序章 アリスから兎へ ”wish”
黄金の光輝く昼下がり。小舟は川を下ってる。
ちょうど、不思議の国ができる前の、始まりの向こう側の世界にそっくりだ。
一人の人間・アリスと一匹の兎は向かい合って小舟に仲良く座ってる。
「あのね、お願いがあるの」
「死んじゃ嫌だよ、アリス」
「大切なお願いなの」
「一人にしないでよ」
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「一人ぼっちはさみしいよ?」
さっきからちっとも噛み合ってない会話に、アリスはちょっぴりイライラしてくる。
「ん、もうっ!」
アリスはむんずと兎の顔を掴み引き寄せた。
「兎、シチューにされたくないなら黙ってお聞き」
「でもアリス、兎は寂しいと死んじゃうんだよ?
結局、僕を待つのは死だけだよ。理不尽だ!」
アリスはやっと進んだ会話に満足してにっこり微笑む。
そしてやんわり兎を撫でながら囁く。
「私はもう死ぬわ。
そうしたらうるさい女王も、狂った帽子屋もあなたもみんな死んじゃうわ。
そしたら天国でみんな一緒になる…。
ね?寂しくないでしょ?
さあ、私に食べられたくないなら私のお願いを叶えて頂戴。」
その言葉に兎は身をよじる。
「アリスに食べられる…。最高…。」
アリスはあきれて眉をしかめた。
「ねえ、アリス、僕を食べて!」
「はいはい。私のお願いをかなえてくれたらいくらでも。」
「わかったよ、アリス、約束だ。」
兎の言葉でアリスと兎の小指が絡まる。そして解けてさよならだ。
「さあ、次は私と約束よ。
絶対に私の願いを叶えると、誓いなさい。
その赤い瞳と白い毛並みにかけて。」
「もちろんだよ、アリス。
君のためならいくらでもかけてみせるよ。」
アリスの言葉でもう一度、一人と一匹の小指が絡まる。そして解けてさよならだ。
「じゃあ、私のお願いを言うわよ。
一言一句も聞き逃さないで。
私の声をその長いお耳に焼き付けなさい。」
そしてアリスのお願いは黄金の粒と一緒に溢れて、解き放たれた。