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お守りのこと


 足にギブスを巻いて、松葉杖をつく川崎くん。

 ここでの生活は、療養しようにも、家が練習場とくっついちゃっているようなものですから、練習を休むということはないのです。

 今日もグランドに来ていました。

 攻守ともに頼りにされていたのに、予選には間に合わない。練習もできないのなら本選にだって呼ばれるともわからない。

 それでも、グランドに来ていました。


 少し遠くから私も見ていましたが、ひどく落ち込んで、悲壮感が漂っていたかと聞かれると決してそうではなく、

焦ってイライラしていたと聞かれると、決してそうではありませんでした。

 その顔はむしろ、不思議と落ち着いていました。

 

 私は遠くから見ているだけですが……、川崎くんの視線は、やはり二遊間をのあたりをずっと見ていました。

 三年生のセカンド津本くんは、奇跡的にレギュラーの座を取り戻した……という言い方は適切でしょうか?


 川崎くんの視線が追いかけているのは、

連携練習の相方、同学年の遊撃手中村圭介くんです。

 

 守備の動きはまとまっておりますが視力が悪く、打席に立てば頼りないのと、守備でもどこか心配が残ります。


 川崎くんたちの立場からすると、まだ三年生がいてくれるからよかった……とも言い切れない部分はありまして、

 それというのは、夏から秋の地区大会は期間があっという間なのです。

 夏の終わりと秋の始まりは、ほとんど同時にやってきます。

 

 圭介くんは、グランドの上で焦っているようでした。

 

 ここのところはケアレスミスが目立つようになり、得意の守備でも精彩を欠く動きでした。

 

 圭介くんの心情は察するにあまります。

 頼りにしていた絶対的な相方の負傷。特に攻撃面は、川崎くんの穴を誰が埋めたらいいのか。

 もしかしたら自分達の代は、甲子園で活躍するどころか、地区大会で敗退してしまうかもしれない。

 なんとかしようと、バットを振っていました。

 なんとかしようと、ノックを受けていました。しかし現実というのは非情なもので、やればやるほど元々の良さが失われていくようでした。


 圭介くんの、のたうち回る様を、川崎くんは無表情でじっと見ていました。


 私がマシン清掃をしている時に偶然目にしたのですが、

 川崎くんがポケットから何かを取り出すのが見えました。

 それは黄緑色と黄色の紐で、サッカー選手がつけるような……なんでしたっけ? ミサンガ? ミサンガに見えました。

 今の子も、そういうのするんだなあと思ったのを覚えてます。

 川崎くんはそれをじって見つめていました。


 次の日のことです。


 川崎くんが昨日見つめていた、黄緑色と黄色のミサンガは、どういう経路をたどってそうなったのか、

中村圭介くんの右足に巻かれていたのです。

 

 川崎くんの手から、圭介くんの足まで旅のような移動をしたそのミサンガに、なんの意味があるのか私にはわかりません。

 どんな効果があったのかもわかりませんでした。

 仮にそれが、邪気を祓うお守りだったとしても、韋駄天の神仏の類が宿るものだとしても、それを足につけたとて中村くんがより俊敏になったというわけでもなく、

 むしろさらに動きはぎこちなくなっているように素人目には見えました。


 では、かといってそれが意味のないものだったのかというと……

 そうとも言い切れませんでした。

 

 不思議なことというものはあるもので、以来、圭介くんの打率が突然向上したのです。

 なぜかはわかりません。本当に不思議です。

 特に流し方向に渋い打撃が打てるようになったのです。

 

 足につけるのに、打撃のためのお守りだったのか!? 一体なんの関係が? 

 当時は不思議で仕方がありませんでした。


 バッティングでは、ピッチャーよりも下位で打席に立っていた圭介くんの、まさかの大躍進でした。


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