5年目の金魚
僕と上野は漫才コンクールに出場した。
僕たちのコンビ名は『5年目の金魚』という名前で、上野が命名したものだ。
コンビ名のみならず、ネタの作成も上野が殆どやっている。センスがあり、僕は全面的に彼を信頼していた。
僕たちの出番だ。音楽が鳴り、ステージに出た。
「どうもー。こんばんは。五年目の金魚です。32歳の新山と26歳の上野のコンビです。」
僕がまず挨拶をする。
「……」
上野は沈黙する。練習した通りの流れだ。
「おい! 上野! 黙っていないで、挨拶しろ」
「いやー。すまん。温泉たまごを食べて、喉を詰まらせた従兄弟のことを思い出していた」
「こんな大事な時に、なにを思い出しているんだよ」
「あれ? 詰まらせたのは和菓子だったかな」
「どっちでもいいわ」
よしよし。ネタは問題なくやれている。客の受けもよい。
「ごめん。喉に詰まらせたのは、餅で、従兄弟じゃなくて爺ちゃんだったわ」
「いや、心配になるわ」
「心配しなくて、大丈夫だよ」
「なんでだよ。老人の餅での致死率を舐めるなよ」
「うちの爺ちゃん得意なんだよ。人間ポンプ」
「やめろやめろ。夕飯時に胃から出す手品の話をするのは、やめろ。視聴者が離れる」
問題なく漫才は進んでいた。
「学校の文化祭の時にやらなかった?」
「何を?」
「人間ポンプ」
「だから、その話題やめろ!ってか、人間ポンプなんてやっている学祭見たことねえわ」
「おかしいなぁ。コスモスの似合う、帽子を被った女の子がよくやっていたけどな」
「なんだそれ。どんな女の子だよ」
「ネットゲームの文化祭にいたんだよ」
「ゲーム上の話かよ。それにしても、おかしなゲームだな」
「おかしくないよ。暖炉で雪山と三日月を作れっていうクエストがあるゲームで、楽しかったよ」
「いや、おかしいだろ! そんなクエストを発注するゲームは、絶対どこかバグっているし」
「ログインする時のパスワードも、PASSWORDって英語で打つと色々な人のアカウント使えるし」
「ダメだろ! 絶対バグっているし、おかしい」
「おかしいのはオマエだろ」
相方の声のトーンが変わった。台本にない台詞だ。
「いや、どうした?」
「五歳の時の記憶、あるか?」
彼の質問に、僕は無言でかぶりを振った。このアドリブはなんだ?
「五歳の時、お前がふざけて、金魚鉢にお菓子を入れた。それで、そこにいた一匹の金魚は死んだ」
僕は妙な汗が出ていた。
「その時の殺された金魚の生まれ変わりが、俺だ」
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