第1話 唐突な異世界転生
異世界。それは現実世界とは異なる別世界を指す言葉。主に小説や漫画、アニメなどの作品で、現実世界とは異なる魔法や特殊能力が存在する世界や、登場人物が転生や転移で別の世界へ行く物語によく使われる。
―◇―
「…んっ、あぁ…?」
小鳥の囀りや風に揺られて草木が擦れ合う音、穏やかに流れる水の音などで目が覚めた俺は、上半身を起こして脳が完全に覚醒していない中、辺りを見渡しながら大きな欠伸をした。
「……何処だここ…?」
辺りを見渡した結果、見ず知らずの場所だと気づいた俺は、立ち上がって周囲の確認をすることにした。
周囲を見ながら俺が覚えている記憶の中から現在地を知ろうと思っても、今いる場所は記憶にない初めての場所だった。
「落ち着け俺…落ち着いて今の状況を整理しろ…」
俺はありえない出来事に混乱し始める自分にそう言い聞かせ、近場にあった大きめの石に腰掛けた。
その時、ふと近くに流れている小川の水面を見た俺は、そこに映る自分の顔や髪が違うことに気がついた。
白髪に黒いメッシュ、瞳は黒寄りの深紅、そして全身を覆う赤い線がある黒のアンダースーツ。
俺はこれに見覚えがあった。いや、覚えていて当然である。何しろ今の俺の姿は、直前までプレイしていたはずのゲーム、TALOSで使っていたアバターだからだ。
「……これってもしかして…?」
俺はふと思い、手馴れた手つきで設定画面を開いた後、ログアウト出来るかどうか試したが、ログアウトボタンがあった場所は、何も無かったかのように空白になっていた。
「つまりここはゲーム空間…ということか? いや、でもTALOSにこんなところ無かったはずだ……」
予想を立てながら次に俺はマップを開き、現在地を知ろうと試みたが、
「…リセットされているのか?」
普通ならば森や山、街などが簡易的に表示されているマップが出てくるのだが、表示した画面には黒いモヤがかかっていてマップが見れないようになっていた。一応、マップの表示を最小サイズまでにして、様々な方角に動かしたが、全てに黒いモヤがかっていた。
「見知らぬ場所に…ログアウトは出来ない…マップはまともに見れない……」
今の状況の確認が終わり、少し考えた後に俺は一応頬を引っ張ってみたが、痛みを十分感じ取れたため、夢の中ではないことを確認し、
「……俺はTALOSのキャラで全く別の異世界に転生したのか…?」
特殊な異世界転生をしたという結論に辿り着いた。
次の瞬間、その事実に気がついた俺は思わずガッツポーズをした。
「クソつまらない世界から解放されたーー!!」
両腕を空へと上げ、俺は大喜びした。
普通ならば、動揺や困惑などをするところだろうが、俺は違った。
当たり前のように酷い虐待をしてきた両親、差別主義者の教職員生徒、真っ黒な会社などがあった世界から脱出でき、唯一の心の支えであったTALOSのキャラに転生したということは、俺にとって喜ばしいことだった。
「そうとなれば、早速色々と試してみるか! まずは〜…機体装着、カスタム壱式!!」
元気が溢れ出てきた俺は、この世界でどういうことが出来るか確認するため、立ち上がったあと、早速パワードスーツのTALOSを装着した。
『承認。機体名YAMATO壱式起動します』
人工的なアナウンスが流れた後、パワードスーツが一瞬にして俺の身体を覆った。
パワードスーツは、黒と赤を基調とし、右手はM16がモデルにされている自動小銃、左手は任意でレーザーの刀身を展開することができる粒子式刀剣、両肩には安定した飛行と更なる加速力を得ることが出来る機翼型推進器を装備されている。
間違いない、俺がTALOSでカスタムして、完成させた愛機のYAMTO壱式だ。
「次は…右腕! 散弾銃、カスタマイズ!」
興奮が冷めないまま、次のアクションを取った。
『承認。右腕、散弾銃転送します』
人工的なアナウンスが再び流れると、右手で持っていた自動小銃が消え、ホログラムの散弾銃が現れると、そのまま実体化して右手に納まった。
「その次は…これだよなぁ!」
出しっぱなしにしていた粒子式刀剣で、近場にあった大岩を斬ってみると、大岩は綺麗に真っ二つになった。
「……次はこっち…!」
粒子式刀剣の想像以上の切断力に若干引きつつ、右手に装備している散弾銃を木に狙いを定め、トリガーを引いた。
――パァンッ!
乾いた音が周囲に鳴り響くとと共に、的にした木には複数の鉄の球がめり込んだ。
「最低でもこの2つは正常に動くな…他の武器の確認は後にしておこう」
最低限の武器確認が終わり、次に俺はパワードスーツのあらゆる場所にあるスラスターで姿勢を取りながら、背中にある噴射口から炎を出して空中に浮かんだ。
「飛行はゲーム内通りにやればいいな」
宙に浮きながら、機体に異常が無いか画面を見て探っていると、腹の虫が鳴った。
「まずは腹拵えだな。確か料理は…嗚呼〜、そうだった…TALOSに料理は無いんだった…」
食事が取れないことに、俺は頭を抱えた。
料理が作れない理由としては、過去に空腹になっても、ゲーム内で料理を食えば、フルダイブなら脳が満足感を得て、満腹と誤認してしまい、そのせいで現実で食事を摂るのを忘れ、独身のプレイヤーが餓死したという事件が起きたからだ。これ以降のフルダイブゲームでは、食事要素を無くしたり、一定時間を過ぎると休息を取るように警告が入るようになった。
TALOS場合だと、回復とかバフは味がないペースト状の物体を飲むか、機体にチップを読み込ませて制限を一時的に解除させるのどちらかだ。
「取り敢えず腹拵えだな…まずは川の流れに沿って下ってみるか。機翼型推進器起動!」
――ボンッ!キィィィーーーーンッ!!
背中のブースターを起動し、街を探すために俺は川に沿って、空を飛んで移動を始めた。
暫くの間空を飛んでいると、大きな街が見えてきたのだが、
「なんか襲われてないか…?」
街の状況を知ろうと目を凝らす。
発見した街は、禍々しい見た目をしている狼や猪、ファンタジーでよく見るゴブリンなどに襲われていたのだ。
「…折角だ。異世界初運用がてら、蹴散らしてやるか!」
兵士と思われる者達が苦戦しているのを上から見た俺は、試運転も兼ねて戦いに乱入することにした。
「一掃するなら…両肩、集束型噴進弾発射機、カスタマイズ!」
ブースターを切り、スラスターで減速した後、両肩の武装を変えた。
『承認。両肩、集束型噴進弾発射機転送します』
下に向けて自由落下する中、俺の両肩にそれぞれ長方形の箱が装備される。
「着弾地点目視指定! 撃てぇ!」
――ボボボボンッ!!
目線で着弾地点を指定した後、長方形の箱からそれぞれ2本ずつ薄っぺらい箱が出ていき、魔物達に向けて飛んでいく。
飛んで行った箱は、途中で前方から分かれて、花のように側を外すと、内部にあった子爆弾を魔物達に降らせ、着弾と共に次々と爆発を引き起こす。
「…な、何事!?」
「魔法か!?」
「でも一体何処から!?」
兵士達が驚く中、俺は地面に着地し、左手の粒子式刀剣を構えた。
「粒子式刀剣! 最大出力!」
俺は刀身長さを可能な限り長くし、そのまま周囲に居た敵を一回転しながら切り裂いた。
「集束型噴進弾発射機! キャストオフ!」
『承認。両肩、集束型噴進弾発射機脱着します』
重量がある集束型噴進弾発射機を外した俺は、背中のメインブースターとスラスターを使い、素早い動きで次々と魔物を切り裂いて行く。
「グガァ!?」
「ギャウンッ!?」
TALOSナンバーワンプレイヤーが、特殊な能力を持っていないであろう魔物に遅れをとることはなく、俺は魔物達が何をされたか理解する前に、切り倒して行く。
「さーて、まだやるか?」
魔物達を九割程切り倒した後、1度止まった俺は、残った魔物達にそう脅してみるが、
「グギャァーーー!!!」
魔物達は雄叫びを上げて、俺に向かって襲いかかってきた。
「仕方…ないっ!」
纏まって襲いかかってきた魔物達に、俺は右手の散弾銃の銃口を向けて、トドメを刺した。
「旅の者よ。助太刀、感謝する…」
一仕事終え、これからどうしようかと考えていると、甲冑で身を覆った女騎士が、女兵を連れて俺に話しかけてきた。
なんで男が居ないんだ…?
そんな疑問を抱きつつ、俺は女騎士と話をすることにした。
「困った時はお互い様だ。これくらい大したことない…」
「そうか。だが、その甲冑…見たことがないな? オーダーメイド品か…?」
女騎士は、マジマジと俺のパワードスーツを見ながら、尋ねてきた。
そうか…中世ヨーロッパみたいな鎧ならまだしも、パワードスーツは異世界では異色だな。ここは女騎士の質問に乗るか。
「その通りだ。魔法を組み合わせた特殊な鎧でな…」
頷いた後、俺はパワードスーツを特殊な鎧ということにした。
魔法に関しては、先程兵士の1人が魔法が存在しているようなことを言っていたから、間違ってはないだろう。
「なるほど。そうでしたか……あっ、申し遅れました。私は、ウィラード連邦軍団第85歩兵小隊隊長、オリビア・アルファートです」
「私は………アサヒだ。恥ずかしいことに、私は記憶の一部が欠落していてな…今は知人や自身のルーツを探すための旅をしている」
俺とオリビアは互いに自己紹介を行った。
それと同時に、俺は前世の名前ではなく、TALOSのプレイヤー名を使い、更に異世界との文化の差で驚いて、怪しまれることがないように、記憶喪失者のフリをすることにした。
ちなみに、プレイヤー名の由来は俺が好きな旧日本軍や自衛隊が使っている旭日旗から来ている。
あっ、旧日本軍に冠しては全てが好きではないから、悪しからず。反省しなければならないことはしっかりと反省しないとだな!
「アサヒ殿ですか……記憶が無い中の放浪とは、お疲れでしょう。私から市長に話を通しますので、この街、プラサス市で一番の宿で、ゆっくり致しませんか?」
「それは有難い! お恥ずかしいことに今1文無しでしてな……野宿を考えていたので、その提案に乗らせて頂きます…!」
「決まりですね。では、私は市長に話を通してきます。私の部下が、宿まで案内するので、アサヒ殿は先に宿へと向かってください……おい!」
「はっ! アサヒ様、どうぞこちらへ。宿の方にご案内致します」
「ああ」
宿に泊まれることになり、俺は内心喜びながら、オリビアが呼んだ部下の後を着いて行った。
オリビアの部下の後に着いていき、俺は街を覆っている壁に反って少し歩いた後、大きな門がある所に辿り着いた。
「アビスの軍勢は討伐された! 開門されたし!」
俺を案内していた女兵は、閉ざされている門に向けて、大きな声で呼び掛けた。
ふむ…先程の魔物達をこの世界では、アビスというのか…覚えておこう
――ギギギギギギ…!
女兵が呼び掛けてから数分後、閉ざされていた門が大きな音を立てて開いた。
「着いてきてください」
「分かった」
女兵と共に門を潜るとそこには、しっかりと綺麗に管理されている石畳の道に反って、石やレンガなどを使用した家々が立ち並ぶ中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
「おぉ…! これは見事な街並み!」
街並みの綺麗さに、俺は思わず感想を述べた。
「ここプラサス市は、元々綿の生産が主流だったのですが、魔導機関車の路線が通って以降、他国との中継点を担うこととなったので、観光に力を入れて街の再整備などを行い、今の街並みを作りあげたのですよ」
俺の感想に、女兵は嬉しそうにプラサス市について説明してくれた。
しかし、魔導機関車か…少し気になるな……
気になる単語などもしっかりと覚えながら歩いていると、目を疑いたくなる光景が見えた。
「おい男共! もっとキビキビと働け! 家で主夫しているヤツらの方が働いてるぞ!」
「み、水を…! 水を飲ませてください…」
「もうボロボロなんです…許してください…」
「煩い! 給料貰ってるんだから、さっさと働け!!」
俺の目線の先には、厳つそうな女性が鞭を使い、貧相な男達に家の資材を運ばせている光景を、周囲がまるで日常として扱っている異様な様子が映っていた。
あれか?借金が返せない人がやらされているのか?いやでも、さっき給料が出てるって言ってたな…えっ、まさかこの世界、男の人権ないのか…?
自分が立てた予想を否定したくて、改めて周囲を見てみると、あちらこちらにある様々な店には女性しか居らず、仮に居たとしても通行人か、もしくは先程同様過酷な労働をさせられているのどちらかだった。
否定したかった予想が否定できなくなり、内心頭を抱える。
どうやらこの世界は、女尊男卑が余りにも酷い異世界のようだ。
どうなる!?俺の異世界セカンドライフ!!




