第19話 モール作戦発動
モール作戦開始3分前。
傭兵の俺達は坑道の入口から数百メートルの近場にある森の中に潜伏するよう命じられ、命令通りにそこで待機していた。
配置的には、最前線中央にエハルト小隊、その左右に各傭兵が半数ずつ置かれ、その後ろに各連隊が展開しているという感じになっている。
うんまぁはい…傭兵は完全に正規軍の肉盾、鉄砲玉になれということですね。
後方に治療用の安全地域を設けているみたいだけど、人の命を何だと思ってるんだ…
『作戦開始1分前っ!』
後方から拡声器を使って、連隊長がそう呼びかけてくる。
「伊織殿、今回ばかりは皆の消耗を抑えるため、先に行かせてもらうぞ」
「またですか?!」
「なぁーに、アビス溜りとやらを見つけたら止まる故、心配なさるな」
「……はぁ…まぁ今回ばかりは仕方ありませんね。全力で動いてください」
「うむ、心得た!」
壱式を展開していた俺は伊織の許可を得て、機翼型推進器を起動させていつでもフルスロットルで飛べるように構える。
そして、
『作戦開始!!』
連隊長の掛け声と共にラッパが鳴り、それに合わせて俺は高速飛行で坑道の入口へと向かう。
「突撃いぃーーーーー!!」
機翼型推進器の噴射ノズルから青い炎を吹かせながら坑道に向けて真っ直ぐ飛んで行った俺は、粒子式刀剣を起動させて直線上に居た禍々しい獣や人型の化物を次々と切り伏せる。
「漆式、カスタマイズ!」
坑道の入口付近に展開していたアビスを追い越したのち、俺は機体の方のスラスターで急ブレーキをかけて坑道の入口に背を向けながら武装を変えた。
『承認。武装、漆式に変更します。』
システム音声が聞こえた後、俺の武装は右腕に機関銃、左腕に四連装擲弾小型発射器、両肩に集束型噴進弾発射機を付けた大人数相手用の漆式のカスタムに変わる。
「着弾地点、目視指定! 全ミサイル発射ァ!」
唐突な襲撃にアビスが混乱しているうちに、俺は両肩の集束型噴進弾発射機からそれぞれ2本の長方形状のミサイルをアビス目掛けて発射する。
放たれたミサイルはアビスとの間合いを詰めた後、内蔵していた子爆弾をばら蒔いた。
「ギャンッ!」
「ヴォルァ!!?」
「ギィッ!!」
慣性の法則に従い、ミサイルからばら撒かられた子爆弾は横降りの雨のようにアビスを襲い、次々と爆発して土煙を上げる。
「弾幕はパワーだぜ!」
土煙により視界が悪い中、俺はアビスがいた方向に向けて右手に装備している機関銃を乱射し、生き残ったアビスの殲滅を開始する。
「さて、どうかな?」
軽機関銃の装填数100発分を叩き込んだ俺は、機関銃がリロードで使えない間に残党が居ないか探し始める。
「殺気でバレバレだぞ?」
「ゴルァッ?!」
残党を探して居た俺は、背後にある坑道入口から出てきて俺に迫ってきていたトロールのようなアビスの化物に、左腕の四連装擲弾小型発射器から4発の40mm擲弾を撃ち、それに対処できなかったトロールモドキは木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「…驚いた。誰か飛んで行ったと思ったら、単独で殲滅しているとは…」
他に敵が居ないか索敵していると、そのような声が聞こえたので、声の方に顔を向ける。
声がした方にいたのは、金髪に白い肌の西洋風の鎧を着たエルフの者だった。
「んんっ、貴殿は…?」
軽く咳払いして高揚しかけていた気持ちを抑え、俺はエルフ騎士にそう尋ねた。
「私を知らない者はあまり居ないと思うのだがな…まぁいい……私はエハルト小隊隊長、ルーレン・エハルトだ」
「…これは失敬。エハルト小隊の隊長殿とは…私は傭兵のアサヒである」
エハルト小隊隊長ルーレンは、掌を相手に見せる方式の敬礼で自己紹介をしてくれたため、俺は日本式の敬礼で返しながら自分の自己紹介をした。
「ほう、アサヒ殿も元軍人なのか?」
「少し知識がある程度ですよ」
「その割には、相当な強さがあると見える…」
ルーレンは散り始めているアビスを見ながら、俺の強さを見抜いてくる。
うーん、これは下手に出たら俺の武装にも突っ込んできそうだな…まぁ、魔法や独学とかで〜という感じで誤魔化しておけばなんとかなるか。
「…ふむ、実に興味深い…どうだろうアサヒ殿、エハルト小隊に入らないかい? 君の強さならば、分隊長を任せても良い」
「あー…大変有難いですが…既にパーティーを組んでいるので、お断りします。それに、それ所ではないですよ…」
「……そのようだな」
ルーレンからの提案を断った俺は、坑道の入口の方を向く。
少しの間、坑道の入口を見つめていると、ゾロゾロとアビスが湧いて出てきた。
「重装歩兵隊前へ!」
ルーレンがそう大きな声で叫ぶと、大盾を持ったフル装備の15名程の兵士が俺らの前に出て、横一列に並び盾を構えた。
「重装歩兵隊前進! そのまま坑道内へ突入せよ!」
はっ!!
隊列を組んだ重装歩兵隊に、ルーレンは新たな命令を出し、命令を受けた重装歩兵隊は前進を始める。
「ウガァ!!」
ゴブリンらしき小鬼は重装歩兵隊に襲いかかったが、盾に防がれ弾き返させる。
「我らはエハルト小隊、鉄壁の重装歩兵隊! アビス如きに恐れず進め!」
アビスから攻撃を受ける中、隊列の中央に居る隊長らしき人物は隊員達の士気を上げるため、掛け声をかけながら進む。
「魔術兵隊! 重装歩兵隊の援護を!」
「魔術兵の皆、行くわよ〜!」
ルーレンが再び叫ぶと、あのザ魔法使いのような姿をした銀髪で長髪の少女が俺らの前に出てきて、他の魔法使いと共に次々とアビスに魔法をぶつけ、次々と消滅させていく。
そして、重装歩兵隊は敵を蹴散らしながら坑道の入口に辿り着いた。
「総員密集隊形に変更!」
横一列に並んでいた重装歩兵隊は、密集隊形へと隊形を変え、
「突入!」
隊長の合図と共に坑道内へと入って行った。
「魔術兵隊突入! 坑道内へ突入後、浄化魔法を使用し、我々の活動可能範囲を広げよ!」
「了解!」
「歩兵隊、我に続け! 他部隊の援護をする!」
ウオォーーー!
重装歩兵隊が坑道内へ入って行ってすぐ、ルーレンの命令に従って、魔術兵が入っていき、更にその後にルーレンが歩兵を率いて坑道内へと入って行った。
「まさに軍隊行動だな…」
1人残された俺は、エハルト小隊の行動に安直な感想を述べながら、歩き始めた。
てか、そろそろ他の傭兵とか正規軍が来てもいいと思うんだけど…もしかして、結構広範囲にアビスが展開してたのか?まあいいか
そんなことを考えながら、俺は坑道内へと入って行った。
―◇―
アサヒが坑道入口付近のアビスを殲滅した頃、他の傭兵や正規軍は、先行したエハルト小隊の後を追って行っていたが、突如現れた複数の裂け目から出てきたアビスによる足止めを受けていた。
「無駄に数が多いですね!」
「きゃんっ!」
アサヒに残された伊織は、アビス化して真っ黒になっている狼を愚痴を呟きながら蹴り飛ばしていた。
「…普通、裂け目の出現は規則性がないはず…もしかして、アビスは自由に裂け目を作れるようになっている…?」
余裕が出来た伊織は、偶然とは言いにくいタイミングで裂け目ができたことに疑問を思い、その理由を考える。そうして思考を巡らせていた伊織だったが、
「な、なんだコイツ!」
「強っ!」
という声が聞こえてきたため、声の方に顔を向けた。
すると、そこでは全高3メートルはある真っ黒な鎧が拳のみで、傭兵達を蹂躙していた。
「…!」
「や、やばっ!」
吹き飛ばされて地面に尻餅をついていた獣人の傭兵に、鎧は狙いを定めて巨拳を傭兵目掛けて振り下ろそうとした。
「っ! 八重極真流、衝撃掌底!」
傭兵を守るために走り出した伊織は、間一髪で鎧の拳の威力を技で打ち消して受け止めることができた。
「八重極真流、金剛連拳!」
隙を作らず伊織は鎧に拳を何十発も叩き込み、食らった鎧は勢いで後ろへとよろめきながら下がる。
「大丈夫ですか?」
「おかげさまで…」
鎧が怯んでいるうちに、伊織は狙われていた傭兵に手を差し伸べ、立つのを手伝った。
「それで、貴女の名前は?」
「神条伊織です!」
「伊織ね。私はローズ。よろしく…!」
自己紹介をしながら、伊織は構え直し、ローズは落としていた自身の大鎚を持ち直して構える。
「それでは、行きましょう! ローズさん!」
「ええ!」
鎧が態勢を立て直したのを見た2人は、タイミングを合わせて鎧目掛けて走り出す。
「食らえぇ!!」
最初に仕掛けたのはローズで、大鎚を横に振るって鎧を吹き飛ばそうとするが、
「…!」
鎧は勢いで後ろに下がりながらも大鎚を受け止め、しっかりと両腕で大槌を掴む。
「っ! 離せこのっ!」
「八重極真流、嵐刃一蹴!」
鎧に大鎚が掴まれたローズが力を振り絞って鎧を振りほどこうとしている中、その隙を突いて伊織は鎧に目掛けて宙で足を一振りし、出て来た斬撃を鎧の頭部にぶつける。
「っ!」
「はぁっ!」
諸に食らった鎧はふらつきながら、大鎚を掴んでいた手を放してしまい、更にその隙を突かれてローズに蹴り飛ばされてしまう。
「お返しをたっぷりしようじゃない!」
大鎚を構え直したローズは、自身の魔力を大槌へと流し始め、それと同時に大鎚の打撃部分に魔法陣が浮かび上がり始める。
「ファイブコンボ! レイジングブレイカー!」
大鎚に刻印された魔法が発動したのを横目で確認したローズは、縦に大鎚を振り下ろした。
鎧が轟音と共に大鎚を胸に受けると、大鎚が動いていないのにもかかわらず、同じ音が4回鳴り、音が鳴るたびに大鎚と触れている部分からヒビが全身へと徐々に広がり、5回目の打撃音が鳴ると、鎧は完全に粉々に粉砕され、破片は消滅して行く。
「凄いですね…あの硬そうな鎧を木っ端微塵にするとは…」
そう言いながら伊織はローズに駆け寄る。
「1回目と同じ威力の打撃を指定した回数で相手に打ち込む技だよ……でも、回数が多い分、反動と消費魔力は凄くて……ちょっとの間私は動けないから…悪いけど運んでくれない?」
「嗚呼、なるほど…では後方に運びますね」
「よろしく…」
魔法の反動で身体が痺れて動けなくなっていたローズからの頼みで、伊織は彼女を背負って安全な地域に向けて歩き出した。




