瞬間には下からの強烈な衝撃によって上に吹き飛ばされていた。
先ほどとは違う威力。
天井に到達するまではなかったが、最高到達点までき、セスの体は落下を始めた。
――思考を切り替えろ。さっきのは僕が悪い。そこにあると思い込んでしまったのだから。思考を切り替えろ。次は当てる。
瞬時に体勢を立て直し下にいるであろう魔人を確認する。
存在する。
セスは下にいる魔人に落下の勢いを持って棒を振るう。
今度は命中。だが魔人の体は思いのほか堅くはじき返された。
どんな攻撃が来てもいいように身構える。今度はただ腕を振るうだけではなく、魔力を込めて攻撃を仕掛けてきた。それを回転しながらギリギリのところでかわし、腕を切り落とした。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
魔人は痛みによるものなのかそれとも驚きによるものか分からない叫びを上げた。
腕を切りとした。棒で。魔人の強靭な腕を棒で切り落としたのだ。
「なっ!?」
それを見たアメジストは驚愕した。それも仕方がないと言えば仕方がない。一切刃がない棒であの太い腕を切り落としたのだから。
だがそれだけではなかった。なぜならアメジストから見たセスの棒は一切魔力を纏っていなかったからだ。もしそれが本当だったらセスは、切ったのではなく吹き飛ばしたということだ。だるま落としのように一部だけを吹き飛ばした。
そんなことが可能なのだろうか。これが切ったのならまだ分かる。刃のないものに刃のようなものをつけれる魔法が存在するのだから。
そう思ったアメジストはここでその考えが間違いだと気付く。なぜなら吹き飛ばされているであろう腕の一部がどこにも存在しないからだ。
ということはつまり、セスは実際に棒で魔人の腕を切り落とした事になる。
「そんなことが可能なのか……」
思わず口に出してしまうほど驚きを隠せないアメジストをよそに、セスはどこまでも戦闘を続ける。
彼女は数秒間呆けていたがすぐに戦闘に意識を戻し先ほど撃った魔法を使い魔人を牽制する。
セスが近接戦を行いアメジストが後衛で魔法を使いダメージを与えていく。
この戦闘は十分ほど続いている。まだまだ続くかのように思われたこの戦いは、突如として終わりを告げた。
銃声音のように耳に響く。そして次に爆音。列車が堅い岩にぶつかるような激しい爆音が鳴り響いた。
「アメジスト遅れてすまない!」
声のした方を見ると複数人いる。
この学園の教師達だった。彼らは上級の魔法を浴びせかける。一斉砲火だ。
魔法はすべて直撃し魔人は力なく倒れこんだ。ぼんやりと淡い光を出しながら消えていった。
セスは消え去った魔人の場所をただ見つめながら口の中に広がる血の味に表情を曇らせる。
そこに一人の男性教師が近寄ってきた。先ほどアメジストに声をかけた教師だ。
「やあ、クラウンの息子君。君は怪我はないかい? もしあるんならすぐに手当てした方がいいからね」
この男に若干の嫌悪感を覚えつつコクリとうなずき自分は大丈夫だと伝える。
他の教師達はヤコフを回収したり、アメジストの怪我の具合を見たりと動き回っていた。
「ああ、そういえば名前を言ってなかったね。俺の名前はアドロフ・ガロフだ」
自己紹介をしてきたこのアドルフという男は手を差し出してきた。
それを握り返そうか一瞬悩んだが一応握り返し、
「セス・クラウンです。よろしくお願いします」
挨拶も返した。
アドルフは満足したのかセスのもとを離れていく。
「……ふぅ」
ため息をつくセス。
――ああ、つかれた。
そう思いながらまたため息をついた。
魔人が倒されてから三十分が過ぎた。生徒たちは先ほどのアリーナにまた集合し整列をしていた。
「ああ、諸君は契約の注意的なことを聞いていないのか? これで分かったと思うが召喚契約は複数人で行うと非常に危険だということだ」
男の教師、アドロフが整列している生徒たちの前で声を張り上げている。
「今回、禁忌召喚を行った生徒の処遇は退学が確定している。お前らも退学させられたくなかったら気をつけることだ。俺からは以上だ」
言い終えたアドルフは数歩下がりアメジストが前に出てきた。
「……ということだ。全員契約は済んだな。ならここで解散とする。以上!」
そう簡潔に終わらせたアメジストは、アドロフとアリーナの入口に向かって歩き出した。
瞬く間に終わったSHRに生徒たちは茫然としている。
「これって帰ってもいいの?」
一人の女子生徒が口を開いた。
「いいんじゃない。だってここで解散て言っていたんだから、ねえ?」
それを機に生徒たちは一斉に帰路につこうと動き出した。
ある生徒は複数人で楽しく喋りながら帰る組。
またある生徒は少人数でこれまた楽しそうに喋りながら帰る組。
またまたある生徒は一人で帰る組。
それから最後は残っている組と別れた。
そしてセスは、残っている組に属していた。
「ねぇ、これからどうする?」
初めに切り出したのはリリーだった。
いま、この場所に残っているのはお決まりのようにリリー、ルーティ、シーナ、エリアーヌ、ヤコフだ。
切り出したリリー、以外は顔を見合わせた。若干ヤコフの表情がすぐれないが。
「私は学園近くのカフェに行ってみたい!」
次に言葉を発したのはエリアーヌだった。
「あっ、いいですね、私もあそこ凄く気になっていたんです」
これまで以上に声を張り上げるルーティ。彼女がこれだけ大きな声を出したのはこれが初めてなのではないのだろうか。
「カフェ? そんなの近くにあったっけ?」
?マークを浮かべるセス。
「ありますよ、今ものすごい人気のカフェなんですよ! 知りませんか?」
『いや、知らないよ』と言葉が出かかるがそれを飲み込み、
「じゃあ、言ってみる?」
と別の言葉を出した。
それを聞いた四人は表情を輝かせる。
一人、気分が乗ってない者もいるが。まあ、原因はセスであることは確定している。
セス達はアリーナを後にした。




