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第23話 兄妹での川遊び

 そして、やってきた翌週末。


 俺たちは父さんの実家であるばあちゃんの家にお邪魔していた。


 いつもは夏休みの時期に行くのだが、少し早い時期の訪問を快く受け入れてくれて、お昼ご飯を食べた後に、俺と美優は近くにある川辺に来ていた。


 田舎のおばあちゃんの家に遊ぶに行くと、夏は甲子園、冬は駅伝、その他の時期はのど自慢大会を映すテレビが流れると相場は決まっている。


 そんな見もしないテレビから流れるBGMを流しながら、世間話をするのが常なのだ。よって、子供が入る場所はなく、手持ち無沙汰になる。


 俺たちも例外になく手持ち無沙汰になったので、近くの川辺に移動していた。


「綺麗な所だね、お兄ちゃん」


「そうだな。唯一の田舎の取り柄だ。存分に味わおう」


「唯一って、そんなこともないでしょ」


 隣にちらりと目をくれると、ライトブラウンのジャンパースカートに、白色のTシャツ姿の美優がいた。


肩に下げているトートバッグの中にはタオルでも入れているのか、身軽ながらに夏を感じるような服装をしていた。


「川なんて久しぶりだし、楽しみかも」


「まぁ、あんまり来る機会ないよなーーって、なっ」


「ん? お兄ちゃんも脱がないの?」


 隣に目をやると、トートバッグを下ろしてジャンパースカートを脱ぎ始めていた美優の姿があった。


 早くもジャンパースカートを脱いだ美優の姿は、Tシャツの裾から淡い空色をしたフリルの拵えてある下着が見えて――いや、水着か。


「……『お兄ちゃんも脱がないの?』からの、下着みたいな服装はパンチ力高いな」


「え、下着みたいって、これ水着だよ?」


 美優は微かに驚くように目を見開いた後、呆れるような目でこちらに向けてきた。


 そして、そのままTシャツも脱いですぐに水着姿になった。


 太陽から注がれる光を浴びて、白い肌がそれを微かに反射するかのように眩しく見えた。そんな水着姿が輝いて見えたのは、きっと美優の水着がレアだからだろう。


 多分、美優の水着を見たくないという男子はわが校にはいないと思う。それを無条件で見れるという今の状況は、たいへん恵まれた環境にいるんだと思う。


「いや、正直、男からしたら下着も水着もそこまで変わらん」


「? 女の子の下着姿見ても、なんとも思わないってこと?」


「逆だ、逆」


 俺も美優に倣ってTシャツだけ脱いで、そこら辺に脱いだ服を置いて川の方に振り返った。


 その瞬間、水しぶきがこちらに向かって飛んできて、俺の顔を冷たい川の水が濡らした。


 俺の視線の先にいたのは、一足早く川に入った美優の姿。


こちらに向けて水を飛ばしたせいで、濡れた腕をそのままにしていた。


水を掬いやすくするための中腰の前傾姿勢は、自然と胸が少し強調されるような構図になっており、俺はそんな美優の姿に少しの間見惚れていた。


「お兄ちゃんのえっち」


 俺にからかうような笑みを向けながらも、美優はその頬を微かに朱色に染めていた。


そんな美優の姿を見せられて、俺はすぐに上がりそうになっていた体温を下げるために、勢いよく川に飛び込んだ。


「ちょっ、」


「人に水をかけるときは、このくらいかけるんだよ!」


 俺はそう言うと、力いっぱいに川の水を手で掬い取って、それを美優に向かってかけた。そして、それを受けた美優がまた俺に水を掬ってかけてくる。


 そんな青春の一ページのような水の掛け合いをしていた。


 義妹とはいえ、妹に水をかける日が来るとは思わなかったので、俺は心なしかテンションが上がっていた。


 それに合わせるように美優も乗ってきて、二人しかいないという状況なのに、妙な盛り上がりを見せたのだった。


 そして、五分後。


「……やることないな」


「……だね」


 俺たちは手持ち無沙汰になっていた。というか、水の掛け合いに早々に飽きていた。


 そして、俺たちは座れそうな大きな石がある所に二人で腰かけて、足湯のように流れる川の水に浸って涼をとっていた。


そりゃあ、ただ水をかけあうだけなんて普通に飽きるわな。


「お兄ちゃん、アニメとかでこういうシーンとかあるでしょ? 川とか海で遊ぶシーン。そういうときって、みんなにしてんの?」


「遊ぶシーンは大概ダイジェストで、水かけ、釣り、バーベキューみたいな感じで終わるな」


「あ、ダイジェストなんだ」


「まぁ、プールも行くまでの道のりが一番楽しいって感じだし、川遊びもそんなもんだろ」


 実際にプールとかって行くまでの予定を立てて、その道中に色々話して盛り上がるのがピークなんだよな。


 ウォータースライダーに乗った後って、急に手持ち無沙汰になるもんな。


「まぁ、たまには、こうしてゆっくり過ごすのもいいだろ」


「それもそうかもね」


 川のせせらぎや、流れる水をぼうっと見るだけでも心が洗われる気分になる。


エアコンの風ではなく、川の温度で冷やされた風によって体の熱が奪われていく感覚は、他では得難い感覚だろう。


そのまま脚だけ川に入れて、ぼうっと水面を眺めていると、不意に美優が口を開いた。


「……もう少し休んだら、私が楽しい所に案内してあげる」


「楽しい所?」


 いや、ここ父さんの実家だから、道なんて知らないだろ?


 そんな俺の考えが顔に出ていたのか、美優は俺の顔を見て小さく笑みを浮かべていた。


 その笑みの理由を知ることになるのは、ほんの少しだけ先のことだった。



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