第11話 嵐が起きる時
イカモドキとの戦闘をしてから3日後、グレイシア号は無事にヨグルサム共和国首都ワレクトンにあるアドバーン港に接舷し、錨を降ろしていた。
「この度は本当にありがとうございました」
乗客が全て降りたグレイシア号のタラップの前で、俺らは明子から御礼を述べられていた。
なお、艦長のノエルは俺らへの報酬を増やすよう上へと取り合っている最中であるため、ここには居ない。
「いやいや、イカを討伐した後は、最高の待遇をしてもらった…こちらが礼を言うべきだろう」
「本当ならば、スイートルームを用意するべきだったんですが…申し訳ありません」
「限られていると言うのに、美味しい料理を食べさせてくれただけで十分だ。それでは、我々ここら辺で」
「分かりました。それでは、グレイシア号のまたのご利用をお待ちしております。行ってらっしゃいませ!」
「今度は客として乗せてもらおう! では!」
「ありがとうございました!」
俺らは明子達に見送られながら、近場の傭兵連合会に向けて歩き始めた。
「ヨグルサム共和国は一度は行ってみたいと思っていたんですよね!」
「そうなのか?」
「はい! ヨグルサム共和国は小さな国ですが、総人口はとても多く、その影響で最も発達した都市として有名なんですよ! 美味しい物も多くあると聞きますし…今回の報酬を受け取ったら、そこそこ良いホテルを取って、食べ巡りとかもしましょう!」
「食べ巡りか…どんなものがあるか楽しみだ!」
伊織が言う美味しい物に心躍らせながら、俺らは港から出て行き、街中へと入って行った。
「凄い…」
街中へと入ると、伊織がそう呟く。
ヨグルサム共和国の首都は、レンガ造りやコンクリートで造られているビルが立ち並び、しっかりと舗装された道を車が行き交っていた。
「本当に凄いです!」
「……」
目を輝かせて伊織が興奮している中、俺は少しこの光景を微妙に思っていた。
この景色を見たらタイムスリップをしたようには感じるが、俺が見てきた現代と比べると…うん…伊織のような未来的で凄い!!とまでは行かない。
伊織が目を輝かせる中、俺は傭兵連合会の場所を探しながら、街中を歩く。
「見てください! 魔導空機がありますよ!!」
「…?!」
聞いたことがない名前に、俺は驚いて伊織を指している方に視線を向ける。
俺らの視線の先には、軍人らしき女性がバイクのような機械に跨って空を飛んでいた。機械は前部は前弩級戦艦のような衝角があり、両側面にはクジラの鰭のような物がそれぞれ付いているという、魚とバイクを足したような見た目だった。
「…欲しい!」
ファンタジーと科学を足したような乗り物に、俺は興奮して思わず声を出した。
「それは少し難しいと思いますよ?」
「…何故だ?」
「魔導空機は、最近開発されたばかりの軍用機です。まだ大量量産できる体勢は整っていないと聞きますし、それに軍用なので…例え今の機体が旧式化したとしても、購入金額は相当なお金持ちではないと手が出せないレベルになると思います」
「なるほど…我々では手が出しにくいと…」
「はい。一応、民間向けの機体も開発されているという噂はありますが、売られるのは何十年も後でしょう」
「ふむ…どうしても欲しかったが…そういうことであれば諦めるしかないか…」
伊織から魔導空機について聞きながら、俺はもう一度魔導空機の方を見る。
名残惜しいというのもあるが、聞く限り貴重であろう魔導空機を態々こんな街中で飛ばしている理由が気になる。
「……気に臭いな…」
そう呟きながら、歩き続ける。
暫く歩いていると、
「男の奴隷扱いをやめろー!」
「「「やめろーー!」」」
「男は同じ人間! 対等な扱いにしろーー!」
「「「しろーーー!」」」
広場にて、スローガンを掲げている数人の男の集団が、デモらしきことをやっていた。
「伊織殿、あれは…?」
「あれは……世界平等会のデモですね」
「世界平等会…?」
「はい。世界平等会は、その名の通り、男女平等や種族差別などを無くそうとしている組織です。私としては、良い組織と思っているのですが…ちょっと色々とありまして……民主…特に女性の多くが世界平等会を忌み嫌ってますね」
「そうか…」
デモを横目で見つつ、俺は伊織が濁した部分が気になった。
女性解放運動ならぬ、男性解放運動か…まぁ現代人の俺見てもこの世界の男性の立場はあまりにも酷いからな。起きない方がおかしいというものか……
そうこうしていると、俺達はワレクトンの傭兵連合会の看板が掲げられているレンガ造りのビル前まで来てきた。
「デカイな…」
「まぁ…傭兵連合会の総本部ですからね…」
傭兵連合会のビルを見上げながら俺と伊織はその大きさに驚嘆する。
「取り敢えず中に入ろうか」
「はい!」
建物の前で立ち止まっていた俺達は、ガラス張りの回転扉を潜って建物の中へと入った。
「広い…!」
中に入った俺らの目の前には、金剛に建てられていた傭兵連合会よりも何倍にも広い空間が広がっており、入り口から受付へと真っすぐ伸びているカーペットの両端には宮殿のように柱が建てられ、天井からは高級ホテルなどで見る煌びやかなシャンデリアが吊り下がっていた。
(……世界観バラバラ過ぎだろ…)
現代に片足を突っ込んでいる建物の内装を見た俺は、心の中でそう思う。
「き、気になる物が…いっぱい…!」
伊織が目を輝かせて周囲を見ているのを見た俺は、一つ提案してみることにした。
「伊織殿、報告は私がやっておく故、少し見てくるか?」
「えっ! い、いやそれは流石に…」
「しっかりと報告はしておく故、安心して見回ってくれ!」
「あうぅ…あ、アサヒ殿がそこまで言うのであれば…お言葉に甘えて…」
俺の提案に伊織は少し恥ずかしがりながらも受け入れ、自分の傭兵証明書を俺に預けて建物中を見回り始めた。
「…犬のような尻尾があれば、勢いよく振ってそうな程楽しんでいるな」
建物内にあるカフェや防具屋などを楽しそうに見回っている伊織を見て微笑ましくなりながら、俺は受付へと向かい、依頼完了の報告を行った。
十数分程の受付とのやり取りの後、俺は金貨がたんまりと入った袋を受け取った。
「…金銭感覚が狂いそうだな」
たっぷりと袋に入った金貨を見た後、袋の口をしっかりと締めて、人の目を盗んでインベントリアに袋を入れた。
「さてと、伊織殿は~…」
報酬の受け取りが終わり、俺は周囲を見渡して楽しんでいるであろう伊織を探す。
目を凝らして探すと、カフェの前に置かれてある看板に釘付けとなっている伊織が居た。
「何か食べて行くか?」
伊織の元に駆け寄った俺は、そう声をかけながら肩に手を置く。
「ひやっ?! あ、アサヒ殿…!」
俺が近づいたことに気が付いていなかった伊織は少し取り乱しながら俺の方を振り返った。
「折角大量の金があるのだ。今日くらいぱーっと使っても良いだろう」
「……そうですね! 今日くらい色々と使っちゃいましょう!」
少し迷った末、伊織はカフェで少しお金を使うことにした。
「では行こうか…それで、何か気になる物はあったか?」
「はい! ふるーつぱんけーきという物が気になっておりまして!」
たわいもない会話をしながら、俺らはカフェの中へと入っていった。
―◇―
ヨグルサム共和国首都ワレクトンにある平凡なビル。そのビルの地下室にて、数人の男達が集まって居た。
「アルファ隊、配備完了しました」
「ベータ隊、現在移動中、まもなく配置に着くようです」
「ガンマ隊から通信で、仕掛けの準備が完了したとのことです」
「デルタ隊、ターゲットを補足したとのこと」
黒い軍服のような服を着た3人の男達は、それぞれが受けた報告を同じ軍服を着た青い瞳に金髪の男に伝えていた。
「…此度の作戦は、我々の今後を左右する重要な作戦だ。私は君らの奮闘を期待する」
報告に満足した男は後ろを振り替える。
振り返った男の視線の先には、拡大されたワレクトンの地図が書かれた大きな紙が壁に貼られており、その地図には円や文字、記号などが書かれていた。
「ベータ隊が配置に着きました!」
最後の部隊の準備完了報告を受け取った男は一度目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。
「それでは諸君、解放の時間だ…全隊、ワ号作戦を開始せよ!」
「「「はっ!!」」」
指揮官である男からの命令は瞬時に各部隊に伝えられ、昼を知らせる鐘が鳴り響く中、彼らは作戦に従って動き始めた。
最初に動き始めたのは、ガンマ隊と呼ばれていた部隊で、彼らはワレクトンを囲うように様々な場所に人を配置しており、そこにはそれぞれパラボラアンテナのような物が置かれていた。
「了解、これより例の物を発動する」
ワレクトンの中央付近にある大聖堂の屋上に居たガンマ隊の隊長は、待機していた隊員に白昼堂々と小型擲弾筒から発光信号を上げさせ、各地に散っている隊員達に作戦開始を伝える。
隊長は確認のために屋上の下を見て、民衆が発光信号に気付いているかどうか確認すると、擲弾筒発射に伴う爆発音は、大聖堂から鳴らされている鐘の音でかき消されているようで、誰もが気にせず普段通りに暮らしていた。
「よし、発動!」
心の中で安心した隊長は、隊員にアンテナの起動を命じる。
「魔素乱流化装置起動!」
アンテナの傍に居た隊員は、そう言いながら起動スイッチを押す。
すると、アンテナから一つの光弾が放たれ、その光弾は空高く飛び上がると、空中で炸裂した。そしてそこから光る薄い膜のような物が出てきて、膜はワレクトンを覆うように広がり、他の場所に置かれている装置から発生した膜と合わさりながら、ワレクトンの大半を半球体状に覆った。
そして、それを確認したアルファ隊、ベータ隊の各隊長は、
「「全員、攻撃開始!」」
と叫び、それを合図に隊員達が裏路地や路駐していたトラックなどの隠れていた場所から飛び出て、爆弾を建物に目掛けて投げたり、装備品として支給された小銃を撃つなどをしてテロ行為を始めた。
爆発音や銃声に、平和に暮らしていた者達は驚き逃げ回る。
「連邦軍だ! 全員武器を捨て、投降しろ!」
逃げ惑う人々をかき分け、パトロールをしていた十数名の女性軍人達が、護衛用のリボルバーの銃口をテロを行っている者達に向けるが、
「構うな! 我々の怒りをぶつけろ!」
隊長の激励と共に隊員達が発砲し、女性軍人達は次々と凶弾に倒れる。
「に、逃げろ! 遠くに逃げろぉー!」
頼りの綱だった連邦軍人達が凶弾に倒れたことにより、市民の恐怖と混乱は加速し、それらはワレクトン中に波紋が広がっていくことになる。




