良いニュースと、悪いニュースのこと
岩崎くんの投球は、遠目で見ていて感動しました。
まさに気迫のピッチングでした。年甲斐もなく、目頭が熱くなっていくのを感じました。
何もない殺風景な山ですが、時折見せてくれる景色がとても美しいので、この仕事をしていて良かったと、心から感じます。
川崎くんもようやくイップスを克服しました。
石川くんの検査も終わり、身体に異常が見つからないことも判明しました。
もう一ついいニュースが、一年生で入ってきた布袋くんが急成長を見せ、
スイッチヒッターで足も早く、鉄砲肩が監督の目に止まり、センターのレギュラーに抜擢されたのです。
これで一年生レギュラーは、投手の沖田君、レフトの東くん、キャッチャー中原区んを含めた四人。この四人は早速メディアにも注目を集め、【松ヶ谷 四天王】と呼ばれることになります。
今年のチームはやれるぞ! 甲子園も狙えるぞ! 強い松ヶ谷を取り戻せるぞ!!
チーム全体のテンションというか、熱量が高まってました。
そうなったからといって、我々の仕事に変化があるのかと言われると、決してそうではないのですが、
決してそうではないのですがそれでも、我々にも張り合いというものが芽生えるものです。
一見大した目標ではなくても、続けていたらその分の結果がちゃんと返ってくる。それはやっぱり素晴らしい事のように思えてくるのです。
その経験だけで、これからも続けていけるように感じられます。
ですが、悲しい知らせ……というより、やり切れない事態も舞い込んできました。
それは今までのどんな事件よりも辛い……というより、許せない事態でした。
山に、不法侵入者が現れるようになったのです。
松ヶ谷宿舎という場所は、特殊な環境にあるものでして、外部とは物理的に隔離されている空間なのです。
地元の子供や、登山客が間違えてやってくる、みたいなことも聞いがことがありません。
そこに、明らかに悪意を持った人間が立ち入るようになったのです。
我々にとって、職場は神聖な場所です。
大した仕事じゃありません。自衛官さんですとか、政治家先生ですとか、そういった方々と比べて、
国に貢献しているかと聞かれると、決してそうじゃないかもしれません。
それでもこちらは、プライドを持ってやってるんです。
ここにくる生徒たちに、三年間、野球が上手くなる環境を作る、それだけの仕事に人生を賭けてるんです。
その職場に土足で踏み込んでくる連中を、許せるはずがないじゃありませんか。
彼らは無断で敷地内に入り、無断でシャッターを切ります。
こちらが注意をしに行ったら、根も葉もない噂を持ち出して自分達を正当化する始末です。
生徒たちの練習の邪魔をしようものなら、もう本当に許せません。
彼らが挙げてくる、この山に関する噂も不愉快極まりないことでした。
やれ、この山に登った人が行方不明になるとか、やれ地面から、人間と思われる人骨が見つかったとか。
それがなんだっていうんですか? 百歩譲ってその噂が本当のことだとしても、私たちと何の関係があるというのでしょう?
私たちはただ、山の上で野球をしているだけなんです。
生徒たちのことを思い、生徒たちの活躍を祈り、生徒たちの安全と、未来を切実に思っているだけの我々が、
どうしてそんな犯罪行為に手を染めようというのです?
顔のことで貶されたり、理不尽に避けられたことは今までだってあります。
それなりき傷ついたこともありますが、それでも堪えてきました。ですが、
犯罪者扱いは許せません。私が今までしてきたことを全て否定された気分です。
内藤さんのことは、それは残念だと思います。
でも、彼らが示してきたことはおおよそ人道から外れ過ぎてます。ひど過ぎます。
彼らは、山中を掘り起こして調査をする必要があると言ってますが、そんなこと許せるはずがありません。
この宿舎の用務員として、高校野球と、子供たちを愛する大人として、私は断固戦わなければなりませんでした。




