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01/09 Sun.-11

 メイが、自分に触れたがっている。


 それが分かると、カイトの神経はちぎれ落ちた。


 全身が、火の玉か何かになってしまったような気がする。


 熱くて、自分でさえ手がつけられなかった。


 キスをされる。


 抱きしめられる。


 そんな風にメイが、彼を欲しいという気配を伝える度に、心の中の愛しさBOXの口が開いて、津波のように押し寄せるのだ。


 こんなにも自分の中に、誰かを思う気持ちが押し込められているとは、思ってもみなかった。


 いや。


 こんなに詰まっていたからこそ、失っている間、カイトはひどい状態になってしまったのだ。


 チクショウッ!


 また、つらい期間を思い出してしまって、それを忘れるようにメイを抱きしめる。


 もうあんな亡霊に、とりつかれたくなかった。


 いま、そこに確かに彼女がいるのだ。


 間違いないのだ。


 その事実を不安にさせられてたまるか、という気持ちを棍棒のように振り回す。


 全然、自分の身体が思い通りにならない。


 もっと優しく、もっと手際よくやれるはずなのだ。


 愛しい相手なのだから、傷つけないように優しく出来るはずなのに。


 飢えと乾きに襲われていた。


 栄養失調になるほど食べなかった時でさえ、こんな感触はなかった。


 食べ物になんて、興味もわかなかった。


 でもいまは、耐えられない。


 いますぐにでも、自分を彼女で満たさないと、どうなってしまうか分からなかった。


 荒れ狂う血の叫びのままに、カイトは彼女から衣服をすべて引きはがした。


 目の前で乱れる黒い髪。


 顔にかかるそれを払うこともせず、カイトは唇を奪った。


 震えた彼女を、布団の中に押し込めたのが―― 最後の理性。


 あとはもう。


 まだ獣の方が、よっぽどマシだったに違いない。


「メイ…って…呼ん…で」


 切れ切れの声で、必死に訴えかけられる。


 彼が、苦しく何度も名前を呼んだせいだ。


 こんな乱暴な自分を、メイに許されたような気がして、切なさでいっぱいになる。


「メイ…!」


 抱きしめて呼ぶ。


 胸に触れ、どうしたらいいかも分からなくなってしまった唇で、何とか自分の指を追いかける。


 女の抱き方を、すべて忘れてしまったようだった。


 違う。


 女の抱き方で、メイを抱いてはいけないのだ。


 彼女は、女じゃない。


 メイなのだから。


 これまでの記憶も何もかも、役に立たない相手を好きになってしまったのだ。


 どれとも比較しようのない気持ち。


 すべて違う条件なのだ。


 いままで―― が、あてはまるハズもない。


 彼の触れ方では、痛いに違いなかった。


 柔らかい胸だというのに、カイトはまったく加減が出来なかったのだ。


 心のどこかが、『これじゃいけねぇ!』と叫ぶのに、もう一人の自分が、『うるせぇ!』と怒鳴り返すのである。


 彼女が、消えてしまったらどうするのか。


 ゆっくり優しくしている間に、腕の中からすり抜けてしまったらどうするのか。


 そんなことは、もう耐えられなかった。


 とにかく、彼女を地上にとどめておきたかったのだ。


「あっ…!」


 メイが身を竦めるように震える。


 カイトの手のひらが、彼女の脚の内側を割ったからだ。


 でも、すぐにいまの声は間違いであったかのように、彼にしがみついてくる。


 頭の芯が、更に熱くなった。


 あんなに乱暴にしていたのに、彼女の身体がちゃんと応えようとしてくれていたのだ。


 ざわっと、鳥肌が立ちそうになる。


 メイという存在の箱を、彼は初めて開けているのだ。


 リボンをむしりとり、包装紙を破り、箱が変形しそうな勢いで開けようとしているのだ。


 耳元で、メイの吐息が乱れる。


 小さな声が混じるが、必死に押し殺そうとしているかのようだ。


 その吐息が、更にカイトの頭を吹っ飛ばした。


 早く、彼女を自分のものにしたかった。


 どんなにカイトが愛しく思っても、結局彼はそういう風にしか考えられないのである。


 いや、最初の時の失敗とは違う。


 あの時は、絶対に心が通じることはないだろうと思っていた。


 だから、とにかくどんな手を使ってでも、離れられないようにしてしまいたかったのだ。


 それが、手に入れるということだと思った。


 でも、今は違う。


 身体だけではなく、彼女を丸ごと自分の内側に引き込みたかったのである。


 その代わり―― 自分を全部持っていけ、と思った。


 オレを全部くれてやる!


 彼女を自分のものにするのと同じように、自分を彼女のものにしてしまいたかった。


 違う国の硬貨を交換するように、お互いの心を渡してしまいたかったのだ。


 けれど。


 ただの交換では済まない。


 カイトの全てを持たされたメイを全部、彼は抱えて連れ帰りたかったのだ。


 一秒だって離れていることなんか考えられない。



 もう。


 二度と。


 離さねぇ。

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