第21話 イレギュラーは作戦を壊す
坑道内に入った俺は、トロッコ用に敷かれたレールが2本並んでいる広い通路を通って、休憩場として使われていたのであろう広い空間に出た。
「アビスなどに負けるな! 魔術兵、浄化を続けろ!」
その空間では出入り口以外から溢れ出てきているアビスを押し返そうとエハルト小隊が奮起しており、重装歩兵や歩兵に守られながら、魔術兵はアビスを浄化するという魔法を何度も発動させていた。
「…両肩、小型自律航空機射出器」
『承認。両肩、小型自律航空機射出器転送します』
「ドローン射出!」
下手に銃火器では援護できないと判断した俺は、両肩の武装を小型自律航空機射出器に変更し、2機のドローンを飛ばした。
「っ?!」
「何あれ?」
「鳥?」
後ろから飛んできたドローンに、エハルト小隊の者達は警戒する。一方ドローンは、エハルト小隊のことを無視して、彼女らを襲うアビスの化物目掛けてミサイルや爆弾の投下、機銃斉射を行い援護を行う。
「…今だ隙を突け! 重装歩兵隊散開! 歩兵隊全員突撃! 各坑道の穴へアビスを押し戻してやれ!!」
ドローンの攻撃でアビスが混乱し始めていると気付いたルーレンは、そこに歩兵隊を送り、次々とアビスの化物を切り倒し始める。
「歩兵隊! 何処かに緊急時に採掘用坑道へと続く道と隔離する用の防火扉を起動するレバーがあるはずだ! それを見つけ次第起動しろ!」
ハッ!!
アビスが劣勢となって行く中、アビスの援軍が来ないようにルーレンは新たな命令を出し、それを受けた歩兵隊はアビスを倒しながらレバーを探し始める。
手伝いたい所だけど、俺が下手に介入すればエハルト小隊の陣形を乱すことになるし、今はドローンを飛ばすだけに留めるか……うーん、暴れたい…
そんなことを思いながらドローンを射出するだけの機械となっていると、
――ギギギギ
っと軋む音が聞こえ、更にその数秒後には、大きな音が複数個所で鳴った。
「エハルト隊長、各防火扉の閉鎖完了しました!」
「よし、ご苦労。魔術兵隊、この空間内だけでいい、浄化魔法を最大で放て!!」
「全く、無茶を言うなぁ~…」
部下からの報告を受けたルーレンから出された命令に、銀髪の魔法使いは愚痴を吐きつつも部下達を集め、巨大な魔法陣の構築を始める。
「偉大なる元素の源よ。我々に厄災を払う聖なる光を…! ヤミバ・ライ!」
銀髪の魔法使いを中心に構築された魔法陣から白く輝く光が放たれ、あっという間に広場内に居たアビスの化物や黒い霧を消滅させた。
先からチマチマと打っていた浄化魔法とやらと比べると凄い効果だけど…あの言葉、完全に日本語だったよな? 今まで異世界の人達の言葉や文字は、何となく脳内で日本語に自動変換されているのか少し違和感があったけど、あのヤミバ・ライという言葉はそういう違和感を感じることなく聞き取れた。強いて言えば、日本人の流暢な日本語というより、日本語覚えたての外国人特融のカタコトだったけど…
久々に聞いた日本語に少し引っかかっていると、
「どうだったかな? 我々エハルト小隊の実力は」
戦闘が終わったことで後処理を部下に任せたルーレンが俺の所に駆け寄って来た。
「…素晴らしいの一言ですね。重装歩兵隊で主力の歩兵隊を守りながら敵に向けて突撃、相手に十分接近した後、歩兵隊が前に出て敵を切り倒し、それを後方に居る魔術兵隊で援護。そこら辺の傭兵団ではできない動きかと…」
「そこまで見ている上に、理解しているとは…ますますエハルト小隊に欲しくなるな…」
俺が感想を述べると、ルーレンはまるで獲物を狙う肉食動物のような目で俺を見つめてくる。
こういう時は話題転換だな。
「そう言えば、魔術兵隊が使っていたあのやみばらいとやらは一体…」
話題を変えるために自然な流れで俺は魔術について尋ねた。
「ヤミバ・ライのことか…あれは、勇者シグレ・カグラザカ様が使っていたというアビスを浄化する魔法を可能な限り再現した物だ」
「ほう。勇者の魔法を再現するとは!」
勇者の魔法を再現したという言葉に俺は食い入る。
もしかしたら、俺の既視感を解くのに繋がるかもしれない。
「と言っても勇者の物と比べた5分の1程度だ。かつての勇者は、大規模な戦場にて単独で使用し、一気にアビスを浄化。更にそのまま戦闘に参加したと聞く。我々は5分の1の魔法を大人数で放ってようやくなのに、単独で魔法を使ってそのまま戦闘に参加する辺り、勇者様は大層な強さだったんだろうな」
ルーレンは少し硬い笑みを浮かべながら、魔法と勇者の話をする。
「まぁ…確かなのは、勇者の5分の1とは言え、ヤミバ・ライは、今我々人類が扱える最上位魔法の1つと言えるだろうな」
「なるほど…」
「どうだ? 私達と共に行くというのではあれば、ヤミバ・ライを教えても…」
「結構です」
ニヤリと笑みを浮かべたルーレンがヤミバ・ライを餌に傭兵団に招待してくるが、そんな物で釣られる俺ではないため、未成年が酒の誘いを断るようにきっぱりと断った。
しかし、アビスを浄化する最上位魔法ヤミバ・ライ…もとい闇払いか。言葉は恐らく勇者が浄化する時に言っていた日本語が、そのまま呪文として定着したんだろうな……アークエーテル、イグニスコア、アクアコア、ウェントスクリスタル、テラクリスタル、そして闇払い…うーん、これだけでは判断材料がまだ足りないな。もう少し情報を集めることにするか…
勇者について少し考えていると、
「よ、ようやく到着した…」
と後ろから聞こえ、俺は振り返った。
そこには怪我を負って居たり装備の一部が壊れている傭兵達が居た。
「どうした? 何があった?」
「エハルトさん…実は皆さんが行った後、アビスが突如現れたんですよ。それで私ら傭兵や連邦軍の人達はそれらに足止めされて…ようやく殲滅したんですけど…連邦軍のお偉いさんが、休憩する暇があるなら、さっさと坑道に行け! っと言ってきまして…それで今ここに着いたんです…皆さんがアビスを先に殲滅してくれていて本当によかった……」
傭兵たちは連邦軍に無理矢理動かされていたようで、疲れが来たのかその場に座って休み始めた。
「……ハァ…本当に変わらんな……おい、魔力回復したら、誰かあいつらに回復魔法をかけてやってくれ」
ルーレンは小さく溜息と愚痴を吐くと、魔術兵にそう声をかけた。
(あの反応、ルーレンは連邦軍にあまりよいイメージがないのか?)
俺はそう気になったが、それを聞いて人の地雷を踏むのは嫌なため、胸に押し留めることにした。
「それで、エハルト殿。ここからはどうするつもりなのだ…?」
「そうだな…連邦軍がどう判断するかは知らないが、不要な戦闘で傭兵たちが、ヤミバ・ライによってうちの魔術兵隊の者が消耗している。一応、坑道の外にアビスが広がることはないはずだから、暫くの間は休息を取って、全員に立て直しの時間を与えたいと思っている」
「それが良かろう。私が町に居るであろう仲間と合流するついでに、そのことを連邦軍の方に伝えて置こう」
「それは有難いのだが…奴らは頑固だぞ?」
「構わんよ。そういう者の相手は慣れている………主にクソ上司相手に…」
「何か言ったか?」
「いや…それでは行ってくる!」
俺はその場から逃げるように坑道の入口に目掛けて走り始めた。
そして、坑道の外に出た俺は走りながら、
「両肩、機翼型推進器!」
『承認。両肩、機翼型推進器転送します』
両肩の装備を機翼型推進器に変更し、そのまま空を飛んで町へと向かった。
そして、信じられない光景が俺の目に入ってくる。
「……何がどうなってんだ…?」
作戦本部が置かれていたはずの町は、中央部付近を中心に瓦礫の山と化しており、視線を郊外へ向けると、何者かが光線でも放ったのか、地面が真っすぐと深く抉れていた。
「…真白っ!」
異様な雰囲気に俺は真白のことが心配になり、町中に降り立ってそのまま走り、町に居るであろう真白を必死に探す。
「真白~! どこだ~~!! 真白~~~!!!」
声を大にして名前を呼びながら町中を走り回るが、幾ら経っても返事は帰ってこない。
時間が経つにつれて、焦燥感が積もり始める。
「頼むから返事をしてくれ……真白~~!!」
「アサヒ殿!!」
もう一度大きな声で名前を呼んだ時、何処からか伊織の声が聞こえて来た。
辺りを見渡して探してみると、家屋の壁にもたれて座っている伊織と、その伊織の膝に顔を埋めて蹲っている真白の姿が見えた。
「……良かった…」
真白が生きていたということにホッとした俺は、肩の力を抜いて2人の元へと向かう。
「それで伊織殿。真白はどうしてこうなっているのだ?」
2人の元に来た俺は、母親に甘えるように伊織の膝に顔を埋めている真白について尋ねた。
「…どうやら、自分の力が想像以上だったようで…それが怖くなっているらしいです」
「そうか……真白」
「……はい」
俺に呼ばれて、真白は顔を上げる。
真白の顔は泣いたせいか目が少し赤く腫れているのが分かる。
「どうして怖くなったんだ?」
「…地面が大きくえぐれていた所があったと思いますが、あれ…私がやったんです……」
「なるほど…」
真白の言葉を聞き、何となく俺の脳内で1つの出来事の流れが、パズルのように出来上がっていく。
大体の流れは掴めたけど…それを指摘したら、本人を追い詰めることになるかもしれないから、黙っておくか…
そう内心で判断した俺は、黙って真白の話を聞くことにした。
「突然町中にドラゴンが現れて……それで、皆を助けたいと思って…力を使って、倒したんですけど……私が想像していた以上の力が出てしまって……それで、それで…もし私の我儘を聞いて、アサヒさん達が私を連れて行って、ピンチになった時…その力を使っていたら………皆さんを…この手で…やっていたかもしれないと思ったら……私、怖くて……」
震える声で真白は自分が感じている恐怖について話してくれた。
正直こういうのは爺ちゃん以外されたことがないから、どうするのが正解か分からないけど、出来るだけ自分なりに心のケアをするか…
「…恐らくなのだが…真白の力は君を研究していたという奴らによって無理矢理抑え込めれていたのではないか? だけど、今はその抑えがない。だから想像以上の力が出てしまったんだと思う」
「恐らく…そうかと……施設に居た時は、首輪を付けられていましたし…」
俺の指摘に、真白の声は少し弱くなる。
「今の真白は自分の力が少し大きくなって、怖くなっている。その怖さ、何となく分かるよ。でも、その怖さを克服したら、人思いで優しい真白はヒーローになれると私は思うよ」
「ひーろー…? それって、何ですか?」
ヒーローという言葉に聞きなじみがないのか、真白は首を傾げながら意味を聞いてきた。
「ヒーローっというのは、人を思いやれる優しさと不屈の勇気を持ち、自分が持つ強い力で、人々を助ける人のことさ」
「…私が…それになれると本当に思いますか…? 自分の力を制御できない私に…」
「正直、力があるかどうかなんてヒーローには関係ない。人を思いやれる優しさと、何事にも屈しない挑む勇気があれば誰でもヒーローになれるんだよ。実際、真白は人を助けるために力を使った上に、皆が巻き込まれないように町の外に出た。偶然かもしれないけど、それもまたヒーローらしい行動って言える。それに、俺が知っているヒーロー達も最初は真白のような力を制御できないこともあった。だから、俺らと一緒に力をしっかりと理解して、制御できるようにしていこう。時間はたっぷりあるんだから…」
俺は真白の頭を優しくなでながら、俺が知っているヒーロー像を語る。
「本当に、出来るんでしょうか…?」
「真白は優しく純粋ないい子だ。きっと力の制御ができるようになれるよ…」
不安そうに見つめる真白の頭を撫でながら、俺は胸を張って出来ると断言する。
「……アサヒさん、ありがとうございました…お陰で落ち着きました」
深呼吸をした後、真白はニッコリといつもの笑みを浮かべてお礼を言ってくれる。
「これが終わったら、特訓しような!」
「はい!」
元気のよい返事が返ってきて、俺は一安心する。
「さてと、今は依頼を解決しないとだな。私は少し旅団長らに話があるのでこれで…!」
「アサヒ殿!」
俺は真白の頭をしっかりと撫でた後、ルーレンの提案を旅団長らに伝えようと動こうとした時、伊織が俺を呼び止めた。
「何かな? 伊織殿?」
「……実は、今非常に不味いことが起きてまして…」
「何があったのだ?」
少したどたどしい言い方をしながら、伊織は周りを見渡して、俺ら以外に人が居ないことを確認すると、口を開いた。
「……真白ちゃんが倒したアビスドラゴンが出現した場所が、町の中央部付近でして…そして、そこに作戦本部が置かれていたんですよ…」
「…まさか? そのまさかか?」
「………はい、作戦本部に居た者達がほぼ全滅しているそうなんです…一応、旅団長は助かったみたいなんですが、重症を負い指揮が取れないみたいでして…」
「……」
伊織から聞いた話に、俺は内心頭を抱える。
「それは少々不味いな…今こちら側の状況としては、戦線を押し上げてアビスを坑道の奥へと封じ込めた状況。幾ら封じ込めているとはいえ、時間をかけ過ぎたら破壊されかねん…せめて数時間後には作戦を再開したい…」
「確か、傭兵連合の人達は無事な人が多いと聞きましたので、そちらに相談してみてはいかがでしょうか?」
「なるほど…では、そちらに当たってみる。ではことは急を要するため、また!」
「はい! また!」
「アサヒさん、頑張ってきてください!」
伊織と天使に見送られながら、俺はできるだけ早く次の行動を起こすため、傭兵連合の人を探し始めた。




