発芽伝
【発芽伝】
中部地方の日本海に面した県に、発芽高校はある。
米と酒と水が美味しいところである。
ここにも野球部があるが、決して強豪校というほどの学校ではなく、ただ、
戦術がユニークだったり、何を仕掛けてくるかよくわからないという面で目立っており、
「万年ダークホース」の異名を持つ高校である。
監督はまだ若い清洲監督。彼自身に野球に関するキャリアはないが、彼はともかく、『工夫好き』なことで知られていた。
強豪校ではない発芽高校は、スカウトの制度もない。
手元にある戦力と生徒で他の強豪校に挑まないといけない。
今年の夏の大会でも、ある奇策を用いて挑むつもりだったのだが……
「無理ですー!!」
国語教師でもある清洲に泣きついてきたのは、吹奏楽部に所属している三年生の生徒である。
「困難なのを承知でこちらは頼んでいる。これが成功した暁には、発芽高校吹奏楽部は永遠にその名を刻むことになるぞ」
「悪名が残るだけですー!」
「……何も違反や反則をしてまで勝とうというのではない。私の渡した楽譜通りに演奏してくれればいい。
……知っているか。高校野球では、試合中ほとんど同じ音楽を応援団は演奏することがある。
あれはおそらく作戦だ。
威圧感、異質感を演出する奇策と言っていい。ならばそれを最大限利用しようというのだよ」
「でも、清洲先生は国語の先生で、音楽なんてやったことがないじゃないですか。
どうやってこんな曲作ったんですか?」
「もちろんAI技術を用いたさ。
……AIに、『フランク・ザッパ』と初期の『シャッグス』、『ニルバーナ』と、『ワルシャワ』時代の『ジョイデヴィジョン』をひたすら学習させた」
「全部知りません! 結果、変拍子、変拍子、変拍子の連続で、基本的に不協和音が続いて……
正解がわからないんです! しかも聞いてると一分経たないうちに頭が痛くなって……」
「それがいい。そういった……『ライブ感』を求めている」
「甲子園予選の応援団に『ライブ感』求めた人は先生が最初で最後です! 絶対そうです!」
「しかし相手は怯むだろう」
「味方を応援してください!!」
「その発想が凡庸なのだ! 何も味方のためだけに応援団は存在しているわけではない!」
「『応援』という言葉を広辞苑で調べてから物を言っていただけますか?」
「そんなに嫌かい? いい作戦だと思うんだけどなあ」
「敵は半笑い、味方は頭痛い。観客は帰ります! 相手との対決より会場中のヘイトが私たちに集まります!」
「そういう作戦なんだってば」
「はあ!?」
「敵の悪意を反らせる作戦だ。前代未聞だろう。まさかこんなところに策が仕掛けてあるとは、敵も思まい」
「やです! やーだー! 選手には盛り上がってほしいもの!」
「だからその固定概念をだなあ……」
「先生がそんななら応援やめます! ふん!!」
生徒は背中を向けて去っていってしまった。
「……いい作戦だと思ったんだけどなあ」
このように、清洲の奇策が全て受け入れられることは少ない。




