私は春が好き
あぁ、今年も私の大好きな季節が…春が終わってしまった。
生きている限り、それは仕方のないことだ。それでもやっぱり、寂しいものはある。
毎年この季節になると多くの人が私の元を訪れるが、何より彼が私の元にやって来るのだ。
彼はいつも、たくさんの仲間と一緒にやって来る。彼らは皆笑顔で語り合い、共に笑い合う。
それはとても楽しそうで、見ているこっちが幸せな気分になるほどだ。
私はそんな彼を見るのがとても大好きだ。
だから私は春が大好きだ。
春が終われば当然夏がやって来る。春中は柄にも無く派手な姿の私だが、今は控え目な緑を纏っている。
この時期にも私の元に人は来ることには来る。けれども、本当に来るだけで私をちゃんと見てくれる人は少ない。
あの彼でさえ通り過ぎるたびに、私に一度視線をやるだけですぐに過ぎ去ってしまう。
当然だ。夏の私には個性が特に無く、周りの皆と外見に大差が無いのだから…。
今年もまた、疲れた体を休ませに訪れた小鳥達に慰めて貰おう…。
先に白状しておく。私は秋が嫌いだ。
この時期の私は地味だ。とにかく地味だ。私自身の好みとか関係無しに地味だ。
なのに、山の方に住んでいる私の仲間たちは凄く綺麗になっている。羨ましいくらいに綺麗になっている。
あの彼もこの時期になると、私の仲間たちの元に行っているらしく、全く見かけることが無い…。
食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋と云うけれど…。
私の場合、嫉妬の秋に他ならない…。
気が付けば、また一年が終わろうとしている。
この町の冬はとても寒い。長い年月を生きた私だが、未だにこの寒さと寂しさには慣れない…。
私が居るこの町外れの小さな公園には、何者も訪れることは無い。
町の人も、小鳥たちも、犬や猫も皆訪れることは無い。けれど…。
彼だけは来てくれる…。
私をこの町に連れてきてくれた彼のお爺さん…。
あの人は旅に出る間際、彼に私のことを頼んだそうだ。
私が寒さに負けないように…。
私が寂しさに挫けないように…。
私が誰にも忘れられないように…。
彼は毎年やって来る。お爺さんとの約束と、私の為に…。
「また、来年もよろしくね。」
毎年こう言ってくれる彼に、私ができることは1つだけしか無い…。
だから私は、その一つを精一杯頑張る。
その一つの為に一年を過ごす。
だって私は春が大好きだから、彼のことが大好きだから…。
---大好きな春に、大好きな彼を、綺麗なピンクの衣装で迎えるのが大好きだから…。
大好きなことが全て待っている春の為に私は眠る…。
---今年もまた、彼の為にピンクの衣装を用意しながら…。
小学生の時の通学路であり、御近所である住宅に大きい桜の木があるのです。
その御近所の方とは交流が無いので桜の詳細は知りません。
それでも昔から居たので気になっており、色々と妄想…もとい想像してみて完成した次第です。
気が向きましたら感想と御指摘の方、よろしくお願いします。