第10話 イカした防衛戦
依頼を受けた俺らは、グレイシア号が泊まっているという翔鶴中央港に到着した。
「あれじゃないですかね?」
「そのようだな…」
伊織が指さす方に、1隻の船が泊まっていた。
船は、250mはありそうな巨体に4つの煙突があり、甲板上の建物は白に、船体側面は黒に、喫水線より下は赤に塗られていた。
船に近づいていくと、船のタラップのところに、帽子を被り白い服で身を纏っている位が高そうな
金髪短髪の女性と、同じ服装をしている黒髪短髪の女性、そしてタキシードを来た2人の女性乗組員が立っていた。
「傭兵連合会の皆様、お待ちしておりました。私は豪華客船グレイシア号の副船長、速水明子と申します! そして、こちらは艦長の…」
「ノエル・スラムウェルだ」
黒髪の女性明子と金髪の女性ノエルは俺らに対して、それぞれ自己紹介をしてくれ、
「私は傭兵のアサヒだ。こっちは仲間の…」
「八重極真流の神条伊織です!」
俺らもノエル達に自己紹介をした。
「お二方には申し訳ないのですが…当船の出港が大幅に遅れているので、詳しいお話は中で致します。それではご案内致します」
「分かった」
明子達に案内されて、俺と伊織はグレイシア号の船内へと入った。
船内は広く、豪華な造りになっており、埃や汚れが見れないため、綺麗に掃除されていると想像しやすい。
俺らはグレイシア号の内装に驚き見とれつつ、船橋に上がってきた。
「魔導機関始動!」
「魔導機関始動、よーそろー」
船橋に上がったノエルが、乗組員達にそう命じると、後ろの方からエンジンの音が聞こえてきた。
魔導機関車なるものがあるから、薄々気づいていたが…この世界では、石炭や石油が完全に無い。もしくは廃れているのだろうな…
そんなことを俺が思っているうちに、グレイシア号の出港準備は進んでいく。
――ボォーーーーッ!!
そしてグレイシア号は湾内に汽笛を鳴らし、大海原に向けて出港した。
「それで明子殿、この度の依頼についてなのだが…」
グレイシア号が沖合に出た頃合に、俺は明子に話しかけた。
「あれ? 傭兵連合会から聞いていませんか?」
「化け物からの護衛とは聞いているが、知っているのであれば、もう少し詳しい情報が欲しくてな」
「なるほど、そういう事でしたか…それではお話します。と言っても、私も生存者から話を聞いた程度ですが…」
「頼む」
そして明子は、煙草を口に加えて火をつけると、化け物の詳細を語り始めた。
―◇―
話を聞いた後、俺らは用意してくれた客室へと移動し、襲撃されるまでゆっくりすることにした。
伊織は既に仮眠を取っており、俺はTALOSを着たまま部屋のソファに座り込み、情報を元に化け物への対策を考えていた。
化け物は星海という太平洋のような大海のどこかに現れ、人の形をした烏賊1匹と、口が大きくトカゲ人間が3匹の計4匹で襲ってくるという。イカは無数の触腕を自由自在に操り、人の胴体を軽々と貫く威力があり、吐くイカスミは黒くへばりつく上に、付着するとアビス化する特級呪物とのこと。そして、トカゲ人間は巨人のような巨体に物を鋼鉄を破壊することができる大きな口があり、人間を丸呑みする個体も居たという。なお、イカスミで人がアビス化することから、今回の事件はアビスが関係しているとされている。
しかし、イカとトカゲか…トカゲは何とかなりそうだが、問題がイカだ。絶対水中戦を行うことになる。TALOSは元々宇宙戦用のパワードスーツという設定のため水中戦とかはできるのだが、俺の機体の長所である機動性は間違いなく落ちる。それに武器の方も…実弾系の兵器は水の抵抗で威力と速力が落ち、烏賊だとそれなりに水中の機動性は良いだろうから、近接武器も機動性を落とされている状態だと届かないという事態になる。となると、水中戦闘でまだ使え、近距離から長距離で使える武器となると、光学兵器系か…でもなぁ、俺のカスタムの中に強力な光学兵器はないんだよな。あったとしても、レーザー銃だけだし…今から色々と調整していたら間に合わない可能性があるからな…
対イカ戦の装備をどうするべきか考えながら、俺は保存している機体のカスタムを見始めた。
「……あっ…」
色々と見ていた俺は、1つの機体カスタムを見つけ、それを見つめながら悩む。
正直、この機体は俺の近接向けに調整されたステータスやプレイスタイルに合わないが……まぁ、イカは甲板に上がってくると聞くし、そうなれば俺のステージだから、万が一の時にならない限り使わないだろう。
そう自分に言い聞かせ、俺は画面を閉じた。
その間、船はゆったりと穏やかな海を進んで行く。
襲撃されるまで暇なので、伊織の寝息が聞こえる中、俺が窓の外を見続けていると、誰かが扉をノックした。
「はーい!」
「お食事をお持ち致しました」
「おっ、来たか」
俺は扉を開けて、2人分の夕食を受け取った。
部屋に案内されている途中で、俺はレストランで食べるのではなく、部屋に船員と同じ物を運んでくれと頼んでいたのだ。
「態々済まないな」
運んでくれた乗組員に礼を述べ、食事が乗せられている2人分のワンプレートをテーブルの上に置いた。
ワンプレートには、ライ麦の食パン3切、バター、穴あきチーズ、塩茹でしたウィンナー4本が乗せられており、飲み物としてココアが着いてきた。
「伊織殿は……大丈夫か」
いまだ寝ている伊織を見たあと、俺は席に座り直して飯を食べることにした。
「いっただきまーす!」
頭部部分の装備だけ外し、パンにバターを塗り口へと運ぶ。
美味い。ライ麦パンなんて食べたことがなかったから、少し不安だったが、ナッツのような風味に硬めのため食べ応えがある。バターや切ったチーズを乗せて食べるとなお美味しい。ウィンナーはパリッとした食感とそのジューシーさがとても美味しい。
そして、あっという間に俺は自分の分を食べ終え、伊織のプレートに乗っているウィンナーを見た。
「………海風にでも当たってくるか」
つまみ食いをしたいという欲を抑え込み、海風にでも当たって気を紛らわすために、俺は部屋から出て行った。
甲板に上がると、爽やかな風が吹いており、頭上には雲一つもない綺麗な夜空が広がっていた。
ふと、海の方に目をやると、真っ暗な海面に星々の光が映し出されており、星海という名前が付けられた理由がよく分かった。
「…来たか」
常にTALOSのレーダーを起動していた俺は、そのレーダーに敵の反応が出て来たことを確認した。
「あんまり気は進まないが…仕方ないな。機体変更……シリウス光弾式!」
『承認。機体名YAMTOから機体名シリウス光弾式へ変更します』
音声と共に俺が装着していた機体は、銀と黒を基調した近未来的な姿へと変わり、両腕にはセット装備の銃、速射光線小銃と重撃拳銃が、両肩には全長1メートルはある高出力光線魔砲がそれぞれ装備した。
「近接武器を一つくらい装備しとけよ」
俺はそうぼやきながら、銃を眺めた。
今、俺が装着している機体は、俺のプレイスタイルに合わせて自分で作った機体ではなく、TALOSでよく競い合っていた弾幕と浪漫砲が大好きな奴が使っていた装備であり、そいつを研究するために、俺と良く戦う時に使われている機体を可能な限り再現した物である。
まぁはっきり言えば、俺のプレイスタイルとは全然違ったせいで、まともな研究は出来なかったから、作って保存した後、数回程使って放置していたけどな。
武器の確認を終え、俺は船首の方へと向かって歩き始め、そこで例のイカを待つことにした。
「ゲソッ!」
暫く甲板の上で立っていると、海から人型のイカが海から甲板へと飛び込んできた。
「さぁて、今日の獲物はッ?!」
俺は上がって来たイカに容赦なく右手で持っている速射光線小銃の光弾を叩き込むが、イカは妙に反射神経が鋭く、咄嗟に自身の触腕で防いだ。
「いきなり何をする! 危ないではなイカ!」
「人間の船を襲って何を言ってんだが…」
「貴様らだって、イカを襲っているだろう?!」
「お前の様なイカは見たことも、聞いた事もないし、食いたくもない。そういう文句を言いたかったら、まともなイカの姿になってこい。後喋るな」
「頭に来る奴だ! これでも喰らえぇ!!」
イカの口から大量のイカスミが放たれ、俺へと向かってくる。
「発射!」
俺がそう一言呟くと、会話をしている間にエネルギーを溜めていた高出力光線魔砲から光線が放たれ、光線はイカスミを吹き飛ばして、イカに命中する。
「ゲソォーーー!!!?」
光線をモロに食らい、何が起きたのか分かっていないイカは、驚いたような叫び声を上げながら吹き飛ばされて、船のヘリにぶつかる。
――ボォーーーーーーー!!!
イカが攻撃を食らってぐったりしているのを見ていると、グレイシア号が汽笛を鳴らした。
どうやら船橋に居た者達が、襲撃に気が付き鳴らしたようだ。
「隙あり!」
俺が船の方へ気が回っていると思ったのか、イカは普通のイカよりも圧倒的に多い触腕を出すと、それで拘束してきた。
「ゲーソ、ゲソゲソゲソ! このまま海へと引きずり込んでやる!」
俺を完全に拘束したイカは、そう言うと海へと飛び込んだ。
普通ならばここで抵抗するのが正しいのだろうが、今回は水中戦闘をやるつもりだったため、俺は自ら海へと飛び込んだ。
「自ら我々のフィールドにやってくるとは、愚かなり…行け主竜鰐共!」
水中で俺の拘束を解いたイカは、余裕そうな表情を浮かべた後、そう叫んだ。
すると、3匹の巨大な人型のワニがこちらへと向かってくるのが見えて来た。
もしかして、あれがトカゲ人間か? どっちかというとワニ人間だろ。
そんなことを思いながら、左手の重撃拳銃の銃口を口を大きく開けているワニ人間に定め、可能な限り近づけた後、引き金を引き3発の光弾を放った。
1発は俺に目掛けて真っすぐ泳いで来ていたワニの口内へ綺麗入って体内をぐちゃぐちゃにし、1発は右から俺に食らいつこうとしていたワニの頭を貫き、最後の1発は左から俺に食らいつこうとしていたワニの右前足を抉り飛ばした。
「げ、ゲソッ!?」
3匹のうち2匹が、たった一撃でやられたことに、イカは声を出して驚いた。
イカは驚愕、ワニは右前足を持って行かれたことに動揺している中、俺は悠長に速射光線小銃と重撃拳銃の二つを一つの銃へと合体させる。
重撃拳銃の持ち手部分を変形させてできた穴に、速射光線小銃の銃口を差し込むことで完成した超高圧光弾銃の銃口を重症のワニへと向け、エネルギーを溜め始める。
「ゴバアァァァーーー!!」
それに気づいたワニは、右前足を再生させながら、俺に噛みつこうと泳ぎ始めた。
「学習能力ないやつだな…」
俺は呟きながら、銃口をしっかりとワニに定め、引き金を引いた。
――ボオォンッ!!
衝撃波が起きると共に超高圧光弾銃から溜められた太い光線が放たれ、光線は水圧の影響を受けることなく、ワニを眩い閃光と共に消し飛ばした。
「よ、よくも仲間を…! 許さん!!」
先程まで動揺していたイカは、仲間が殲滅されたことに憤慨し、大量の触腕をこちらに向けて来た。
超高圧光弾銃を速射光線小銃と重撃拳銃の2つに分けた俺は、向かってくる触腕の迎撃を始めた。
機動力が落ちているとはいえ、魚のように素早い動きで触腕を避けつつ俺は銃を撃ち続けるが、
「捕まえたぞ!」
撃ち落とせなかった触腕に武器を叩き落とされ、その隙に両腕と両足を拘束される。
「このまま一方的に嬲り殺しにしてやろうじゃなイカ!」
触腕をしっかりと絡めて来たイカは空いている無数の触腕で俺を貫こうとしてきたが、触腕を途中で止めた。
「お、お前…! なんだそのエネルギーは!?」
俺が高出力光線魔砲を最大まで溜めていることにようやく気付いたイカは、盛大に驚く。
「高出力光線魔砲…最大出力…!」
「こ、こここ…これはイカん!」
砲口が自分に向けられ、イカは大慌てで逃げようとするが、触腕の一部を俺の身体にしっかりと巻き付かせているため、思うように離れなくなる。
「どうしよどうしよどうしよ…そうだ! 貴様をあの方に推奨しよう! アビスの力が手に入り、不老不死になれるのだぞ?! 悪くはないだろう!? なっ? なっ!?」
イカは必死になって止めようとしてくるが、
「波動光魔砲ォーー!!」
俺はそれを一蹴するかのように、容赦なく高出力光線魔砲から最大出力の光線を放った。
「まッ!」
両肩の高出力光線魔砲から放たれた青白い光線は、一本へと混ざり合い、極太の光線となってイカを跡形もなく消滅させ、海中から雲を貫いて大気圏外まで届く程の威力を見せる。
「討伐完了っと…」
レーダーで他に敵が居ないかを確認した後、俺は海面へと上がりつつ、機体をYAMTOへと戻す。
「…やっぱ、船は先に行ったか…」
海面に出た俺は、目視でグレイシア号が周辺に居ないことを確認し、地図を開く。
「こういう時に便利なマーキング機能〜」
マーキングをしたことにより、地図に映るようになったグレイシア号が、今何処にいるか見た後、俺は宙へと浮き上がり、その方向に向けて飛び始めた。
暫く飛んでいると、その場で停船しているグレイシア号が見えて来た。
「いいか! 必ず探し出せ!!」
グレイシア号の甲板から、ノエルの怒号が聞こえてくる。
不思議に思って、甲板の方を見ると、乗組員達が海面をランタンや魔法で作りだした炎で照らし、何かを探していた。
「……あっ、これ俺を探しているのか」
乗組員達の行動の意味に気がついた俺は、姿を現すために空から甲板に降り立つことにした。
「「「「「……」」」」」
「…あれ?」
甲板に降り立つと、俺のことを必死に探していたノエルや乗組員達は、視線を俺に向けたと思うと、口を開けて固まり、思っていた反応と違ったため俺は首を傾げた。
「アサヒ殿〜〜〜!!!」
「ウグッ!」
全員が固まっている中、涙目の伊織が俺に飛びついてきて、受け身を取れなかった俺はその場に押し倒される。
「一体何をしていたんですか?! 心配したんですよ!!」
「い、いやぁ……例のイカに水中に引きずり込まれてな…まぁ、代わりに奴らは倒せたので、ここは結果オーライということで……」
「もう少し私を頼ってください」
「す、すまぬ…」
倒されたままの状態で、俺は伊織から一方的説教を受ける。
「水中に引きずり込まれたとはいえ、置いていって悪かった…」
伊織から説教を受けていると、パイプタバコを片手に持ったノエルが近づてきて謝ってきた。
「大勢の命が掛かっていたんだ。私は別に気にしていないし、懸命な判断をした乗組員達を褒めてやってくれ」
「そう伝えておこう。本当ならば、今すぐに海の怪物を倒したことを祝いたいが…今は海上だから豪勢な宴をすることは出来ん。代わりとして、上の連中に倍以上の報酬を出すように交渉しておこう」
ノエルは初めて出会った時のぶっきらぼうさからは想像できない笑みを浮かべて言い、パイプを咥えた。
「しかし、本当に心配したんですよ?」
「す、すまぬ…以後気を付ける…」
内心で報酬アップに喜びつつ、暫くの間俺は不機嫌になっている伊織の相手をすることになった。




