第14話 深淵は風裏で動く
「クソみたいな兵器の破壊は完了。後は…」
装置の破壊とそれを護衛していた者を倒した俺は、再び空高く飛び上がり、街を見下ろした。
「魔法が使えるようになって、軍が反撃を始めたか…でも奇襲を受けてやられた分、指揮は滅茶苦茶になってそうだな」
メットの高性能カメラを通して街の状況を確認した後、俺はその場で軽く身体を動かして準備体操を済ませる。
そして、TALOSのタイマーの画面を開く。
「それじゃあ、テロリスト排除RTAスタァーートッ!」
タイマーをスタートさせ、俺はそれと同時に機翼型推進器を最大出力で稼働させて最高速度で街中に向けて急降下を始める。
「っがぁ!」
「な、なんッ!」
街の中へと降下した俺は、地面から1.5メートル程の高さを保ちながら飛ぶ。そして、予め決めていたルートに沿って、鎌鼬の如く次々とテロリストを蜂の巣や輪切りして、反撃を始めた傭兵や軍人の手助けや襲われている市民の救出を行った。
元からの反射神経や運動神経の良さと、TALOSで鍛え上げられた操作性から、俺を見つけて止める者は誰もおらず、テロリストは次々と地面に伏せる。
「タイマーストップ!」
設定していたルートのゴールに辿り着いた俺は、そこでタイマーを止めて画面に表示されている時間を見る。
「うーん。2分38秒か…初見なのと、身体が訛っているせいでそこまで早く終わらなかったな…それに何人かが既にルートから居なかったなぁ…下見が出来たら近道とか把握することができたが…こればかりは仕方ないな…」
1分切りを目指していた俺は、かかった時間を見て反省点を上げる。
「それはそうと、そろそろ本気を出して戦いたい…このままだと腕が訛る」
俺は再び街中を見つめ、良さそうな敵が居ないか探してみるが、幾ら探しても良さげな者は居なかった。
「………仕方ない。伊織殿も元へ戻るとするか」
これ以上探しても意味がないため、俺はゆっくりと街の方へと降りながら、伊織が居るであろう傭兵連合会へと向かい始める。
傭兵連合会に向かうついでに街中を軽く見回ってみると、俺が大体のテロリストを倒したおかげか、軍や警察などは後処理や人々の救出などを始めており、脅威が去ったことが見て分かる。
ふと下に顔を向けると、瓦礫の向こうに救助者が居るのか、数人の軍人と救命士達が瓦礫を退かそうと頑張っていた。
「偶にニュースとかでテロのこと上がるけど…こんな感じなのかな~…」
前の世界で見たテロについてのニュースを思い出しながら、俺は地面に降り立って、瓦礫を退かそうとしている軍人達の元に駆け寄る。
「ちょっと君」
「はーい、退かすので下がってくださいねー」
制止しようとしてくる軍人を押しのけて、俺は軍人達が苦戦していた3メートルはありそうな瓦礫を持ち上げ、それを見た者達は、
「…は?」
と言って目を点にして驚く。
一々反応するのはめんどうくさいので、俺は無視して持ち上げた瓦礫を人が居ないかつ邪魔にならない場所に移動させる。
「それでは!」
「えっあっ、待ち…」
瓦礫を運び終えた俺は、そのまま宙に浮いて空を飛び、傭兵連合会へと向かった。
正直、1人で勝手に動いたことを伊織に問い詰められそうで、少し怖いが…早めに戻るとしよう
そして俺は、救助の手助けを所々でしながら15分程かけて、傭兵連合会に戻って来た。
傭兵連合会は、怪我人の受け入れをしているのか、多くの人が集まっており、建物出入口前ら辺にまで怪我人が座らされて治療を受けていた。
「……伊織殿は居ないな」
降りれそうな場所に空から降り立ち、周囲に伊織らしき人物が居ないことを確認した俺は、一安心する。
一安心した理由は、この人がごった返している状況かつテロが起きているので、テロリストの対処に動いたら怪我人が来て、合流できなくなってしまったという言い訳が通りやすいからである。
「実に完璧な言い訳…これは通るな!」
「何が通るんですか…?」
咄嗟に思い付いた言い訳の完成度に納得していると、ポンと誰かが肩に触れ、聞き覚えがある声が後ろから聞こえて来た。
(まさか…そんなまさか…)
と思いながら俺はゆっくりと首を動かして後ろを振り返ると、そこにはニコニコと笑みを浮かべている伊織が居た。
「あっ…えっ…い、いい伊織殿! そんな所に居られたか! 探したのござるよ!」
一種の恐怖を感じるが、何とか冷静を保ち、完璧な言葉で話しかける。
「一人で突っ走りました?」
「……」
怖さしか感じない笑みを浮かべている伊織からの問い詰めに、俺は思わず黙り込んでしまい、冷や汗を鎧の下で流す。
「い、いや…テロリストに襲われていた者達を助けに向かっただけだ! 決して1人で突っ走たりなど…!」
「先程運ばれてきた複数の怪我人から聞いたのですが、雷のような速さで黒い何かが次々と紳士解放戦線の者達を倒して行ったそうですよ」
「へ、へぇ~…そんな人物が居たのか…ぜ、是非会ってみたいものだ…!」
「そう言えば、アサヒ殿って結構な速さで飛ぶことができますよね? それも自分の何倍もの大きさと重さがあるオークジェネラルを引きずりながらでも…そして鎧は黒や赤色が多いですね………私が言いたいこと、後は分かりますよね…? ね?」
「……」
にっこりと笑みを浮かべて首を傾げて尋ねてくる伊織に、俺は顔逸らして滝の用に冷や汗を流す。
ね?という言葉にこんな圧迫感あったっけなぁ〜…
「あー…いや、なっ…はい。申し訳ありません…」
新たな言い訳を考えようとしても思いつかなかったため、俺は大人しく伊織に謝った。
「……はぁ〜…船の時も言いましたけど、もう少し私を頼ってください。何でもかんでも突っ走るのは危険です」
「大変申し訳ありません…」
「それに、紳士解放戦線が張っていたあの結界も壊しに行きましたよね?」
「はい。その通りでございます…」
「アサヒ殿がすぐに対処してくれたお陰で、多くの者が救われたので、もうこれ以上は言いませんが、少しは仲間に頼ってください」
「はい。善処致します…」
身体が小さくなるような感覚に苛まれながら、伊織に謝り反省する。
「それで、これからはどうします?」
「…今は別れて街の復興を手伝うのが1番と私は思う。何しろ街は今、瓦礫や怪我人でごった返しているからな…」
「そうですね。今は別れて復興を手伝いますか」
「では、夕方頃にまたここで合流しよう」
「はい!」
これからのことを決めた俺達は、街の手助けになるようにそれぞれ別れて動き始めることにした。
それから、夕方になるその時まで、俺は瓦礫を退かしたり怪我人を運んだりして、伊織は怪我人の手当や迷子になってしまった子の親を探したりなどをして、出来る限りのことをすることにした。
―◇―
連邦国歴史博物館。
ワレクトンに建てられたウィラード連邦国の歴史に関する物が展示されている博物館であり、博物館の目玉として、エメラルドグリーン色をした楕円形の宝石、ウェントスクリスタルが特殊なショーケース内に入れられて、大事に保管されていた。
本来であればショーケースの周りには複数人の軍人が警備員として立っているのだが、紳士解放戦線に起こしたテロの対処に追われ、ショーケースの周りには人は居らず、更に職員や警備員が客を避難させるために外に出ていたため、博物館館内自体が手薄になっていた。
無人となり静寂が支配する博物館館内の空間に、突如ヒビが入り、そのヒビは徐々に広がって裂け目となる。
「まっさか、こんなチャンスが来るとわねぇ〜!」
裂け目から最初に現れたのは、チュニックを纏い菱形の面を付けた女性で、その後からゾロゾロと、第2段階の屍人が5体出て来た。
「紳士解放戦線も思ったより使えるわねぇ〜…お陰でこれがこんなにも簡単に手に入るとは」
そう言いながら仮面女は、ショーケースに飾られているウェントスクリスタルに近づく。
「憎き敵の物だけど、輝きは立派だから見とれちゃう…まぁそれはそれとして、パッパッと頂いちゃいましょう!」
少しの間、ウェントスクリスタルのエメラルドグリーンの色合いを少し眺めて楽しんだ仮面女は、平然とした顔で自身の右腕を左手で引きちぎり、切口から溢れ出てくる黒い液体を使って、ショーケースが中心になるように逆五芒星を描いた。
「はーい、それぞれの位置に着いて~」
逆五芒星を描いた仮面女は、棒立ちだった屍人達に指示を送り、屍人達はそれぞれ逆五芒星の角の上に立った。
「それじゃあ皆、準備をしてね!」
屍人達が定位置に着いたのを確認した仮面女は、再生させた右手をショーケースに向け、ぶつぶつと呪詛のような言葉を呟き始める。
仮面女が言葉を呟くについれて、逆五芒星に立っていた屍人達の身体が、徐々にスライムのように溶け始め、溶け始めてから数十秒程で、屍人達は黒い液体へと変わった。そして液体となった屍人は逆五芒星と一体化し、逆五芒星は光が反射しない程真っ黒に変わる。
「ん~~…ぱっ!」
仮面女が言葉を言い終えると、逆五芒星の黒い液体が不気味に光り始め、仮面女はそこに少しの魔力を込める。すると、ショーケースの真上に光り輝く魔法陣が姿を現した。
「はい、今!」
仮面女の掛け声と共に逆五芒星の形を作っていた黒い液体が一滴残らず魔法陣に飛び掛かり、そのまま浸透するように融合した。
黒い液体に浸食された魔法陣は点滅を始め、全体的にヒビが入り始める。
「これだけ浸食すれば、後は…」
仮面女はショーケースに近づくと手刀を振り下ろし、点滅している魔法陣ごと強固なガラスで作られたショーケースを叩き割った。
「ウェントスクリスタル回収完了〜」
被さっているガラス片を手で払った仮面女は、ウェントスクリスタルを手に持ち、天窓から差し込む光を照らす。
ウェントスクリスタルは光によってキラキラと輝き、思わず仮面女はその光に見惚れる。
――ジリリリリリリリ!!
ショーケースが割られたことにより警報が鳴り始め、気が付いた仮面女は慌てることなくウェントスクリスタルを懐に仕舞う。
「これでようやく第一歩を踏み出せる…」
警報がけたたましく鳴る中、仮面女はないもない空間に向けて手刀を振る。
すると、乾いた音と共に空間が切口が入り、先程同様の裂け目が現れ、仮面女は悠々と裂け目の向こう側へと消えて行った。




