第24話 博識対最強《前編》
「しかし…他の者とはほとんど会えないな…」
「そうですね…テレーロ軍曹さん以外には見かけていませんね…」
「アビスも先程の個体以外は出てこない…妙だ…」
あれだけ居た傭兵や兵士を見かける所か、戦闘の音などすら聞こえてこないことに、俺らは違和感を抱きつつ、街中を大通りに沿って歩く。
歩いていると、広場のような物が見えて来た。広場と言えば安全だろうと思うが、俺らが見える広場の中央付近には、紫色のクリスタルが自然とは考えられない対象で綺麗な形で生えており、その頂点には高貴そうな服を着ている黒髪で色白の片眼鏡をかけた男が、異質なオーラを放ちながら立っていた。
「…ランク殿」
「はい…!」
「先制攻撃だ!」
「…えっ?」
ゆっくりと近づくとでも思っていたのか、驚いた表情を浮かべるランクを置いて、俺は男目掛けて真っすぐ飛んで行き、粒子式刀剣で斬りかかった。
「乱暴な奴も居た者だね~?」
男はつまらなさそうな表情を浮かべながら、粒子式刀剣をバリアの様な物で防いだ。
「うーん。只者ではないのは確かか…」
スラスターで後ろへと下がって男との距離を置きながら地面に着地した俺は、相手の力量を見て、少し本気を出すことを決意する。
「肆式、カスタマイズ!」
『承認。武装、肆式に変更します。』
殴り合いが主体の肆式の武装に変え、俺はファイティングポーズを取る。
「ほう。見たことがない武装…! 実に興味深い!」
俺が武装を変えと、男はギラついた目で見てきては、クリスタルの頂上から飛び降りて来た。
「っ!」
「なっ!」
男が着地した隙を突き、俺は背中の噴射ノズルを噴いて軽く飛んで男と間合いを詰め、
「黒鉄機械篭手起動!」
黒鉄機械篭手に着けられているスラスターを始動させ、スラスターで勢いが乗った拳で何度も男を殴った。
「がっ!」
「黒鉄機械篭手、右拳! 最大出力!!」
男が怯んだのを見て、俺は右拳の黒鉄機械篭手のスラスターから青い炎を出し、その勢いで男をクリスタルに向けて殴り飛ばした。
――ドゴォンッ!!
吹き飛ばされた男は大きな音ともにクリスタルに叩き付けられ土煙が立ち上って見えなくなってしまった。
「アサヒさんっ! 大丈夫ですか?!」
俺が男の次の行動を警戒していると、ランクがそう声を掛けながら近寄って来た。
「おお! ランク殿。巻き込まれてはないか?」
「は、はい! おかげさまで…それで、僕はどうすれば…?」
「そうだな…」
ランクをどうするか考えようとしたその時、
「闘牛突き…!」
男を吹き飛ばした先からそのような言葉が聞こえ、俺はランクの前に出て黒鉄機械篭手で飛んできた物を受け止めた。
「へぇ…完全に油断を突いたつもりだったが…受け止められるか……」
「おr…私の力、余り舐めて貰っては困る…!」
俺の黒鉄機械篭手と男が作ったのであろう真っ黒な西洋剣から火花が散る。
というか、こういう場面だと私って一人称使いずらいな…今かでも我にでも変えるか?
そんなことを考えながら、俺は力を更に込めて男を押し返す。
「……なるほど、なるほど…君には俄然と興味が湧いてきた…」
弾かれた男は体勢を立て直しながら後ろへと下がり、気味が悪い笑みを浮かべた。
「ランク殿、申し訳ないが…ある程度本気を出す故、隠れてくれないか? 最悪巻き込まれてしまうかもしれん故…」
「……」
「ランク殿?」
「はっ! はい! 隠れておけばいいんですね! 分かりました!」
ランクは考え事でもしていたのか、名前をもう一度呼んだ後我に返り、俺から離れて行った。
「へぇ~、仲間が居なくて大丈夫なのかい?」
「元々一人で戦うのに慣れているからな…全力で行くときは一人の方が出しやすい…」
「そうか…では、少々遅れているがご挨拶を…俺は深淵魔人の一体、博識の支配者アルマロス…! 以後お見知りおきを…」
「敵にあまり名乗りたくはないが…傭兵のアサヒだ」
俺とアルマロスは対面しながらそれぞれ自己紹介を行う。
「それじゃあ、君が拳で戦っていることだし…こっちもそれに合わせて拳で行こう!」
そう言うと、アルマロスは剣をそこら辺に投げ捨て、ファイティングポーズを取る。
「それじゃあ、行く…よっ!」
深淵魔人とやらの実力を測るため、俺はアルマロスに仕掛けず一度攻撃を受けてみることにし、迫ってくるアルマロスに対して防御姿勢を取る。
「ふんっ!」
俺との間合いを詰めたアルマロスは、胸に目掛けて正拳突きを繰り出し、俺は両腕でガードしてそれを受け止めた。
……なんだ、今の正拳の既視感…どっかで…
正拳に既視感を覚えつつ、俺は反撃としてスラスターで勢いを付けた左拳をアルマロスの脇腹にめり込めさせ、そのまま吹き飛ばした。
「中々いい拳じゃん…」
建物の壁にぶつかって止まったアルマロスは、そう言いながら土煙の中から出てくる。
「なら、これはどうか…なっ!」
アルマロスは地面を蹴って宙に浮くと、足を振るって数本の風の斬撃を飛ばして来た。
「…っ!」
その技に見覚えがあった俺は驚愕しつつ、複数の斬撃を避ける。
先程の既視感がある正拳、足から斬撃を放つ技…俺は物凄く嫌な予感を感じる。
「一応聞こう、先程の正拳、そして今の斬撃…技の名前はあるか…?」
「え~っと…何だけ……あっ、そうそう! 正拳突きは金剛正拳で、足技の方は嵐刃…一蹴? 十蹴? どっちかだったはず…まぁ、そんな特別な技でもないし、どうでもいいんだけど」
「……」
アルマロスが使った技が、伊織の八重極真流の物だと分かり、俺は最悪な予想が当たってしまったことに言葉を失い、それと同時に伊織が熱心に伝えてくれた八重極真流を馬鹿にするアルマロスに対して、沸々と怒りが湧いて来る。
「…弐式、カスタマイズ」
『承認。武装、弐式に変更します。』
湧いて来る怒りを何とか抑え込んだ俺は、刀剣主体の弐式に武装を変えて、太刀型軍刀を構える。
「へぇ…次は剣で挑みたいのか…なら付き合おう!」
俺が武装を変えたのを見たアルマロスは、宙に黒い剣を作りそれを手に取って構えた。
「あの技…もう一度試してみようか…! 闘牛突き!」
足をしっかりと踏み込み、地面を蹴ってアルマロスはまるで闘牛の如く俺との間合いを詰め、剣先を突き刺してこようとする。
「っ!」
俺は刀で剣の軌道を逸らしながら身体を捻り、剣を紙一重でかわした。
「これもダメかな? 一直線に進み過ぎて避けきれやすい…」
技を避けられたアルマロスは、溜息を吐いた後に闘牛突きという技を伊織の八重極真流のように出来損ないと言う。
その時、
「…ふっ、ふざけるな………ふざけるなっ!! ホートが、どれだけその技を練習したと思っているんだ! アイツの努力を馬鹿にした…!! お前だけは許さない!!!!」
建物に隠れていたランクが激怒しながら出てきて、アルマロスに向けて4つの魔法陣を構築すると、それぞれの魔法陣から、火、水、風、土の四種類の弾をマシンガンの如く放つ。
「うーん。勇者ちゃんの劣化版は興味でないね…じゃ!」
弾幕の雨が降り注ぐ中、アルマロスは右手を銃の形になるようにし、人差し指の先をランクに向ける。
「射出!!」
不味いと思った俺は、アルマロスの顔面に向けて噴進捲揚機を放って照準を外そうとするが、ギリギリ間に合わず、噴進捲揚機の錨がアルマロスの顔面にめり込むと同時に、黒い弾丸のような物がランクに向けて飛んでいく。
「がっ…!」
「ランク殿!!」
弾丸はランクの胸を貫き、それと同時にランクの身体が紫色のクリスタルへと変わっていき、そのまま人差し指くらいのクリスタルへとなった。
「……」
人がクリスタルに変わるのを見て、俺は絶句すると同時に奴の能力についておおよその目星が付き、アルマロスが吹き飛んで行った方向を見つめる。
「いったいなぁー…もう…人の顔に錨をぶつけるとか…親からダメだって教われなかった?」
「テメェのような人をクリスタルにして、そこから人の知識を奪い取るような奴は、ぶん殴れとは教わったぞ?」
「へぇ~…気づいたんだ。俺の能力…」
アルマロスの出方を伺いながら俺はクリスタルとなってしまったランクを回収し、安全のためにインベントリアに収納する。
「それでどうする? 俺を倒す? それとも逃げる? まっ、選択は1つだけだけど…!」
そういうアルマロスから黒色の異様なオーラが出てくる。
本来であれば恐怖心が掻き立てられるような特殊な物なのだろうが、俺は構わずアルマロスに向けて歩み進める。
「なっ…!」
俺が動けることにアルマロスは少し驚くが、
「ふっ、実に面白い…傭兵アサヒ、君は勇者ちゃんと同じくらい興味が湧いてきますよ…!」
鼻で笑った後、両手で指フレームを作ってそれ越しに俺を見つめてくる。
もうこの際だ。アイツを徹底的に打ちのめすとしよう…!
「悪いが、人が居なくなったから改めて自己紹介だ。TALOSのナンバーワンプレイヤー、アサヒ! 全身全霊で突撃する!」
改めて傭兵ではなくTALOSのナンバーワンプレイヤーのことを名乗った俺は、助走をつけて飛んでアルマロスに太刀型軍刀で斬りかかった。




