ターゲットは赤ずきん
「ひとえに赤ずきんちゃんってかわいそうだけど、オオカミもオオカミでかわいそうだよね。ただお腹が空いていただけなのに」
「で、でも、そのままじっとしていたら食べられちゃうじゃない!」
「うん。だから物語りの途中で猟師が来て、オオカミは食べられないまま終わっちゃうんだよね。でもさ」
と、涼貴(りょうき)は玄関のドアの鍵をガチャリッと嫌な感じで閉めた。
・・・嫌な、予感。
「猟師さえ来なければおいしくいただけたんだよね」
う、やばい。あの目は本気だ。
本気と書いてマジと読む。つまりマジっ!
私がすばやくドアに行って鍵を開けようとしてもおそらく先にやつに捕まってしまうだろう。
それだけは絶対に避けたい。
「う、うそつき!ケーキをおすそわけするだけって言ったのに!」
「うん。だから届けにきたんだよ?でも用事は終わったし」
にこやかに、でもあきらかに何かたくらんでいる顔でゆっくりと近づいてくる。
しかもよりによって家に誰もいないこの日、この時間、この夜を狙って。
「僕のお母さんも、ぐ・う・ぜ・ん、今夜は帰ってこないから暇なんだよねぇ・・・。聞けば、愛ちゃんも今夜家で一人なんだって・・・?」
くそ!お母さんめ!私しかいないこと涼貴に喋ったな!
「僕、今お腹すいてるんだぁ。それに家が隣とはいえお互い一人で寝るのは寂しいよね。・・・ねぇ?愛ちゃん」
涼貴が何を言いたいのかすぐにわかった。
でも一緒に寝てたまるか!
「わ、わたしは部屋で一人で寝れる!ドアも窓も鍵閉めるから侵入なんてできないし、呼ばれても絶対に出ないからね!」
急いで私は2階への階段をかけあがる。
そう毎度毎度負けてばっかじゃないのよっ!
「・・・無駄だよ。だってこれも作戦のうちだもの」
部屋に戻って数時間。
わたしはまんまとあいつにはめられたことにようやく気づいた。
ト、トイレ、行きたい・・・!
そういえばあいつやけに私にジュースついでいたような・・・。
う・・・、でも部屋を出たら待ちぶせられてるかも・・・。あぁ・・・でも!
そう悶々と考えているうちに、ついに限界が。
「も、もう無理!限界!」
でも念のためやつがいないか確認しようとドアをゆっくり開けるけど、それがすごくもどかしい!
でも涼貴はいなかった。
さすがに廊下で待ちぼうけはないか。
ホッと安心する間もなくトイレに直行。もちろんばれないよう音は立てずに。
助かった~!トイレばんざい♪
そして何も考えずにルンルン気分でドアを開け、トイレをでたすぐわきにいたものに凍りつく。
「おかえり♪」
そりゃあもういい笑顔で言われた。
やつの完璧な作戦に、見事にどっぷりとくるいもなくはまった自分を恨むのはこれで何度目だろう。
私の部屋へ嬉しそうに連行するこいつを睨むが、当然ながら効果なし・・・。
今日も一晩中布団の上でなかされるのか・・・。
オオカミに捕まった赤ずきんがここにいますよ~・・・。
どうか猟師さん、ドアをぶち破ってでも・・・ドアがもったいないから、不法侵入を今だけ許します。
だから誰か助けてぇ~・・・!
続編をあげましたので、そちらもどうぞ(^-^)