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第16話 義妹VS幼馴染②

「えーと、こちらは宮原夏希。……俺たちのクラスメイト」


「それくらいは知ってる。そうじゃなくて、宮原さんがお姉さんとか、『妹』とかって言ってたでしょ?」


 美優はこちらにジトっとした目を向けた後、説明の続きを要求するように目に力を入れてきた。


 まぁ、そうだよな。俺たち同じクラスだし、クラスメイトであることは紹介するまでもないよな。


「宮原さんじゃなくて、夏希でいいよ」


「……じゃあ、夏希さん。春斗君とは一体どんな関係なの?」


 俺がとぼけたような返答をしていると、二人の間で会話が進行していった。


 なんか言葉だけを聞けば、まるで嫉妬されているみたいに思えなくもない。


でも、なんか男女間の嫉妬とは少し違うような気がするんだよなぁ。


「私? 私はねぇ、春斗のお姉さんなのだよ!」


「違う。ただの元ご近所さんだ」


「違いますー、幼馴染ですー」


「幼馴染?」


 このまま放っておいたら、話が変方向に行きそうだったので、俺は急いで軌道修正をすることにした。


 俺が軽くあしらうように扱うと、夏希は不満そうに俺の肩に置いた手に体重を乗せてきた。


「小4から中1まで、すぐ隣の家にいたんだよ。それで、また高校になって戻ってきたらしい」


 ただの顔なじみというだけで、こんな陽キャみたいな人間と教室でしゃべるようにはならない。


 俺たちはそんなに長くない間だが、隣人同士ということもあってよく一緒に遊んだ。それこそ、中学に上がっても家が近いからという理由で、家を行き来したこともあったりはした。


「幼馴染っていうほど、長い付き合いでもないだろ」


「4年も近くに住んでれば幼馴染でしょ!」


 幼馴染属性。その属性を手にするには、少なくとも小学生低学年からの思い出の共有。また、少しだけ距離ができてしまった思春期の中学時代などの思い出が必要だ。


 夏希は幼馴染というには過ごした時間が短く、ただの旧友として扱うにしては過ごした時間が長すぎる。


 例えるなら、幼馴染(仮)くらいの属性だと思ってもらえると、ちょうどいいかもしれない。


「小学4年生から……なるほど、夏希さんは4年生からでしたか」


 美優はそう言うと、余裕のあるような笑みを浮かべていた。


 新規で入ってきたファンを嘲笑う、古参ファンのような笑み。まるで、自分の方が先に知ってましたけど、とでも言いたげな表情だ。


 いや、なんでこの状況でそんな表情なんだ? 


 俺たちが会ったのって数か月前だよな? どこに勝てる要素を見出したのだろうか?


「そうだよ。だから、私の方が春斗とは距離が近いかもね」


「距離が近い?」


 美優に煽られたと思ったのか、夏希は少し強く俺の肩を握ると、体を前のめりにして言葉を続けた。


「過ごした年月の長さが違うからね。私はフランクに『春斗』って呼んでるけど、美優ちゃんは『春斗君』って呼んでるし。まぁ、幼馴染の私の方が距離が近いのは、仕方がないことだと思うけどね」


 煽り返すような夏希の言葉を受けて、美優はぴくんと肩を跳ねさせた後、顔を俯かせた。


「……普段はそんなふうに呼んでないし」


「え、み、美優?」


 口調が先程までと違って、少しIQが下がったような声色になった。


 それは学校モードの美優ではなく、家で良く聞くような美優の声色。


 そして、美優は勢いよく顔を上げると、頬を朱色に染め上げながら、声のボリュームを上げて言葉を続けた。


「い、家ではちゃんと『お兄ちゃん』って呼んでるもん!」


 いつの間にか美優と夏希のやり取りに注目していたクラスメイト達。そんなせいもあって、美優の言葉は教室にいたクラスメイトの耳にしっかりと届いてしまっていた。


「あっ……~~っ!」


 そんな状況を美優自身が気づかないはずがなく、美優は羞恥の感情によって一気に耳の先まで真っ赤にさせると、微かに瞳を潤ませながら教室を飛び出していってしまった。


「……夏希、何がしたかったんだよ」


「いや、えっと、氷姫の表情がどんどん変わるのが面白くて、つい。……なんか、悪いことしちゃったね」


「そう思うなら、後で謝ってやってくれ」


 おそらく、人見知りな美優にとって、一気にクラス中の視線を集めるというのは、かなり恥ずかしいことだったと思う。


いや、同級生のことを『お兄ちゃん』と呼んでいると知られることは、それ以上に恥ずかしいことかもしれないな。


「うん、ごめんね」


「いや、俺にじゃなくてーーん?」


 夏希は俺に謝罪の言葉を述べると、俺の肩から手を離して、俺から距離を取った。


 そして、俺の元にはいくつかの人影が現れた。


「えっと、」


 目の前には屈強な体をした運動部や、線が細い見るからにインドア系の男子たち。そんな男子たちが俺の机を囲んで、謎の圧力のような物を放っていた。


 あれ? これって、『お兄ちゃん』って俺が呼ばれているのに嫉妬して、ボコられる感じの奴ですか? 


 そんなことを考えていると、一人の運動部男子が俺の机を強く叩いてきた。


「大沢! 雪原さんに『お兄ちゃん』って呼ばれてるのか!? 『お兄』とかじゃなくて、『お兄ちゃん』なんだな!?」


「え、お、おう?」


 なんかいちゃもんつけられたり、しめられたりするのかと思ったら、俺に投げかけられた言葉は、想像の正反対をいくものだった。


「大沢氏! 実妹以外は妹じゃないと言っておきながら、義妹に『お兄ちゃん』と呼ばせるとは何事か! 我々は数少ない実妹派だったのではーー」


「なんだと飯田! 義妹のがいいに決まってるだろ! 実妹じゃトゥルーエンド終わりだろうが!!」


「違いますー! 普通にえっちなゲームとかならハッピーエンドありますー!」


「お、お前たち、落ち着いてくれ!」


 一体何がどうして、こうなったのか。それを整理しようと、俺は目の前で繰り広げられているオタク談義を止めに入った。


 そして、俺はその場を収拾させるために、声を大にして言葉を続けた。


「そもそも妹ヒロインは背徳感あってだろ!! 『だめっ、私達兄妹なんだから』の裏に血縁関係がないルートを妹ルートだと俺は認めんぞぉ!!」


 こうして、朝のチャイムが鳴るまで俺たちの教室では、オタク談義がされるのだった。


 どうやら、俺が思っている以上にこの世界はオタクで溢れているらしい。


 そして気がついた時には、美優が俺のことを家で『お兄ちゃん』と呼んでいる話題は、妹萌えで盛り上がるオタクたちによってかき消されたのだった。



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