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妖怪の世話係

作者: ポメ柴

個人名、団体名等、作者が想像上で付けたものです。

同名の方がもしいらしたとしても、全く関係ございません。

「…………困った、困った……」

 消え入りそうなそんな声が最初に聴こえたのは、いくつの時だっただろうか。

 ここは現代日本。東京の隣県にある駅前の某大きめスーパー店内。

 


 目の前で困っているのは明らかに人間じゃない存在。

 人じゃないけど御仁(ごじん)としよう。

 店内の他の人には存在が認識出来ないようで、誰もその御仁に目を向けない。


 (からす)天狗。

 山伏の格好をしてカラスの頭部と翼を持つ、天狗の中では少し小柄な種類の妖怪である。


 本気で困ってそうだから一応声をかける。

「あの〜、何かお困りですか?」


 言い忘れていた。私にはちょっとした力が使える。

 それは妖怪を手助けするための特殊能力と言ったところか。

 妖怪がらみの時だけ使用出来る。

 そしてその力の種類は多岐にわたる。(ほぼ制約付き)

 今回は店内の防犯カメラ映像や店内の人に不審に思われないための二十秒の時間停止。この術は一度発動すると次に使えるのは六時間後である。

 さらに言うと、時間停止の範囲が広がると使える秒数が減る。

 今の場合はスーパーの中だけだから基本の二十秒。

 普通に生活してれば二十秒くらい、いきなり本来の時間に戻っても誤差で済む。


 ちなみにこの二十秒を超えると一秒毎にペナルティが課せられる。

 世の(ことわり)をねじ曲げるんだからペナルティは仕方ないけど、時間延長が私のせいじゃなくても、なぜ私が払わにゃならん!?ここは声を大にして言いたい。

 THE 理不尽!




「おお!……?人か?ワシが見えるのか?助けてくれるのか?」

「見えますし、私はそれがお役目なので手助けしますよ。ただし、今は人の目を誤魔化す術の発動中で、もう直ぐ効果が切れます。私に着いてきてもらえませんか」

「あい分かった。よろしく頼む」



 残り二秒、セーフ!

 は〜、話がすんなり通じる妖怪で良かった……。

 たまにすんなり行かないのがいるのである。


 目当てだったヨーグルトのコーナーへ行って一つ手に取りレジへ向かう。

 烏天狗氏は……よしよし、ちゃんと着いてきてるな。

 ……え! 若干泣いてる!?

 涙ぐんでるのを見なかったことにして、会計を済ませて店を出て防犯カメラも人気(ひとけ)も無い場所へ向かう。



「さて、この辺りでいいでしょうかね。まずは初めまして。私は困ってる妖怪の皆さんをサポートしております、遠野さくらと申します。”普通”とは少々違うかもしれませんが人です。何に困ってらっしゃるのでしょう?」


「”さぽおと”とやらが何か分からぬが、手を貸してもらえるのであろうか?」

「はい、左様でございます」


「では早速なのだが、天狗の総大将様にこれを買ってこいと言われてな、ワシには同じ物が見つけられず、途方に暮れておったのだ」


「こ、これは……グミですか。冬限定と書かれた商品なので、確かに今は売られてないでしょうね。しかし天狗様はこんなお菓子も召し上がるんですか。そうですか」


「おう。少し前にな、我らの山で迷子になった女童(めわらわ)がおって総大将様が気まぐれで人に化け、直々に助けてやったらお礼だと言って渡されたらしいのよ。一つ食してみたら、いたく気に入られたようでなぁ。ワシは京のお山を降りてから四方八方探し回ったのだが、力及ばずこの有様……」


「京都から関東まで……。なるほど、それは大変でしたね。同じものは残念ながらご用意出来ませんが、違う味のものでしたら買えますよ」

「うむ、そうか。ならば仕方がない、それを持って行こう。では済まぬが、これでワシの代わりに買ってはもらえぬか?現在の人の世の作法が分からんので教授願いたい」


 と渡されたのは見たことがないお札。

 んんん?漢字が書いてあるけど……一圓?


 コレって一円札!?話には聞いてたけど、こんななのか!初めて見た!


「あ〜……誠に申し上げにくいのですが、今このお金はほぼ使われてなくてですね……」

「やや!小判のほうが良かったか!」

「あ、いえ、小判でもないので、今回は私が買いますよ」

「そうか、それはかたじけない。そうしてもらえると助かる」

「では、これから参りましょう。念の為に姿を隠して着いてきてください」

「あい分かった」



 こうして無事買い物が済んだ。



「遠野殿、誠に助かった。礼を言う」

「いえいえ、お役に立てて何よりでございました」

「それはそうと、今後困ったことがあったらどうしたら良いものか……」

「でしたらこの近所にある『雪やなぎ亭』にお越しください。私はそこで働いておりますので」

「雪やなぎ亭とは?」

「喫茶店という業種で昔で言うところの茶店(ちゃみせ)です。店内でお茶とお菓子をいただけるようになっておりますので、何かございましたらお訪ねください」

「承知した。遠野殿も何か困ったことがあったらワシが手を貸そう。世話になった」

「はい、お気をつけて」




 それから数日もしないうちに烏天狗さんが総大将さんとともに雪やなぎ亭に相談に来ることになる、とは予想していなかった。




 終




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