第3話 傭兵始めました
宙に浮きながらマップを再度見た俺は、比較的近場にある海門という街の方向に身体を向け、機翼型推進器を使い飛行速度を更に上げる。
え?ワープを使わない理由?デジタルよりアナログの方が良い!って言っているのと同じだよ!
「…おっ、見えてきた」
数分程飛行していると、田畑が広がっている場所に出てきて、直ぐに深そうな堀で囲われている街が見えてきた。
減速し、街並みがよく見える高さを維持しながら街中を見てみると、街は駅から中心にレンガ造りの家になっているのだが、駅から離れると木造の家ばかりになっていた。
「魔導機関車が通るようになってから、再開発が行われているという感じか? 取り敢えず行ってみるか…!」
街を一通り見渡した俺は、マップを開き街の近場をタップしたあと、転移することを承認した。
画面をタップすると、俺は大空から一転して、橋の近くにある田畑に居た。
「転移も問題なし…っと!」
身体に変なことが起きていないか確認しながら、転移するにあたって異常がないことを確認した。
「それじゃあ、海門に向けてレッツゴー」
のどかな雰囲気の中、真っ直ぐと堀に掛かっている橋に向かって歩き始めた。
暫く歩いていると、全身を日本風の鎧で覆い、兜を被っている兵士達が見えてきた。
ふむ。やっぱりこの国は、日本風の国みたいだな…もしかしたら、日本人が国を作ったのかな?
そんなことを考えながら、俺は一礼しつつ兵士達の横を通り過ぎて橋を渡り始める。
「…なぁ、見たかさっきの奴」
「見た。珍しい鎧だったな…」
「だよな? まぁ、世界は広いからな」
「そうだな〜…」
後ろの方からそんな会話が聞こえてくる中、俺は内心不審者として止められなかったことに安心しつつ、橋を渡り切る。
「意外と賑わってるな」
橋を渡り門を潜り抜けた俺は、大通りを歩きながら人の多さに驚きつつ、先程上空から見ていた駅を目指した。
理由としては、駅の付近に西洋風の建物が多くあったため、その周囲にもしかしたら傭兵連合会関連の建物があると思ったからだ。
「おっ、傭兵連合会!」
駅に着いてから探すことになると思っていた傭兵連合会の建物が、駅に向かう道中にあったことで、手間が省けたことに喜び、早速建物の中に入った。
「それで……」
「ん? どうしたの…」
傭兵連合会の建物に入ると、扉を開ける前まで聞こえていた様々な会話が、一瞬にして静かになり、目線が俺に集まる。
そして、
「何あれ……」
「見たことの無い甲冑ね…」
「自作でしょ、あれ…」
俺の姿を見た人々が、囁き声で話し始める。
だがそんな物を無視することに慣れている俺は、真っ直ぐと受付に向かった。
「傭兵登録を行いたいのだが、できるか?」
カウンターに肘を置き、少し格好をつけてながら受付の男性に尋ねた。
「あっ、はい! 直ぐにご用意致します…お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「アサヒだ。今は訳あって放浪の旅をしていてな…身分証明書として傭兵書が欲しい」
「分かりました。直ぐにご用意致します!」
受付係に名前と傭兵書を欲している理由を話すと、受付係は一礼した後、裏へと回った。
うーん。学歴が良ければ受付係くらいにはなれるのかも知れんな…
そんなことを考えながら受付で待っていると、金属で出来た板に、紙を貼り付けたドックタックのような物を持った受付係が戻ってきた。
「こちらがアサヒ様の傭兵証明書です。記載されているのは、アサヒ様の名前と、ソロか誰かとチームを組んでいるかどうか、現在のランク、そして登録を行った支部の名です。詳細はこちらに…」
「うむ。有難く頂こう…」
俺は受付係から差し出された証明書と諸々の書類を受け取った。
「依頼などはあちらの掲示板に張り出されておりますが、基本的にお使いや護衛程度なので、大きな仕事をするのであれば、都市部の傭兵連合会で受けるか、傭兵団に入隊するのをオススメ致します」
「…なるほど、よく分かった」
受付係から説明を受け、俺は早速掲示板の内容を見てみることにした。
「えーっと…小屋の片付け銀貨5枚、商品の荷物運び銀貨3枚青銅5枚、猪の5匹以上の討伐1匹につき銀貨1枚……うーむ、面白い…もとい良さそうな依頼は無さそうだな…」
掲示板を見て、目星い物がないか確認する。
受付係の言う通り、魔物の群れの撃破や、滅茶苦茶強い魔獣討伐みたいな大型の物は無さそうだな……諦めて猪狩りでもしようか…
そう考えていたその時、
――バンッ!
大きな音と共に傭兵連合会の扉が開き、全身を中世ヨーロッパ風の甲冑で覆った騎士が入ってきた。
「我はラネスカ公国騎士団副団長、エメリー・エルリッチだ。金貨5枚で、早急に腕の立つ傭兵を1人か、数名のDかCランクの者に、地命国の首都、金剛までの護衛を頼みたい」
メットを脱いだエメリーは、受付係を鋭い目で見つめながら、依頼を出した。
「あっ…えっ……っと………」
受付係はエメリーの圧に戸惑いながら、辺りを見渡して人を探すが、殆どの者が目を背ける。
緊急の護衛クエストか……ノーマル依頼より面白そうだ。
「その護衛任務、私が受けよう…」
「…貴殿のランクは?」
「Eランクの新米だが、腕には自信がある」
「ほう、それはそれは…少々信じ難い…っ!」
ランクを答えると、エメリーは腰に帯刀してあった西洋剣を鞘から抜き、俺に斬りかかった。
その剣に対して俺は冷静に太刀筋を見切り、剣を片手で受け止めた。
「…っ!」
「これで認めてもらえるかな…?」
エメリーは驚きながら剣に込める力を強めるが、通常時のステータスを筋力にそれなりに振っている上、パワードスーツを着ている状態の俺には叶わなかった。
「…分かった。それなりの実力はあるようだな…」
俺の実力を認めてくれたエメリーは力を抜き、剣を鞘に収めた。
「それでは、私に着いてきてくれ。報酬は護衛が終わり次第渡すとしよう」
「了解した。副団長殿…」
エメリーは俺に背を向け、扉に向かって歩き始め、俺はそれについて行った。
数分ほど、エメリーの後に着いて歩いていると、海門の駅に辿り着いた。
「ラネスカ公国騎士団副団長、エメリー・エルリッチだ。通してくれるか…?」
「も、勿論であります! どうぞこちらへ…!」
女性駅員にエメリーが、自身の名前と身分を伝えると、駅員は少し脅えながら俺らを通してくれた。
「お〜…歴史を感じるな……」
改札を通った俺は、新しめの木や綺麗な石などで造られたホームに感心した。
こういうの、古びたのをネットで見た程度だから。生で、更にほぼ新築みたいな昔のホームの造りは、俺らからしたら逆に珍しい。
ホームを見渡していると、奥の方の1番線に、ユニオン・パシフィック鉄道4000形「ビッグ・ボーイ」とよく似た大きな機関車が、5両分の豪華な装飾が施されている客車と連結している状態で待機していた。
…ビッグボーイと言えば貨物運搬では…?旅客列車も牽いていたけどさ、5両はもったいなくね…?
そんなことを考えつつ、俺はエメリーと共にビッグボーイらしき魔導機関車に向かっていく。
「…副団長殿、何故いきなり護衛として傭兵が居るようになったのですか…?」
「……悪いが、それについての質問は、ビッグガールに乗ってからにしてくれ…ここでは誰かに聞かれる可能性が十分にある…」
「そうでしたか…申し訳ない」
依頼に関する質問は答えずらい内容だったようで、俺は質問したことを謝罪した。
そして俺らは、エメリーが言っていたビッグガールと呼ばれる魔導機関車に連結されてある客車の2両目の後ろから乗り込んだ。
「依頼について説明したいが、その前にとある御方に会ってもらう…その兜を脱げ」
客車に入ってすぐの所で、エメリーにヘルメットを脱ぐように命令された。
うーん…ゲームだと、機体を装着するか、脱着するかのどちらかだったから、一部装備を外すなんてできるか…?一か八かで、指定してキャストオフしてみるか…
「………分かった…」
そうエメリーに伝えた後、俺はエメリーに背を向け、小声で
「頭部、キャストオフ」
と小さな声で呟いた。
『承認。』
脳内で人工的なアナウンスが流れ、TALOSのメット部分だけが消滅した。
「…これでよろしいか?」
「ほう…! 中身はてっきり、不細工な者だと思っていたが…中々の美形ではないか」
上手いこと外す所を誤魔化せた俺の顔を見たエメリーは、少し驚いた様子で顔の良さを褒めた。
そうだろうそうだろう!何せキャラメイクする時に、1時間以上の時間をかけて、細部までこだわったからな!
最高傑作とも言える美形を褒められ、内心俺は浮かれる。
「ではついて来い」
「了解した…」
エメリーに案内され、先頭に向けて歩き出す。
そして俺らはカーペットが敷かれ、豪華な装飾が施されている食堂車となっている2両目を通って、1両目へと続く扉の前で止まった。
「グルード様…新たに見繕った護衛の者をお連れ致しました」
「ああ、エメリーか…入ってくれ」
「はっ、失礼致します!」
客車の中に居る人物に許可を得た後、エメリーは扉を開け、中へと入り、俺もそれに続いて中に入った。
1両目の中は、椅子やテーブルだけではなく、ベットや大きめのソファなど、高級ホテルの一室を丸々ことに持ってきましたと言ってもよいほど、豪華な内装になっていた。
そして、客車に置いてある高そうなソファに、金髪で碧眼の男の子がたった一人で座っていた。
「始めまして、傭兵の御方…僕はラネスカ公国第二王子のグルード・クレイグ・ラネスカ。この度は、護衛の任を受けて下さり、誠にありがとうございます…」
座っていたグルードは、ソファから立ち上がって一礼しながら自己紹介をした。
「エメリー副団長、かの者に今回の依頼の説明を…」
「はっ。今回、貴様を雇ったのは、傭兵連合会でも言っていた通り、グルード様の護衛だ。本来ならグルード様の護衛は、我が国が誇る公国軍が務めるべき任務なのだが…道中で、護衛兵の数名が山賊と共謀し、列車を襲い金品の奪取を企てていることが分かってな…裏切り者共は、すぐに吊し上げて牢屋へと送ったが…そのせいで護衛の人数が減ってしまってな…一応、走行速度を遅めたり、停車時間を延ばしたりなどして、日程を大幅に遅らせてはいるが、念には念をという…裏切り者共の代替として、傭兵を探していたのだ」
「なるほど…そういう事でしたか…」
エメリーから説明を受け、早急に護衛を欲しがっていた理由と、何故公で話しては行けないのかという理由に納得した。
「まぁ…ここまで来たら、山賊が襲ってくるようなことはないと思います。列車内で、ゆっくりしてもらって構いませんので、どうぞお付き合い下さい…」
グルードは穏やかな顔で、ゆっくりしていくように言う。
「…分かりました。ですが、万が一の場合がありますので、備えておきます…では、私はこれで……副団長殿、私は何処で待機しておけばよろしいですかな?」
「4両目の203号室だ。詳しいことは、4両目に居る部下に聞いてくれ」
「承知した。それでは、失礼する」
扉の前で一礼した後、俺は4両目に向けて歩き出した。
王子様はもう来ないと言っているが、俺的にはこの先で山賊が待っているように思える。理由としては、海門を出てしばらく進むと、列車は山岳部に入る。山岳部では、列車がスピードを出しにくい上、援軍が来にくい…対策として日にちをずらしているのようだが、山賊達もバカではない。内通者との連絡が途絶えた所で、何かがあったと感づくことだろう。そして、少なくとも俺が山賊だったら、予定日を過ぎても、1週間は粘る…この列車の本来の到着時間は分からないが、少なくとも1週間は根気強く待つことだろう……っとなると…襲撃は今夜から早朝にかけて…オールかぁ〜
そういった事を考えながら、俺は個室が何個か並び、所々で話し声が聞こえる3両目を抜け、4両目へと向かった。
4両目は、3両目と同じような造りとなっており、扉の番号を見ながら自分の部屋を探した。
「ここか…」
203号室を見つけた俺は、部屋の扉を開けて中へと入った。
中は二段ベットとクローゼットと言う、至ってシンプルな造りをしていた。二段ベットだが、同じ部屋の人は居ないようだ。
となると、3両目が5号室までやったから…大体兵士は7人程居るということか…
護衛の数を考えながらベットに座ろうとした時、
――ボォーッボォーッ!!
出発の合図だろう汽笛が鳴り響いた。
俺は部屋の窓を開け、そこから身を少し乗り出して、先頭車両を見てみる。
すると、ビッグガールは何回か空転した後、線路に反ってホームから出始めた。
――シュッ……シュッ…シュッ…シュッ
真っ白な蒸気を上げ、ビッグガールは客車を引率しながら、3番ホームから進行方向右側の本線に移り、徐々に速度を上げながら目的地である首都の金剛に向けて走り始めた。
こうして、傭兵として初仕事かつ、大仕事が始まったのであった。




