第23話 現れる地下都市
「ぬおっ!!」
俺を掴んで身動きが取れないようにしていた黒い手は、目的地に着いたのかいきなり手を放し、受け身を取れなかった俺は地面に数回転がって止まった。
「こ、ここは一体…」
着いた砂埃を払いながら俺は辺りを見渡すことにした。
足元を見ると少し黒ずんでいる草原が広がって居るのが分かり、顔を上げると大きな街が見えた。
「…はぁ?」
街が見えた俺は思わず声を出した。
俺が黒い手に連れ込まれたのは、坑道地下深くだったはず。他の者達が連れられて行くのを見ているため、それは確実だ。だが、俺の目には、石造りの建物が立ち並ぶ街がはっきりと見える。
「……地下なのは確かか…」
ふと上を向いた俺は、都市の上に空ではなく茶色の大地が広がっているのを見て、ここが地下だと言うこと確認する。
「植物がある辺り、ドーム状の空間にすっぽり都市を転移されたという感じか?」
何故地下に都市があるのかを考えながら、俺は天井の中央にある鉱石の様な物に目が留まる。
鉱石は不気味な色合いをしているが、太陽光に似た光を放っており、そのおかげで地下でも明りなしで周囲が分かる。
「太陽光のような温かみはないのがより不気味さを増しているが…今は仕方ないか…」
鉱石の光に少し悪寒を感じながら俺は探索をするため、石造りの道に沿って都市に向けて歩き始めた。
「あ、あの!」
歩いていると、後ろから声を掛けられ、俺は声の方に振り返った。
声がした方には、同じ班の魔法少女、ランク・ロチャックが杖を持って立っていた。
「ランク殿、ご無事だったか!」
「はい。何とか…ですけど、他の人達とはバラバラになってしまって……ぼっ…私は魔道士なので、1人行動ができず…今まで隠れていました」
「ふむ。そういうことであったか…ではここからは共に行動しよう!」
「はい…! 他の人達も心配ですし、街を探索しながら探しましょう!」
「では行こう!」
俺とランクは、他の者と合流のために街に向けて歩き出した。
「……ケーニンブルク…?」
街へと入る城門に鉄製の看板が埋め込まれていたので、俺はその文字を声を出して読んだ。
「読めるんですか?」
文字が読めないのか、ランクはそう言って来た。
「…何となくだが…ランク殿、ケーニンブルクとやらに心当たりは…?」
「すみません。歴史家とかであれば分かるんでしょうけど…私には…」
文字が読めることを深く聞かれないように話題転換もかねて、言葉に着いて聞くが、ランクは首を横に振った。
「…取り敢えず、行こうか。恐らく何かが来る可能性はある」
「はい…!」
気合を入れ直して、俺らは門を潜って街の中へと入った。
「…案外静かですね…」
「そうだな…てっきり、色んなアビスが襲ってくると思ったが…」
2人でそう話しながら俺らは街中にある石造りの大通りを歩く。
そうしていると、前の方から大きな音が聞こえ、その音は徐々にこちらへと向かってくる。
「ランク殿…!」
「は、はい!」
俺らはそれぞれ武器を構え、音の正体がやってくるを待つ。
すると、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!!」
前の建物の間からテレーロが出て来た。
「っ! 走れぇ!!」
俺に気付いたテレーロはすれ違い様に俺らに向けてそう叫ぶ。それと同時に、建物を破壊しながら巨大なウツボの様な物が現れた。
「「っ?!!!」」
俺らはウツボに驚き、共に逃げるために走り始める。
「何ですかあれ?!」
先に逃げたテレーロに追いつくと、ランクは走りながらウツボについて尋ねた。
「知らん! だが少なくともアビスというのは確かだ!」
「ならば!」
走りながらテレーロからアビスの怪物と聞いた俺は、走るのをやめて反転する。
「アサヒさん!?」
「私はどうなっても知らんぞ!」
俺の行動に驚いたランクは足を止める一方、テレーロはそのまま走って行った。
「壱式、カスタマイズ!」
『承認。武装、壱式に変更します。』
武装を変えた俺は、両肩の機翼型推進器を吹かせて勢いよく飛びながらウツボへと向かって行く。
「二枚降ろしにしてやる!! 粒子式刀剣! 最大出力!」
粒子式刀剣の刀身を伸ばした俺はそれを縦にして、正面からウツボへと飛んで行き、ウツボを二枚降ろしになるように切った。
そして、二枚となったウツボは身体をボロボロと崩壊させて消えて行った。
「…うーん。歯ごたえがない…」
そんなことを呟きながら俺はランクの元へと降り立つ。
「す、すごい…凄いです! アサヒさん!」
ランクは目を輝かせながらそう言ってくれる。
「それで、テレーロは…?」
「さぁ…あのまま走り去ったみたいです…あれで偉い方何ですか…」
「まぁ、軍にも色々な者が居るからな…」
一目散に逃げて行ったテレーロを呆れながら、俺らは街の探索を再開することにした。
―〇―
ケーニンブルク中央広場。
昔は祭りでもやっていたのか、広々とした場所となっているそこで、複数の傭兵と連邦軍の兵士が戦っていた。
「はぁはぁはぁはぁ……なんだあの強さ…っ!」
鞘から抜刀した剣を振って刀身についていた土や小石などの破片を払い、装備や衣服の一部が損傷し、あちらこちらに傷を負っているホートは剣を構え直す。
「…あの強さ…ただのアビスではありませんね…!」
ホート同様ボロボロの伊織もまた、態勢を整えて構え直す。
彼女らの視線の先には、他の傭兵や兵士が果敢に1人の男に向けて攻撃を仕掛け、そして纏めて吹き飛ばされる光景が映っていた。
「如何にも、俺はアビスの中でも上位種族、深淵魔人の博識の支配者アルマロス。以後お見知りおきを…!」
2人に自己紹介したアルマロスは、余裕のある足取りで2人に近づき始める。
「デモ…何?」
「……」
ホートは深淵魔人という単語に聞き覚えがないようで、事の重大さを理解して居なかったが、勇者の話が好きで調べ尽くしていた伊織は、身体の震えが止まらなくなる。
「に、逃げましょう…」
足が竦みそうになる中、伊織はホートにそう言う。
「なんで?」
「深淵魔人は……深淵魔人は本当に不味いです…!」
声を震わせながら伊織は必死にホートに事の重大さを気付かせようとするが、
「ならアンタは逃げな。私はどんな奴が来ても逃げないと決めてるんだ!」
ホートはそう言うと、剣の持ち手をしっかりと握って、アルマロスに向かって走り始めた。
「剣か…だったらこっちも剣で行こう…!」
アルマロスはホートの剣を見ると、黒い靄を操って固めて1本の刀を作った。
「闘牛突き!!」
足をしっかりと踏み込み、地面を蹴ったホートは闘牛の如く剣先でアルマロスを突き刺そうとするが、
「微塵切り…」
アルマロスはホートの剣を軽々と除け、すれ違い様に目にも止まらぬ速さで刀を振るった。
「…ぐっ!」
ホートは剣の刀身がバラバラになると同時に、無数の切り傷が身体にでき、そのまま地面に倒れ込んだ。
「少しは手ごたえがあるかな~っと思ったけど、ダメだったね」
作った刀をそこら辺に投げ捨て、アルマロスは伊織の方を向く。
「……」
アルマロスがどれだけ強いかを知った上に、その片鱗を見せられた伊織は足が竦んでしまい、動けなくなっていた。
(…足が竦む…恐怖で身体が動かない……勇者様のようになると鍛えたはずなのに…!)
本物の恐怖の前に動けなくなる自分に、伊織は嫌悪感を抱く。
そして、何もできないまま、アルマロスは伊織の目の前に立った。
「君はいい子だねぇ…それじゃあ、永遠にお休み…」
アルマロスはそう言うと、伊織の顔に黒紫の煙のような物を吹きかけた。
「…ね、眠…く…」
煙を吹きかけられた伊織は強烈な睡魔に襲われ、意識が朦朧とし始める。
「………アサヒ…殿……後は………頼み……ま…す…………」
自分の不甲斐なさを理解しながら、伊織はこの状況を打開できるであろうアサヒに後を託し、意識を手放した。




