2タイプの投手のこと。
神林くん、森下くんたちの学年が山を降りました。
残された学生達で、新チームをこれから作っていくことになります。
この作業にあまり時間をかけられないのです。なぜなら、すぐに秋の地区大会が始まるからです。
秋の地区大会にあるものの先は、春の甲子園です。
だので三年生が抜けて戦力ダウンしたであろうチームを、なんとか勝たせないと春の甲子園への道が早速途絶えるのです。
毎年、監督はこの時期になると夜遅くまで色々な人間と食堂で会議をしております。
もちろん、私はただの用務員ですから、戦略に口を挟むなんてことはできません。
やってきた学年がどんな学年でも、訪れた季節がどんな季節でも、やることは一緒で淡々とした雑務です。
この時の私は、石川くんのコーヒー事件があってから内藤さんのメモが気になり始めていました。
メモに書いてあった言葉は確か……
「一年目:コーヒーピッチャー(球種がまっすぐ、スライダー、フォーク、カーブ)
二年目:信仰系ピッチャー(フォームが決まってサイドスロー)
三年目:自然系キャッチャー、
四年目:???」
それでいうと、今年の二年生は、石川くんより一個上の学年。つまり『???』特徴がない年代。ということなのでしょうか。
私は高校野球には疎いのですが、用務員リーダーの北澤さんが、そもそも高校野球が大好きな方で、当然今年の松ヶ谷の生徒達のことも知っています。
私は北澤さんから、各学年の生徒のことを聞いていました。
この二年生達の世代の特徴は、拮抗した能力の投手が二人いることでした。
服部秀治くんと、中村拓くんです。
二人とも、最近の投手らしく完投を嫌がるタイプの投手ですので、どちらかが先発、どちらかが抑えになるのではないかと言われています。
「さて、じゃあどちらが先発になるのか」ということで、チーム全体が今頭を抱えております。
服部くんは淡々とテンポ良く、多彩な変化球を放る技巧派。そのサウスポー。
中村くんは真逆で、少ない手数ですが気迫で打者のインコースに速球を投げ込み、勝ちを引き寄せる熱投派の投手です。
どちらがエースに相応しいのか?
私にはとても決められません。まあ、私が決めていいものではないのですが。
その決断は、一人の学生に委ねられることになります。
二人と同じ学年の八木橋くん。この学年の正捕手です。
二年間、大スター神林の下にずっとついて、彼から一つでも技術を盗んでやろうと日々、努力を重ねていました。
神林くんについて行ったあまり、監督と三人でご飯を食べるなんて事態が起きてしまったこともあるのだそうです。
その真面目さ、向上心の高さ、ひたむきさが評価され、神林くん達が山を降りた時から主将という座につきました。
八木橋くんは、神林くんが引退してからのレギュラー入り。服部、中村両名の球を受けてきたのも彼です。
だからなのでしょうか。監督から「お前が決めろ」と言われてしまったそうなのです
監督は、厳しい人ではありますが、卑怯な人では決してありません。
ですので責任を生徒に押し付けるようなことは絶対にしません。異例中の異例でした。ですので、何か考えがあるのでしょう。
主将を引き受けたときよりも、重たく、辛い選択が、八木橋くんの背中にのしかかりました。




