岩崎、阿久津、石川伝 五
【岩崎、阿久津、石川伝 五】
地区予選。
石川の体調も落ち着き、投手、野手共に安定した「石川世代」は勝利を積み重ねた。
石川、阿久津、岩崎、沖田という投手陣をまとめ上げる一年生捕手、中原の好リードが光る。
まずは背番号10番の阿久津が登板し、1イニングでも多く投球する。四回、五回からエースの1番、石川がエースの投球で抑える。
サウスポーがいないという懸念点はあったものの、石川、阿久津の投球が炎上することは無かった。
そして、岩崎もしくは一年生沖田が試合を締めくくる。
特に沖田の投球は話題を集めた。真っ直ぐと、カーブの速度が、今までの「野球の概念」と真逆という、ちぐはぐな緩急。
誰も沖田のナックルカーブを、初見でバットの真芯に当てられる打者はいなかった。
岩崎も同じくらいの衝撃を与えた。阿久津の影に隠れていた二年生リリーフを、今まで誰も認識していなかったのだ。
しかし彼の投げるボールスピードは140台後半を記録。他校もスカウトも、「今までどこに隠れてた!?」とどよめいた。
打線も仕上がっていた。
川崎、中村(圭介)、岸、田島の上位打線は、打席が左、右、左、右とジグザグであり、1番から3番は俊足を誇る。
さらに5番の中原もこれまた左打者である。右左と入れ替わる打席は、6番右打ちの投手石川。7番左打ちのライト東まで続く。
この打線は相手バッテリーを苦しめた。
そして、地区大会決勝、前回甲子園出場を決めた比山商業に競り勝ち、
三年ぶり夏の甲子園出場を決めた。
そして、決めた瞬間にマウンドに立っていたのは、岩崎だった。
言葉にならない悲鳴をあげ、人差し指を天に突き刺す。
十八メートル離れた場所から中原が駆け込んでくる。
そして、味方ベンチからも大勢走ってきて、自分を取り囲んだ。
そこから先はもう、わけがわからなかった。
もみくちゃにされて、四方八方からは男子球児たちの咆哮。
主将の田島は早くも涙を流していた。
いつもはこういう、人間が密集している場所を好まない岸も、この時ばかりは輪に加わっていた。
そして、監督を胴上げする流れになりかけたが、流石にそれは早すぎるということで無しになった。
盛り上がったのは生徒だけではなく、麓の町でも大騒ぎになった。
「強い松ヶ谷が帰ってきた!」
「山賊軍団、復活」
地方紙に松ヶ谷高校の名が大きく載った。これも久方ぶりのことであった。
一面に大きく写っているのは、エース石川である。
* * * * *
「勝ったぞ!」
自室の廊下で、岩崎は恋人の楓にメッセージを送った。
自室でスマホをいじると、寝ている先輩方の邪魔になるのだ。
すぐに既読がつき、
「応援席でみてたよ!!」
「感動した! おめでとう!!」
「野球ってよくわからなかったけど、今日はアツくなっちゃった!」
という文章が返ってきた。
廊下で岩崎が余韻に浸っていると、隣の部屋が空いて中から二年生投手、阿久津が出てきた。
「おう」
「ぅす」
と、二人は静かに挨拶を交わす。
「岩もこれ(スマホ)?」
「ん……おう。お前も?」
「俺は親だな」
そう言いながら、スマホをいじりだす阿久津。
「なー岩」
「何」
「楽しいな。このチームで野球やんの」
「……そうな」
「信じられるかよ。あとちょっとで終わっちゃうんだぜこのチーム」
「おう。」
「ずっとさ、終わらなきゃいいのにな」
そう言われて、岩崎は思わず阿久津を見た。スマホの光に照らされている阿久津の顔が、真剣そうに見えた。
『終わらなければいいのに』と言われた瞬間、終わりを意識しだした。
そして、楽しいものとは、終わりが来るものなのだと、この時岩崎は感じた。




