第二話 冷たい王子様
そう!私が今日ここに先生のゼミへの入室をお願いに来たのには、とても大事な理由がある。
顔を上げて熱い視線でサーザク先生を見上げる。
(ん?)
先生に視線を送る私に、さらに横から視線が送られてくるなぁと目の端で確認すると、さっき思わず握りつぶしそうになった金色の魔法ネズミがこちらをじっと見ていた。
しかし、今はそんな小動物の動きに気を取られている場合ではない。
ここで先生のゼミに入室できなければ、私の人生が終わってしまう。
私はぐぐい!と机から身を乗り出して先生に懇願した。
「考え?それはいったい...」
メガネ教師、サーザク先生が眉を顰め若干ひきながら言ったとき、研究室の扉が、ばあぁぁん!!と開いた。
「サーザク講師。」
!!
私の背後にある研究室の扉から聞こえた声には聞き覚えがあった。
思わずビクン!と背中が震える。
「これは、これは、リンザール王子。
我が研究室に何かご用でしたか?」
サーザク先生が簡単な礼をして、机を横切り扉側へと歩いていく。簡単な礼をとったのは、学園に通っている間は王族といえども生徒という立場なので、本来は先生は礼をする必要はない。だから王族への正式な礼ではなく、簡単な礼をしたのだろう。
そう、扉を開けた人物は王族だ。王子様だ。
そして私の黒歴史の『キスまち』の相手、リンザール第一王子だ。
「ひっ!」
思わず背を向けたまま震えた声を出してしまい、慌てて自分の口を塞いだ。マナー習ってる王子様なら扉をノックしてよ。
「............。」
その私の声と同時に一瞬研究室内の空気の温度が下がった気がした。あれ?なんで??
いや、何でではないんだろう。おそらく、リンザール第一王子がこの研究室に私がいることに気づき、さらには聞きたくもない私の声を聞いてしまったがために気分を害してしまい場の空気がさがったのだ。
そう、私はあの日、私の人生が詰んだ『キスまち』の日から彼...リンザール王子に一方的な無視をきめこまれているのだ。
ああああ、だけども!センセがいる前であからさまに態度で示さなくても!だって私達は...
「ああ、立ち話もなんですから、貴方の婚約者殿もちょうどいらっしゃることですし、座ったらどうです?」
.....サザーク先生が言う貴方の婚約者とはリンザ様の婚約者、そう、つまり『私』のこと。
あの日、事故とはいえリンザール王子の初キスを奪ってしまった私は、あれよあれよという間にリンザール王子の婚約者の座に据えられてしまった。
もちろんリンザール王子と私の意思とは関係なく。
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