第2話 異世界は非情
「どうかされましたか?」
「あっ! いや、なんでもない…ごく稀に頭痛がすることがあってな…」
女兵に声をかけられ、ハッとなった俺は、咄嗟に頭痛がしたと嘘を付いた。
「そうですか。なら、もう少し早く宿に向かいましょうか?」
「あ、ああ…頼む」
この世界の闇を見た俺は、1人になれる宿に1秒でも早く行きたくなり、嘘の頭痛を理由にして、宿へ向かうペースを早めてもらった。
―◇―
「此方です。どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとう…」
プラサス市の中で最上の宿の最も良い部屋に案内された俺は、女兵に礼を伝えた後、部屋の鍵を閉めた。
「解除…」
『承認。機体名YAMTO壱式、解除します』
今まで姿を隠すために付けていたパワードスーツを脱いだ後、そのままフカフカのベットにダイブした。
「女尊男卑かよ…日本とかが男尊女卑だった時も、ここまで酷くなかったはずだぞ……」
顔を横に向け、窓の外を見つめる。
耳をよく澄ませば、厳しい労働環境に悲鳴をあげる男達の声が聞こえてくる。
「…幸いにも、俺はパワードスーツのお陰で素顔はバレてないし、例え見られてもしても、これなら誤魔化せる」
窓に映る女性よりの美形に設定したアサヒの顔を見ながら呟く。
この顔ならば、裸を見られない限り安心することが出来るだろうが…もしバレたりしたら……いや、まぁTALOSがあるから、捕まって奴隷にされるとかはないだろうが、間違いなく俺のセカンドライフが崩壊するだろう。それだけは避けたい!となれば、俺は男だとバレないように、楽しむしかないな……まずは、仕事を探さないと…ギルドみたいな組織があればいいが…
――コンコンコン
今後のことを考えていると、誰かが部屋をノックした。
「機体装着…!」
『承認。TALOS起動します。』
念の為、武装を外したTALOSを纏った後、扉を開けた。
「レット殿、部屋の心地はどうだ?」
「オリビア殿…お陰様でゆっくり出来ている。今日はこの部屋で、旅の疲れを取らせてもらおう」
「それは良かった。こちらも用意したかいがあったというもの……どうだ? これから共に食事をしないか?」
部屋に訪ねてきたオリビアと会話をしていると、食事に誘われてしまった。
誘いに乗りたい所だが、恐らくバレないだろうが、万が一の場合があるためここは断るか。
「…お誘いに乗りたい所だが、今少し頭痛が酷くてな…申し訳ないが行くことは出来ないな…」
「そうか…それは残念だ…夕食は部屋に持ってこさせれば良いか…?」
オリビアからの誘いを仮病を理由に断ると、オリビアは気をかせてくれた。
「それで頼む。部屋で1人でゆっくりと食べたくてな…」
「了解した。それでは、支配人にそう言っておこう…ではまた明日…」
「あぁ…」
オリビアに別れを告げ、再び部屋の鍵をかけた俺は、パワードスーツを着たまま、近場にあった椅子に座り込んだ。
「…これで、今日の夕食は何とかなるが…やっぱり、不安になるのは明日からだな……オリビアさんには悪いが、ここを朝イチに出て街を探索するか」
背もたれに持たれながら、明日の予定を考える。
「…飯はまだ来ないだろうし……ステータスやアイテムの確認でもするか、飛行中スラスターゲージが減らなかったみたいに、一部変わっているのがあるかもしれないし…」
画面を開き、先にステータスの確認をすることにした。
〈ステータス〉
スキルポイント:72
魔力:20
スタミナ:120
筋力:260
敏捷:200
器用:116
耐久:54
精神:98
体力と幸運が消えて、その分のスキルポイントが追加で入っている…?
ステータス画面を見た俺は、直ぐにおかしな点に気がついた。
俺が覚えている限り、俺のステータスはこうだったはずだ。
〈ステータス〉
Lv99
スキルポイント:0
体力:60
魔力:20
スタミナ:120
筋力:250
敏捷:200
器用:116
耐久:54
精神:98
幸運:62
恐らく、この世界では体力と幸運の要素は不要とされて消され、それに振っていたスキルポイントが帰って来たという感じか?それじゃあ、その分のスキルポイントを上手い具合に割り振るか…
〈ステータス〉
スキルポイント:0
魔力:50
スタミナ:120
筋力:260
敏捷:200
器用:120
耐久:70
精神:100
ステータスの割り振りは直ぐに終わり、ステータスは上記の通りとなった。
「さてと、次はアイテムの確認だな…」
ステータス画面を閉じた後、アイテム一覧の画面を開いた。
〈持ち物〉
・体力水薬×45
・上位体力水薬×82
・最上位体力水薬×54
・回復水薬×32
・上位回復水薬×98
・最上位回復水薬×42
・特上回復水薬×28
・神霊蘇生薬×12
イベントに備えて揃えていた水薬系を見た後、下へと画面をスクロールさせる。
「仕様が変わっていたり、無くなっているアイテムとかは、覚えている範囲だとないな…これなら、特に問題は無い…!」
アイテムをある程度確認し終えたその時、
――コンコンコン
誰かが扉をノックした。
「はぁい!」
返事をしながら椅子から立ち上がり、扉を開けると、
「食事をお持ち致しました」
「おお、有難く頂くとしよう!」
待望の料理を従業員が運んできてくれた。
「それでは、ごゆっくりと…」
料理をテーブルに置き終えた従業員は、一礼した後部屋から出て行った。
「機体解除!」
扉に鍵をかけ、パワードスーツを脱いだ俺は、料理が並べられているテーブルの前に座った。
料理はワンプレートの上に、パン、骨付きローストチキン、サラダが並べられており、とても美味しそうな匂いが漂っていた。
「いっただきまーす!」
腹が減っていた俺は、早速料理を食べ始める。
1番目立つローストチキンを手で取った俺は、そのまま噛り付いた。
「うっまぁーい!」
ローストチキンの美味さに、思わず声を出してしまった。
皮の部分はサクサクで、中はふっくらジューシー、塩加減も絶妙で、正しく絶品料理と言えるだろう。
「これを食い終わったら、さっさと寝て明日に備えるか!」
美味い料理を堪能しつつ、明日することを再確認することにした。
―◇―
日が登り、街の者達が開店作業を進める中、オリビアはアサヒに声をかけるため、彼の部屋に訪れていた。
「おはようございますアサヒ殿。体調は万全ですか? 実は相談したいことが……」
数回扉をノックをした後、オリビアはドアノブに手をかけ、アサヒに声をかけながら部屋に入る。
だが、
「アルフォート様!?」
そこに居たのは部屋の掃除をしていた従業員だけだった。
「……アサヒ殿はどちらに…?」
従業員しか居ないことに、オリビアは驚きつつ、アサヒの所在を尋ねた。
「それなんですが…アサヒ様は、急用ができてしまいすぐに出ることにした。挨拶もせずに出てしまい申し訳ない。必ずやこの度の礼の恩は果たすと、伝言を残してチェックアウトされました」
「…そうだったのか……はぁ、アサヒ殿を我が軍に引きれようかと思っていたのだがな……」
従業員からアサヒが既に出て行った聞いたオリビアは、勧誘しそびれたことに対して悔しがる。
「……まぁ、これはまたの機会に相談するとするか……さて、我々は防衛線の再構築を行わなければな…!」
気を切り替えて、オリビアは己がしなければならないことを片付けるために、アサヒが滞在していた部屋を後にした。
―◇―
従業員に伝言だけ残して街に出た俺は、街の人が開店作業を進めるのを尻目に、門に向けて歩いていた。
「さてと、街に出たのはいいが…今の問題は金銭だな…金が無ければ色んなことが制限される…質屋みたいな所があればいいが……」
気になった道を優先的に進む中、金銭問題を解決できる所がないか探していた。
「……傭兵連合会…?」
とある建物に掲げられている看板を見た俺は、その場で立ち止まった。
「……だけど、これは別の街でやったほうがいいな…」
傭兵として登録しようか考えたが、昨日活躍したことである程度噂になっているだろう。
そして、今の俺はオリビア殿に伝言だけを残して部屋を出た…もしかしたら、オリビア殿が探しているかもしれないので、この街で傭兵登録をしないことにした。こういうの、ゲームとかだと絶対面倒事に巻き込まれるからな。
「………さて、門の警備も厳重になっているかもしれないから〜…」
路地裏に移動した俺は、着ていたパワードスーツを脱ぎ、インベントリの画面一覧を表示し、その中にあるアイテムの名前をタップした。
「不可視の指輪〜!」
某猫型ロボットに寄せた言い方で、取り出したのは半透明の指輪だ。
不可視の指輪。その名の通り、装着者を不可視に…つまり透明人間にすることが出来る指輪だ。
「まぁ、着けたらパワードスーツ装備不可になるし、自身よりランクの高い敵には通用しないという性能から、雑魚敵が無駄に多い地帯に行かない限り、使われることがほぼないが……今のこの状況なら…!」
俺は辺りを見渡して人がいないことを確認した後、左手の中指に指輪を付けた。
「機体装着!」
指輪を着けたあと、正常に発動しているか確認するため、パワードスーツを着けようとするが、
『不可。現在、不可視の指輪の効果が発動中です。不可視の指輪を外してからもう一度お試しください…』
システムに拒否された。
多分これで、不可視の指輪は正常に動いているだろう。では、門を潜ろうとするか!
裏路地を通って表通り出て、人が徐々に増える中、表通りを通って門に向かう。
移動中、時々人に当たりそうになったため、不可視の指輪が正常に動いていることが確認できたので、そのまま俺は、他の者達が兵士達からボディチェックを受ける門を悠々と潜り抜けて門の外へと出て行った。
「…………ここまで来れば大丈夫だな」
門を潜り抜け、人影が無くなる所まで道に沿って歩いた俺は、一息つくため岩の上に座った。
「……一応確認してみるか」
ふと思い立った俺は、マップを開いて見た。
マップを表示した画面は、殆どがマップに黒い靄が掛かっているが、プラサス市の街とその一部周辺だけ靄が無くなっていた。
そして、マップに写っている所を指でタップしてみると、
『指定場所に転移しますか? YES/NO』
選択肢を写した新たな画面が出てきた。
いや〜、TALOSでも訪れたことの無い場所には黒い靄がかかるのだが、街や主要な場所に向かうことでマップが表示されるようになり、自動的にワープポイントが置かれるから、もしかしてと思ったが……予想通りだったな!
選択肢の画面を消した後、つけっぱなしだった不可視の指輪を外した。
「さっさと、次の街に向かうとするか…機体装着…!」
『承認。TALOS起動します。』
機体を装着した俺は、腰掛けていた石から立ち上がり、そのまま背中のジェットノズルを起動し、空高く飛び上がった。
「確か…オリビア殿が、プラサス市からは魔導機関車とやらが出ていると言っていたな…つまり、何処かに線路があるというわけだが……」
周囲を見渡して線路がないか探していると、
――ボーッ!ボーッ!
っと、汽笛が聞こえてきた。
間違いない汽車だ。音が聞こえてきた方に向かってみるとしよう!
俺は、そのまま汽笛が聞こえてきた方へと飛んで行った。
俺が居た所からそう遠くない所に線路があり、更にプラサス市から出たと思われる魔導機関車が煙突から白い煙を上げながら走っていた。
魔導機関車の見た目は、イギリスのLNER A4形蒸気機関車4468号機「マラード」に似た流線形型の機関車だった。魔導機関車と言う名の通り、動力源は魔法系なのだろう。白い煙を上げているを見る限り、仕組みとしては給水車から水を得て、刻印型の魔法などに魔力を供給し、水を湧かせて水蒸気で走っているのだろう。証拠として、給水車には石炭ではなく、魔石らしき黒い輝きを放っている石が積まれていた。
なんでそんなことが知っているのかって?機関車や電車は、いつだって童心が擽られる物だろう?特に男はな!
魔導機関車の仕組みを考えながら、俺は飛行速度を魔導機関車と同じ速度まで落とした。
その理由としては、この機関車の行先まで、屋根の上でゆっくりさせてもらうためである。
ん?無断乗車?バレなきゃセーフなのだよ!
速度を合わせ、俺は音を立てないようにゆっくりと客車の上に降り立った。
「それじゃあお休み〜…」
両腕を組んで枕代わりになるようにした後、俺はそのまま寝ることにした。
―◇―
「…はっ!」
朝起きるのが早かったためか、思ったより寝てしまっていた俺は、何処かで目が覚めた。
ガタンゴトンと列車が揺れる中、上半身だけ起こして辺りを見渡してみると、魔導機関車は現在山の中を走っている最中だった。
「ふぁ〜……さーて、どれだけ移動したかな…?」
欠伸をしながらマップを開いてみると、プラサス市の他に、厶ハイナ市、ロンサンス市、日進、海門という場所とその周囲が表示されていた。
カタカナから一転して表記が漢字になっている辺り、全く別の国にやってきたということか…?
「寝すぎたァ…一度降りて近場に移動するか……傭兵連合会あるかな?」
不安を抱きつつ、魔導機関車が山の中を走る中、立ち上がり、音を立てないようにゆっくりと浮き上がった。そして、そのままマップを確信しながら街に向けて飛んだ。




