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第一話 『キスまち』




「な、なんてことを...!!」


「責任をとらなけれはなりませんね、伯爵。」



 ザワザワと観客の大人達が大騒ぎする中、私はキョトンとした顔で1階の最前列に座る自分の両親と、二階の特別席から身を乗り出して勝ち誇った顔をする豪奢な服を着た夫婦をかわるがわる見ていた。


「ああああっ!なんてことをしてしまったんだ、セレスティナ!」


 真っ青な顔で震える私のお父様、サラガス伯爵。

 一体何がどうしたのだろう?

 隣にいるお母様は泡を吹いて倒れてしまい横にいた公爵夫人が支えてくださっている。その横の優しげなおじさま、アルガンダル公爵様はあちゃーとでもいいたげに片手をおでこに当てていた。

 あまりの大人達の焦った様子に、私は一体何をしてしまったの?とだんだんこわくなってきたとき、頭を抱えて絶望した顔をしているお父様の震える声が聞こえた。


「あああ...、なんてことだ!

 リンザ様に、リンザール第一王子様に、キ、キスしてしまうなんて......!!」


 王子様?


 キョトンとしたまま後ろを振り向くと、綺麗なブルーアイを見開き口元を抑えわなわなと震えている金髪の美少年がいた。



◇◇◇




「......ということがあったのが、約10年前、5歳の時の貴族学院幼稚舎のお遊戯発表会の時のお話です。」


 それまで話を聞いているのか聞いていないのかも怪しかったフラスコを持ったメガネ教師が目の前でガタンと盛大に斜めにこけた。


「おまえな。それって幼児といえど不敬罪......」


 傾いたメガネを直しながら、呆れた表情でセンセが振り向く。


「し、知らなかったのですよ!

 幼稚舎の先生に、お姫様役は怪我をして倒れた騎士に祝福のキスをおくって騎士が目を覚まして、実は騎士は隣の国の王子様で2人は結婚してハッピーエンドな劇だよって言うから!」


「で。ほんとにキスをしてしまったと?

 騎士役をしていた本物の我が国の王子様に。」


「だっ、だから知らなかったのですよ!

 キスのふりだけでいいなんて、誰も言ってくれなかったし!お父様やお母様に寝る前におやすみってほっぺたにチュッてするアレを口にすれば良いのかーって。」


「王子様の口にチュッとしちゃったわけか。」


「うう、もう勘弁してよ。」


 教師に対する敬語さえもう出ず机にうつ伏せる私を呆れた目で見ながらパラパラと生徒会の集計ノートを開く黒髪の教師。


 彼は幼稚舎を出てから他国に留学し成人してから、この国の貴族学院に赴任してきたため、全学年が知る、いやもしかしたら国中が知る私の過去の大失態を知らない。


 幼稚舎からエスカレータ式で進学する貴族学院で、この私の黒歴史を知らない唯一の人物だったのだけど、


「生徒達がおまえを『キスまち』とコソコソ呼んでいる意味がようやくわかった。初めて聞いた時は『キス待ち?どんなビッチだ』と呆れたが、本人はビッチどころか...いや、すまん。なんでもない。」


「そうですよ。センセはっきり言っていいですよ。どーせ私はビッチどころか見るからにモテない地味令嬢ですよ。『キスまち』というのも、キス待ちならぬキス間違えのほうのキスまち、ですよ。ううう。」


 涙ながらにうつ伏せている私の目の前を通った金色の可愛らしいネズミを思わずはしっと掴んで両手でぎゅうぎゅう抱きしめていると、ネズミがキュウッと鳴いた。そのネズミの尻尾を摘み上げ、私から遠ざけたメガネ教師が盛大にため息をつく。


「こら。魔法ネズミを離せ。魔法ネズミは学園に住む益獣だぞ。握り潰すな。

 しかし、呆れてものも言えんほどだが、それが何故、俺のゼミの入室希望理由になるんだ?」


「そんな線のような目で呆れながら見ないでください、サーザク先生。

 ちゃんと理由があって入室をお願いしているのです。」



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