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四天王伝 一


【四天王伝 一】

 

 三月のある日。


 巨大なバスターミナルにて、地図帳を広げながら歩いている少年。

 人混みの中、他人と肩をぶつけながら右往左往している。

 トランクに大きなリュックに、大荷物である。

 ターミナルのロビーにて、地図帳をリュックにしまうと今度は、他県のガイドブックを徐に取り出し、

バスの時刻表と、停車しているバスとを交互に格闘しながら、やっとの思いで目的のバスの待合所まで辿り着いた。


 大量の荷物を地べたに置いて、ふう。と大きな一息をついたところで正面の椅子に座っている別の少年と目が合う。

 メガネをかけていて、穏やかそうな少年である。

 相手も、同じ量の荷物を一つに縛ったりなどして、コンパクトにまとめている。

 なんとなく、会釈をする。


 少年はやることがなくなると、ガイドブックを何気なく広げて眺めている。

 すると、メガネの少年が突然話しかけてきた。


「ちわ」


「あ……ども」


「野球やってるの?」


「へ……あ……うん。まあ。

 わかります?」


「わかるよ。佇まいがそれっぽい」


「佇まい……」


「あと、手を見たらわかる。野球選手の手だ」


 そう言われて、持っていたガイドブックを閉じて少年は自分の手を見た。

 中指と人差し指の付け根には、マメが潰れた跡がある。 

 するとパ……っと、いつの間にか正面に立っていた少年に手を取られ、手をまじまじとみられた。

 

「ポジションは投手?」


 メガネの少年が、手を見ながら聞いてくる。手をじっと見られているので、もう一人の少年は恥ずかしくなってしまった。


「あ、はい」


「ふーん……右利きで変化球はスライダー、カーブか」


「……わかるんすか」


「わかるよ。大概のことはわかる。あ、俺は中……」


 そこで二人の近くの自動ドアが開き、また大荷物を背負った少年が入ってくる。

 体が、二人よりデカい。

 

「っぶねー……遅れるとこだった……」


 体がデカければ、独り言もデカい。そして、荷物が多い。

 長身の少年は、目の前にいる大荷物の少年二人と目が合い、そしてメガネの少年を見るや否や……


「ゲ……中原」


「よう」


 どうやらメガネと長身は、お互い顔を知っている仲のようである。

 長身はなんとなくメガネの隣に座る。


「中原も……入山するの?」


「うん。東もだろ?」


「そうなんだよー。マジかー中原とチームメイトかよー」


「俺は知ってたけどね。調べたら、同郷から誰がスカウトされたかわかる」


「んなことわざわざ調べねえって……あ、すんません割り込んじゃって」


 東と呼ばれた少年は、片手にガイドブックを持った少年に頭を下げた。


「あ、いいえ……。入山って……?」


「あ、自分ら今から松ヶ谷(高校)にいくっす」


「え、一緒だ……」


「「え、そうなの!?」」


 東と中原が思わず声を合わせた。


「なんだーチームメイト? じゃあ俺の相方になるわけだ。俺は中原。よろしく」


「あ、沖田です。相方?」


「俺キャッチャーだからさ。もしかしたら三年間沖田君の球受けることになるかもじゃん」


「ああ、そういうことか……。うーんでも……投手いっぱいいるし俺はレギュラーになれるか……」


「まあまあ、とにかくよろしく」


 中原は手を差し出した。沖田は顔を伏せて握手に応じた。


「ドコのシニアですか?」


 東は不思議そうな顔で沖田を見た。


「シニア……入ってないんですよ。部活のみで」


「どこ中?」


「北葛西です」


「…… ……知らんなあ。中原知ってる?」


「名前ぐらいは」


「あ、弱小野球部だったんで」


 沖田が恥ずかしそうに答えた。

 


「弱小ったって……え、スカウト来たんでしょ?」


「あ、はい。公式戦見にきてくれてて偶然なんですけど……

 お二人とも野手ですか?」


「ああ、さっきも言ったけど俺はキャッチャーでコイツは外野手……」


「あー待って! それがねえ……ライトはクビかもしれなくて……」


「クビ? 始まってもいないのにクビってどういうこと?」


「うーんなんか……ファーストとしてだったら取ってやるみたいなこと言われて……」


「え、内野守ったことあるの?」


「ねえよー。でも外野はもういるからって」


「でもそうかー。東肩イマイチだもんなー」


「いうなよー。肩は強いよ? 狙ったとこボール行かねえんだよ」


「でもいいじゃないですか。松ヶ谷って確か、野手で入ったら競争率低いんでしょ?」


「まあ、あくまでも投手に比べたらだけどね。

 あと、松ヶ谷は去年、今年と甲子園から遠ざかってるから、プロ行きたいんなら相当頑張らないとね」


 中原が言うと、東が身を乗り出した。


「あ、自分!!……マジでプロ狙ってるんで! 点はバッチシとるんで守る方はお二人にお任せするんで!」


 プロの話になり、沖田はお腹が痛そうな顔になった。


「俺はプロは……」


「へ? じゃあなんのために松ヶ谷なんて行くのよ。目指すからじゃないの?」


「目指すっていうより、せっかくだから……みたいな? ちょっと俺はエースっていう感じじゃないんで……」


「消極的だね。随分」


「え、でもスカウト来たんだろ?」


「来たけど……うん……」


「球速は?」


 顔色がどんどん悪くなっていく沖田に、中原が切り出した。


「えっと……最大で百三十……」


「なんだ。そこそこあるんじゃん。てか高一って考えたら速いじゃん」


「ただー……真っ直ぐじゃないんだよー……」


「……へ?」


「ああわかった。シュートとかツーシーム系の方が速くなっちゃうタイプか」


「あ、それも違くって……」


 そこに、室内スピーカーからアナウンスが流れる。


「松ヶ谷行き、積雪の影響でバスの運行が遅延しております。

 現在復旧の目処が経っておりません。

 ご迷惑おかけしますが今しばらくお待ちください」


「…… ……あら。初日からアクシデントか。寝よ……」

 

 東が不貞腐れて椅子に深く腰掛けると、中原が立ち上がって窓の外をみた。


「なあ。そこ。公園あるじゃん」


「んー? うん……」


 東が半分眠りだすと、中原は沖田の方を見た。


「沖田君? ちょっと、キャッチボールしに行こうよ」


「え……」


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