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第12話 理想的な兄妹を目指す理由

 そして、放課後。


 俺と美優は帰路を並んで歩いていた。


「結局、バレちゃったね」


「まぁ、あそこまでバレたら仕方がないだろ」


 貞治の立ち回りのおかげもあって、あの後に美優が質問攻めにあうようなことはなかった。


それでも、少しずつ俺たちの関係をついて問われて、結局『春斗くん』『美優』って呼び合っていることもバレたんだけどな。


 まだ美優に家で『お兄ちゃん』と呼ばれていることがバレていないだけ、いいのかもしれない。


「いや、仕方なくないか。俺がバラしちゃったんだよな。……その、ごめんな」


 自分で秘密にしようと言っておきながら、自分でその関係をばらすことになったのだ。さすがに、自分勝手すぎたなと思って、俺は隣を歩く美優に頭を下げていた。


「私、兄妹の関係隠したいなんて言ってないんだけど?」


「まぁ、そうなんだけどさ。ちょっと自分勝手に立ち回り過ぎたなと思って」


 美優は兄妹の関係を隠す方が寂しいと言っていた。だから、美優にとってはバレてしまった今の方が良かったのかもしれない。


 おそらく、こうして二人で下校できるという状況も楽しんでいるのだろう。


 心なしか声色が明るいような気がするしな。


 それでも今回の行動については謝っておいた方がいいだろう。


「あっ、それとお弁当ありがとうな」


「どういたしまして。それで、味の感想は?」


 美優から貰った弁当を食べてる時も、周囲の目があったので直接味の感想を伝えることができなかった。


 あの場で弁当を作ってくれたお礼まで言ってしまったら、それに気づいた美優のファンから何されるか分からなかったしな。


「お、美味しかったです。ていうか、美優って料理できたんだな」


「まぁ、できたというか、できるようにしたというか……」


 美優は俺の視線に気づいてか、何かを隠すように慌てて後ろ手を組んだ。


 何を見られたくなかったのか、それを想像できないほど俺も鈍感ではない。


「できるようにしたって……」


「『義妹は妹として認めん!』って、言われないように努力しないとだしね」


美優は俺の言葉を遮ると、こちらを言及するようなジトっとした目を向けてきた。貞治が立ち振る舞っていた時に言っていた言葉。


当然、あの言葉を聞き逃しているなんて都合の良い展開にはなっていないようだった。


 これ以上お弁当に関する言及から逃れるための言葉だとしても、一手のうちに俺が追い詰められているのは明確だった。


「いやいや! あれは美優が義妹になる前の話だからな?」


「……じゃあ、私が妹になってから変わったの?」


 こちらにジトっと向けられている瞳の色が、僅かに変わったような気がした。


微かに朱色に染まった頬に気づいていないのか、美優は平然を装うような態度をしていた。


 最近、義妹キャラでも可愛いと思えるキャラも見つけることができていた。それでも、俺の中の癖の芯の部分は変わってはいないの。


 変わっていないはずなのだが……。


「まぁ、義妹も悪くないなと思うほどには」


 それでも、こんな言葉を漏らしてしまうのは美優の影響が大きいのだろう。


 親の再婚でできた妹なのに、理想の兄妹を目指して俺の好みに合わせようとしてくる。


そんな義妹の姿を見て、多少なりとも素直に可愛いと思ってしまうのは自然なことだと思う。


「じゃあ、もっと理想的になって、その印象を塗り替えてあげないとね」


 美優はそう言うと、挑戦的な笑みと共にこちらに人差し指を向けてきた。


「『義妹こそ最高だ!』って、いつか言わせてあげるから、覚悟してよね。お兄ちゃん」


 微かに熱を帯びている頬をそのままに、得意げに口元を緩めるような笑み。


 勝算がなくても、強引にでもその目標を達成させるとでも言いたげな勢いさえ感じる。


 まるで俺のことロックオンでもしたかのように指の先を向けられて、俺は形容しがたい感情で、胸の奥の方が熱くなっていた。


 そして、それと同時にずっと気になっていた疑問がポロリと漏れ出た。


「……なぁ、なんでそんな理想的な兄妹を目指そうとするんだ?」


「?」


 どこか心の奥から漏れたような俺の言葉を聞いて、美優は小首を傾げていた。


 俺はきょとんとしている美優に分かるように、少しだけ考え直してから少し言葉を変えることにした。


「確かに俺は理想的な妹は欲しいけど、美優がそこまでする理由ってなくないか?」


 ずっとどこかで気になっていたこと。


 美優が理想の兄妹を目指す理由というのが分からなかった。


普通ただ兄が欲しかっただけで、ここまで行動を起こすことができるだろうか?


 美優が求める理想の兄妹像を目指すというバイタリティー。


 その根幹にあるであろう何か。それがなんなのか、俺には分からないでいた。


「お兄ちゃんに甘やかされたいって思うのは、変なことかな?」


「いや、もっとイケメンだったりすれば別だろうけど、俺だぞ?」


 可愛い妹が欲しいように、イケメンな兄が欲しいとかならまだ理解できる。


でも、俺みたいのに優しくされた所で嬉しくとも何ともなんじゃないだろうか?


 別に自分を卑下するわけではないが、俺みたいなのに優しくされても、美優にとって良いことがあるような気がしない。


 俺がそんな返答をすると、美優は足を止めて立ち止まった。釣られるように俺も足を止めると、美優はこちらに一歩だけ近づいて、俺の顔を覗き込んできた。


「な、なんだ?」


「別に、人に影響を与えるのはイケメンだけじゃないでしょ?」


「え、影響?」


 距離が詰められて訳が分からなくなっていると、美優は悪戯でもするかのような笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「それに、お兄ちゃんは顔悪い方ではないと思うけど?」


「なっ」


 からかうような笑みなのに、頬の熱とその熱を微かに帯びたような瞳が、美優の言葉の全て嘘ではないように思わせていた。


 正面から顔を覗かれるようにそんな言葉を言われて、俺は一気に体の芯が熱くなったような感覚に陥っていた。


 当然、見つめ合うようなこの状況で、そんな変化が表情に出ないはずがなく、美優は余裕のあるような顔でくすりと笑っていた。


 たまに見せる大人びたような表情。そんな顔で見つめられて、俺は何もできずにただ美優の瞳を見つめ返すことしかできないでいた。


「あれ? 美優じゃない。あっ、春斗君も一緒なんだ」


「え? あ、明美さん、それに父さんも」


 そのまま澄んだ瞳に吸い込まれそうになっていたとき、かけられた声の方に視線と意識を持っていかれた。


 すると、そこには家の前に止まったタクシーと、明美さんと父さんの姿があった。


「おう、春斗。いや、偶然駅であってね。一緒に帰ってきたんだよ」


 父さんはこちらに小さく手を振りながら、俺たちに視線を向けると、少し驚くように目を見開いていた。


 おそらく、俺たちが一緒に下校してきたことに驚いているのだろう。

 まぁ、父さんたちが出張に行く前は距離のある兄妹だったのに、出張から帰ってきたら、その二人が一緒に下校してればそんな反応にもなるか。


 そんな父さんの反応に対して、明美さんは俺たちの距離間を見て、意味ありげに口元を緩めて小さく笑っていた。


「春斗君、事件は解決したかな?」


 そう言われて、美優がおかしくなったとき、明美さんに電話をしたことを思い出した。


 確か、あのときは美優が急におかしくなったと思って、少し気が動転していたんだよな。


 そして、なんで急に美優の態度が変わったのかというとーー。


「……いえ、未解決ですね」


 美優が理想的な兄妹を目指す理由。その理由は、未だ分からないままだった。


 そして、なんであの日に素の美優を俺に見せてくれたのかも。


 いつかその理由が分かる時が来るまで、この理由は迷宮入りとして扱うしかないみたいだ。


 果たして、解決できる日が来るのか。


 正直、それは未来の俺に頑張ってもらうしかないだろう。


 こうして、両親たちが帰ってきたこともあって、美優との二人きりの生活はそっと幕を閉じたのだった。


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