初恋の少女を救うため自分の命を捧げたら神様にガチギレされた
生贄を捧げられる神様って正直どんな感じだろうと想像して書きました。
目を覚ますとそこは何もない白い世界が広がっていて、目の前には神々しい雰囲気を纏った男が不機嫌そうに胡坐をかいていた。
その男の首に蛇の鱗のようなものがあるのを見て取った俺は、彼が地元に伝わる蛇神様であると直感する。
「あ、あの! 蛇神様ですよね!?」
「…………」
男は肯定も否定もしなかったが、その態度に俺は彼が本物であることを確信し、更に言い募る。
「俺、貴方にお願いがあってきました! 俺の幼馴染が病気で、余命幾許もないんです! 俺みたいな屑が長生きして、あいつが死ぬなんてどう考えても間違ってる!! 爺ちゃんから、蛇神様は生贄を捧げれば願いを叶えて下さるって聞きました! 俺の命を貴方に捧げます! その代わりにどうか、あいつの命を救ってください! お願いします!!」
俺は男に土下座して頼み込んだが、しばらく待っても何の反応も返ってこない。
何か失礼なことを言ってしまっただろうか、と恐る恐る顔を上げて男の顔を窺う、と──
「…………はぁ~」
男は額に手を当て『どうしてこうなった?』と言わんばかり、深い深い溜め息を吐いていた。
「……あのさぁ」
「は、はい!」
男の声に、俺はピンと背筋を伸ばす。
「ホント、マジで困ってるんだけど……何で命を捧げるから願いを叶えてくれ、みたいな意味不明な話になるわけ?」
「え……? 何でと言われても、そう伝わってるんで──」
「伝わってるとしてもだよ!? お前自分で考える頭とかないの!? 常識的に考えてよく知りもしない他人の家の前で自殺して『願いを叶えて下さい』とかホラー通り越して意味わかんないでしょうよ!?」
そう言われると確かにホラーだし意味不明だが、しかし神様はそういうものなのでは……?
「えっと……それは所謂、自分にとって一番大事な命を捧げることで、神様への信心を表してるとかそういう──」
「いらねぇよ、そんな信心!! お前にとって大事なもんが他人にとっても価値があると思うな!? 俺からみたらお前らなんて虫けらみたいなもんだぞ!! 虫の死骸家の前に並べられてお前『嬉しいな~。代わりに願いを叶えてやろう~』とか思うのか!?」
「……それはちょっと嫌ですけど」
「ならやんなよ!! 自分がやられて嫌なことを、神にやんなよ!!」
男──もう蛇神と呼ぶ──は、一頻り叫ぶと頭を抱えた。
蛇神の言い分は分からなくもないが、俺も願いを叶えてもらわないといけないし、何となく虫けら扱いは気分が良くない。
「その……蛇神様って人間食べるんじゃないんですか? 人間的には『自分ら蛇神様の好物なんじゃないかな~?』って思ってるから命を捧げてるわけで、虫じゃなくてせめて牛とか豚とか──」
「食べないよー!? いやもうよしんばそんな風にゲテモノ食いだと勘違いされてたとしても、もしそうなら勝手に食べるからー!! お前らだって牛や豚に『食べてもいい? 自分から命を捧げて欲しいなー?』とか言わねーだろ!! 飯食う時に、一々食われる側の許可取ってから食べたりしませんからー!!!」
「…………」
まぁ、それはそう。確かに蛇神が俺の願いを叶えられるほどの人智を超えた存在であると仮定するなら、生贄を喜ぶというのは矛盾している気がする。
だが、だとしたらどうも分からないことがある。
「……何? 何か言いたいことでもあんの?」
「ああ、いえ。その……俺は爺ちゃんから、蛇神様が昔お怒りになって火山が噴火した時、生贄を捧げたら怒りが収まったって言い伝えを聞いてまして。もし生贄が迷惑だったならそれは一体どういうことだったんだろうって」
「あれか……」
蛇神は何か思い当たることがあるのか、苦虫を噛み潰したような表情になった。
「まず最初に断っておきたいんだが、俺は一度だって自分から生贄なんぞ求めたことはない」
「はぁ……」
「そもそも俺はお前らよりずっと前からこの地に住んでる土地神でな? 後からやってきたお前らが我が物顔で山を切り拓いたりするもんだから、昔ちょっと神罰を加えたことがあった訳だよ」
それだけ聞くとよくありそうな話だ。
「そしたら村の連中『怒りを鎮めて下さい』とか言って、勝手に生贄捧げてきちゃってさぁ……」
それもまぁ、非常によくありそうな展開だ。
「人ん家の前に死体並べて何の嫌がらせだってムカついてもっと暴れてやったら、あいつら何を勘違いしたかもっと生贄増やしやがって……」
あ~……まぁ、そうなっちゃうのか?
「暴れたら暴れただけ家の前に死体が増えるんだぜ? もう俺も怖くなって暴れんの止めたら、今度は生贄を捧げたお陰で俺の怒りが収まったとか勘違いしやがって──いや、ドン引きして怒るどころじゃなくなったって意味じゃその通りなんだけどな!?」
かぶりを振って慨嘆する蛇神。
俺はその弱り切った姿に何を言ったらいいか分からず、取り合えずフォローめいた言葉を口にしてみた。
「えっと……ペットの猫が狩った獲物を主人に見せてると思えば、割と有りじゃないですか?」
「俺、お前ら飼ってねーし!! 野良猫どころか畑を荒らす害獣だし!! つーか、仮に飼っててもネズミやらGやら死体並べられんのは普通に嫌だわい!!」
それはそう。猫は可愛いけど、Gを咥えた舌で顔を舐められるのは正直キツイし、それが何の思い入れも好意もない害獣の所業なら猶更だ。
だが、そうは言ってもだ。
「その、生贄が迷惑だって言い分は物凄くよく分かったんですけど、それに関しては蛇神様の振る舞いにも問題があったんじゃありませんか?」
「……どういう意味だ?」
ギロリとこちらを睨みつける蛇神の鋭い眼光に身が竦むが、俺にだって言いたいことはある。
「だから、迷惑なら迷惑だって、どうして人間に分かるようにそれを伝えてくれなかったのかってことですよ。ここがどこで、どういう状況なのかはよく分かってませんけど、こうして俺が蛇神様と話ができてるってことは、意思疎通の手段はあった訳でしょう? なら暴れたりするんじゃなくて、何が良くて何が駄目なのか、ちゃんと言葉で人間に伝えてくれればよかったじゃないですか。そうしてくれてれば人間だって無駄に命を散らさなくても良かった訳で──」
俺も、無駄に命を捧げずに済んだ。
逆恨みとは分かっていたが、つい恨みがましい目で蛇神を見てしまう。
「……いや、な?」
「? 何ですか?」
すると蛇神は何とも言えない表情で顔を顰めるので、俺は『何かあるのか?』と首を傾げた。
「言いたいことは分かる。というか、実際俺も過去には何度か直接人間どもと話をしてるんだよ」
「へ? なら何で蛇神様の思いが伝わってないんですか?」
「それなんだがな……」
蛇神は目を細め、どこか遠くを見るような顔で続けた。
「最初に俺が話をしたのは生贄に捧げられた娘だったな。死なれる前に止めて、そいつに俺のメッセージを伝えて村に送り返したんだが……」
「だが?」
「……その娘が死にたくないから嘘をついてると村人に思われてなぁ。結局、次の日には娘の首が祠の前に置かれてたよ」
そりゃそうなるか。
「……そんな目で俺を見るな。お前の言いたいことは分かる。そいつは伝える相手を間違った俺のミスだって言うんだろう? だから俺もその次は生贄を取り仕切ってる村長の夢枕に立って諸々伝えたんだよ。だけど──」
「信じてもらえなかった?」
「いや。信じなかったというか、信じるわけにはいかなかったというか……」
「?」
「ほら、村長はそれまで生贄を捧げなけりゃならないって取り仕切ってた立場なわけだろう? それが実は間違いでしたなんてことになったら……なぁ?」
「ああ……」
村での立場がなくなる、下手をしたら自分が殺されかねないと考えたわけか。そりゃ信じるわけにはいかないというか、認められない。
「その後も手を変え人を変え何度か試してはみたんだが、伝えた奴は大抵周りから気が触れたと思われてなぁ」
「…………」
「で、メッセージに信憑性を持たせようと思って、ある時ついでにそいつの願いを叶えてやったら、何故か勘違いが加速して俺は『生贄を捧げればどんな願いも叶えてくれる神様』ってことになっちまって……」
もうホント人間って話通じなくてヤダと、顔に手を当てて嘆く蛇神に、俺は少しだけ同情した。
同情はしたが、それはそれとして確認しておかなければならないことがある。
「確認なんですけど」
「何だ?」
「その、結局蛇神様は病気を治したりとか願いを叶えることって──」
「やんねぇよ? いや出来るけど、やってやる義理とかねぇし」
幼馴染の命を救いたいという俺の願いを、蛇神様はアッサリとぶった切った。
「別に意地悪で言ってるわけじゃねぇぞ? お前らだって腹空かせてる野良犬やら見かけても一々餌やったりしねぇだろ──いや、ひょっとしたらするのかもしれんが、そんなのはごく一部の変わり者だけだろうし俺にそんな趣味はねぇ。つーか一々世話してたらキリがねぇし、一度叶えてやったら調子に乗って二度三度と言い出すのは目に見えてるからな」
「俺はそんなつもりは──」
「お前にそんなつもりがなくても周りの人間もそうとは限らねぇだろうが。俺はもうそういうのはウンザリなんだよ」
蛇神の態度は全く取り付く島もなかったが、幼馴染の命がかかっている以上、俺もここで引き下がる訳にはいかない。
「……どうしても駄目ですか?」
「駄目だ。今回だけとか例外を認めたらキリがねぇ。どうしてもって言うなら、俺がお前の願いを叶えるに足る対価──メリットを示すんだな」
「…………」
対価、メリット。俺はそこに自分の命を提示したつもりだったのだが──
「言うまでもねぇことだが、命や魂なんぞ俺にとっては何の価値もねぇぞ。よくお前ら人間は命や魂には何かスゲー力があるんじゃねーかと夢想してるが、そんなもんは作り話の世界にしかありゃしねぇよ。テメェの命にテメェが思うほどの価値はねぇし、他の何かに換えられるもんでもねぇ。テメェの命に価値を作れるのはどこまで行ってもテメェだけだ」
「…………」
その通りだ。命を燃料として活用できるのはその持ち主ただ一人。
他の者にとって、命それ自体は何の価値もない。
自分にとって無価値なものを押し付けられ願いを叶えてくれと言われれば、誰だって拒否して当然だ。
だが俺は既に命を捧げてしまった。今更そんなことを言われても──
「ま、そういうこったから、お前さんも諦めて村に帰りな」
「…………え?」
「え、じゃねぇよ。どんだけ粘っても俺が頷くことは──」
「いや、そこじゃなくて。俺、もう死んでるんじゃ……?」
「…………」
「…………」
俺の言葉に蛇神はキョトンと目を瞬かせ、やがて思い出したようにポンと手を叩いた。
「あ。言ってなかったか? お前さん、まだ死んでないぞ?」
「え?」
「家の前に死なれちゃ迷惑だって言ったろ? 死ぬ前に止めて、俺の精神世界に呼びつけて話してるんだよ」
「…………」
そうだったんだ。いや、しかしそういうことなら──
「分かったら、とっととここから出てけ──」
「あの! さっきの対価の話なんですけど!!」
「……何だよ? 何度も言ってるが、お前の何を貰っても俺にゃ何のメリットも──」
「二度と生贄とかで蛇神様の周辺を騒がせないように、俺がこの祠の周辺の土地を買い取って立ち入り禁止にします!!」
「!」
その提案に蛇神が目を見開く。俺はイケると思い畳みかけた。
「祠とか住処をご希望の土地に移築する形でもいいです。俺、こう見えてそれなりに金は持ってるんで、できる限りご希望には──」
「採用」
そんな感じで、俺は蛇神様を奉る神主となり、幼馴染の命も無事に救われた。
最近書いてた連載が完結して次の連載の冒頭を書き直してばかりいるので息抜き。
私は物語の世界観を固める時、大体こんな感じで自問自答してます。




