第五話 近寄れない
ひっ 条件反射的に声をあけそうになった自分の口を両手で塞いだ瞬間 ぴくりと殿下の肩がわずかに動いた。
ーーー気づかれた。いや、何も隠れてセミ室に入る必要もないし、気づいても気づかれなくてもどちらにしても王族には挨拶しなくては不敬にされるのだが、それでも殿下に嫌われている身としてはこっそりひっそりと着席したかったのだ。
しかし、気づかれたからにはすぐに挨拶しなくてはならない。ただちに。迅速に。疾風魔法のごとく。
私からの挨拶なんて、殿下には不愉快以外の何ものでもないのだろうけど。
私は開けたドアから1歩教室にはいると、その場で殿下の背中に向けて制服のスカートをつまみ片足を引き、学園内なので略式ではあるけれども丁寧な礼の形をとった。
「セレスティナ・サラガスです。失礼いたします。」
礼をとったあと、殿下より3列ほど斜め後ろの長机の席に座った。
ここならリンザール王子のお目を汚すこともないはず。
と、最善を尽くしたのにっ。
「ん、なんだ 早いな。私が最後か。」
黒髪の頭をぐわしぐわしと掻きながら、メガネ教師のサーザク先生が教室に入ってきた。
「あ?なんだ。お前達やたら離れて座ってるな。サラガス嬢、おまえのために開いたゼミだ。もっと前に座るように。」
と言いながら、殿下の横1つ空けた席を指差してくる。
いや、そうですけどね、先生。
この前話した私の黒歴史聞いてました?
聞いてたなら気を遣ってくださいよ。
私が殿下の隣に座ったら、殿下はゼミをやめたいとおっしゃるかもしれないじゃないですか!
(空気読んでください)と口をパクパクしてサーザク先生に目配せしてみた。
「ん?あぁ、そうか。私としたことが。」
そうそう。やっとわかって...
「おまえ達は婚約してるんだから、1つ席空けることもないよな。ほれ。隣に座れ。」
ちがーう!!
隣なんて座ったら私を嫌う殿下から、氷魔法が吹き出し瞬殺されるかもしれないじゃないの。ううう。
でも、確かにこのゼミは私がセンセにお願いして開いてもらったゼミ。他に受ける生徒がいないのに後ろの席に着くのは失礼かもしれない。
1つ空けて座れば殿下もまだ許してくださるかもしれないし。
そう思い殿下の隣の隣の席に座ると、それまで黙っていた殿下がはっとしたように、ガタンッと席を立った。
「王子どうされました?」
持ってきた書物と薬草を教卓に並べながらサーザク先生が殿下ににこやかに聞いた。
「......っ。なんでもないっ。」
リンザール王子は顔を片手で覆い、静かにまた席に着いたが、サーザク先生がゼミでの注意事項を説明する間ずっと私から顔を背けていた。
そんなに近くに座られるのが嫌だったのかな。
うん。わかってる。私が過去に殿下に嫌われるようなことをしたのが悪いんだもん。
でもやっぱり。誰かに拒絶されるというのはチクリと心が痛む。
だからこそ!このゼミでサーザク先生から学び、アレを作り上げなきゃ!
うん、頑張ろう。
待っててね。殿下。アレさえ作ることができたなら、殿下の意に沿わないこの婚約をなかったことにできるはす。
私、がんばるからっ。




